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 狭い廊下で立ち回るには、短い棒が一番適していた。


 刃も付いていないだたの棒だけれど、その棒身は魔力を纏った私の力にも負けない程強固で、人間の骨くらいなら簡単に砕けた。


 それも当然。これは対魔獣用の武器であり、急所を覆う固い鱗を砕くための物。


 人間くらい柔らかいと、加減をせずに振るえば場所によっては今みたいに簡単に殺せてしまう。



 人殺しが平気とは言わない。彼らは私を殺そうとしているのだし、これは正当防衛よ。


 何度も魔獣を倒し、止めを刺してきたけど、人間は今回が初めて。


 こんなにも柔らかいのかと、その脆さに驚く。


 仮に今、私が私を攻撃すれば、肉体強化してたとしても、私を殴り殺すのはそう難しくない。



 それほどこの一撃は重い。



 私は廊下を走り回り、向かってくる敵を片っ端から殴り倒していった。

 もちろん手加減なんてしている余裕はない。


 股間目掛けて棒を振るい急所を潰し、腹に突き刺した状態で横になぎ倒した。足払いで倒れた敵を刃物で切り付け、そうでなければ、頭を頭蓋骨が割れる程の力で殴りつけた。


 敵は皆、私よりもはるかに大きく巧みに魔法を操る者ばかり。けれど、彼らは私に手も足も出せず、一人また一人と動けなくなっていく。


 どうしてこれほどの差が生まれたのか。理由の一つはもちろん、私の持つ魔法具の効果。


 ありとあらゆる攻撃を防ぐお守りは、この戦いにおいて、もっとも重要な役割を果たしていっても過言じゃない。


 二つ目は私がカラスであるという点にある。


 カラスと常人の違いは二つあり、一つは魔力の高さ。もう一つは魔力の高さ故の魔力耐性の高さだ。


 カラスは常人よりもはるかに高い魔力を持ちそれに伴って魔力耐性が高い為、より強力な肉体強化が施せるという利点がある。


 魔法が使えないという不利は、魔法具が補ってくれている。


 今の私に死角はない。







 徐々に私の元に人が集まり出した。一人ずつだったのが、二人、三人と一度に襲ってくる。


 屋敷の一階、かつてはサロンとして使われていた、ガラス張りの部屋に飛び込んだ時だった。

 私は庭園を背に、5人の敵と対峙していた。


 私が魔法を掻き消せるのはすでに知られているらしく、それでも、直接攻撃をも防ぐとは思っていないのか、敵はそれぞれ、刃物や釘が生えたこん棒などを片手に、じりじりと攻めよってきた。



 本当に残念ね。

 魔法具(これ)がある限り、誰も私を傷つけれないのに。



 背後にバラバラと足音が聞こえてくる。

 目を向けるとガラスの向こう側で三名か、四名程がやはり武器を構えている。


 逃げ場をなくしたかったのね。


 私が背後に視線を向けた刹那、男が私を目掛けこん棒を振り上げた。大きな男が持つ大きなこん棒だったけれど、思いの外素早くて、私は反応が一瞬遅れてしまった。


 避けようと後ろに飛び退いたが、それよりも早くこん棒が私を捕えた。



「ぐうっ」



 私はガラスを突き破り、庭園に吹き飛ばされた。唯一男の誤算は、私が頑丈過ぎた事だと思う。


 私は背後を固めていた敵よりも、さらに遠くへ飛ばされた。受け身を取りつつ転がり落ちる。


 素早く態勢を整えつつ、両手に持つ武器を大きく振り回すと、落ちた所を狙った敵が二人、私の武器の餌食になった。

 彼らはすねを割られ、悲鳴を上げて蹲る。


 私は再度敵に向けて武器を構え、ニヤリと笑みを浮かべた。




「あれがお姫様の動きかよ」



「訓練を受けてるってレベルじゃねえよ」



「ああ、戦い慣れているな」



「見ろ。あの娘、傷一つ付いてないぞ」




 これで、完全に魔法具の効果がばれてしまったわね。


 けれど、私には傷一つ付けられないと諦めてくれそうにはない。

 となると、今度、追い詰められるのは私だ。


 というのも、今の攻撃でブローチの魔法具に少しヒビが入ってしまった。


 これまで私は、物理攻撃は避けてきた。食らったのはこん棒の、この一撃だけ。

 けれど、この魔法具は決して物理攻撃に弱いわけでない。どれだけ強い攻撃だったとしても、どちらも等しく跳ね返してくれる。


 ただ繰り返される攻撃には弱かった。ただそれだけの事。



 気付かないで欲しいのだけど。どうかしら。




「はあああああ!」



 大きな刃を持つ槍が、私に向けて振るわれた。

 それと同時にどこかしらから、大きな破裂音が聞こえる。


 私は目に見えない衝撃を受けよろめいた。

 痛みはなかったけれど槍を避けきれず、仕方なしに棒で槍を受ける。



 敵の強みは、何といっても数の多さだ。


 槍を受け止めた私に再び何かが衝撃を与え、いつの間にか屋敷から出てきた彼らの仲間が、左右から私に刃を振り下ろす。


 私は槍を弾き敵を蹴飛ばし、背後の敵の頭上を飛び越え距離をとった。



「弱い女の子に、寄ってたかって卑怯よ!大人なら正々堂々勝負しなさい!」



「仲間を何人もやっといて、今更何ぶってんだよ!?」



――ダンダンダン――



 続けざまに衝撃が三回。今度は見えた。屋敷の三階から銃を向けている人物がいる。



 銃は特別な許可を持っている者のみが携帯を許された武器だ。


 魔法も満足に使えない、非力な子供でも簡単に他人を殺傷できる点と、日常で一番の脅威である魔獣に銃が効かないどころか、固い皮膚が弾丸を弾き周囲にいる人間に当たる事から、厳重に管理されているのだ。


 ちなみに私に当たった弾丸も跳ね返ってどこかしらに飛んで行っている。仲間に当たったらどうするつもりなのかしら。


「あんな物使って。もっと仲間を大事しなさいよ」


 私が剣を振るえば


「あんたに言われたくないな!」


 敵が受け止め流し、横から別の敵が刃物を突き刺してくる。


 敵の猛攻は止む所を知らず、私はそのすべてを受け流せなくなっていく。魔法具のひび割れもどんどん増えて、このままではいくらも持たないかもしれない。


 焦りが表情に出てしまった。

 余計な事を言うんじゃなかったと後悔してもすでに遅い。


 真っ先に違和感に気が付いたのは、槍のリーチを生かし矢継ぎ早に攻めている女だった。


 最後の一突きを私に交わされると、一度女は距離を取った。私を恐れたのではないのは明白で、興奮して血走った眼を二っと細め、黄ばんだ歯をむき出して笑う。



「あいつはどうして、攻撃を避ける?すべて弾くなら避ける必要ない、よな?」



 仲間に確認するように問いながら、槍を景気よく振り回した。


 魔力の渦が起こり、槍自体が風を纏う。味方が彼女から距離を取った。



「もしかして、その便利な玩具、そろそろ限界なんじゃない?」



「そう思うならやってみてよ。そもそも、その槍が私に届かないのなら、関係ないけれどね」



 内心は酷く焦りながら、敵に見せる不敵な笑み。


 けれど槍使いの女が、強がりかしら、なんて言いながら突進してくるあたり、あまり効果はなかったみたい。


 魔法を纏った物理攻撃。気合を入れ直す必要があるみたいね。



 私は限界まで魔力を高めた。

 



 






 

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