表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/64

41

「あの時、アイナをさらった奴らは、気を失ったアイナを連れて転移魔法を使って逃げたんだ。だから俺はとっさにアイナに自分の映し身を付けて、その気配を追ってここまで来たってわけ」



 映し身とは魔法で作った精霊の様なもの。

 自然界に存在する精霊と良く似ているけれど、時間をかけて生み出される精霊に対して、映し身は魔法で一瞬にして生み出され、その分とても脆く弱い。映し身は生み出した人に依存し、性能なども人により変わってくる。

 私はアートの映し身はどこだろうと辺りを見渡した。けれど、それらしきモノはどこにもいない。アートが呆れ気味肩すくめ、唯一ある窓を指さした。


 目を凝らして良く見ると、窓の鉄格子に何かが隠れている。白くてぼんやりとした光を放ち小さい。随分と恥ずかしがりやな写し身だ。

 そういうことならと、私はそれ以上触れず話をもとに戻した。



「ここは……王都から遠いの?」



 わざわざ写し身の気配を追って来ているのだから、決して近くはないだろうと思った。そして案の定、アートが深く頷く。



「王都の西にある海の側だ。崖の上に立っている、立派な屋敷だったよ」



 王都から西の海といえば徒歩ではもちろん、車でも一日はかかる距離だ。それに崖の上と加えれば、私の記憶に引っかかるものがある。



「私をさらったのって、たぶんエグモンドおじ様の手下たちよね?」



「たぶんな。同じ覆面を持っているやつがいたから、仲間だと思う」



「もしかしてこの屋敷、屋根は青い瓦じゃなかった?」



「そうだった気がする。後は広い庭に鳥を型どった花壇があって、噴水はあったが使われていなかった」



 特徴的なものはそのくらいだ。アートは言う。


 間違いない。ここは先王の別荘だ。

 お父様のお父様が使っていた屋敷で、お父様やエグモンドおじ様は子供のころ何度も訪れているはずだ。先王がなくなっているのに加え、最近は老朽化を進み取り壊しが決まっている。

 私自身は一度も行ったことがないけれど、知識としてお父様から聞かされた屋敷が丁度そんな感じだったはずだ。

 代替わりをするたび、王は自分の別荘を建てる。もちろんお父様の屋敷もある。アートと出会ったあの森の別荘がそう。

 昔、お父様が王だけが持っている隠し通路まで全て載っている、完全な地図を見せてくれた事があった。この屋敷だけでない。現存するすべての屋敷の見取り図をだ。

 秘密の通路を使わないとは言い切れないと、お父様にすべて覚える様に命じられて。もちろん反発心もあった。取り壊し予定の屋敷まで覚える必要があるのかって。今となってはお父様に感謝しかない。


 私の記憶が確かなら、この牢屋の近くにも入り口が隠されている。



「よし、手錠が外れた……立てるか?」



 器用に金属だけをとかし、手錠がベショっと金属らしからぬ音を立てて床に落ちた。アートが私の脇に手を差し込み立たせてくれる。



「ありがと……」



 気遣ってくれているのは解るのだけれど、立たせ方が若干子供扱いな気がするのよね。けれど親切にしてくれている殿方に恥をかかせないのができる淑女よね。確かマンナがそんな事を言っていた気がする。

 


「ここの見張りは?いないようだけど」



「幻覚を見せて席を外してもらった。多分今頃仲間も巻き込んで、良い夢を見てんじゃないかな。でも確かに時間はないか。早く逃げよ」



 なるほど。だから、ずっと見ないのね。


 アートは私の手を引いて牢を出ようとしたけれど、私は待ってと言って引き留める。爆薬を仕掛ける為だ。

 腕の内側に貼られた薄いフィルムを剥がすと、中には極小ながらも石を破壊できる程の威力の爆薬がある。それをフィルムごと格子の反対側の壁に張った。




「それ何?」



 アートは興味津々だ。子供が新しい玩具を見つけた時の様……ではなく、すごく真剣な目つきだ。

 アートは私が剥がして初めて、そこに仕込まれた何かに気付いたのだと思う。

 というのもこのフィルム、特殊加工されていてどこに貼っても周囲と同じ色に同化し、存在を知っていないと見破るのは確かに難しい代物なのだ。

 我が国の技術の粋を集めて作られたもので、まだ一般的には知らされていない最先端の技術。貴族はおろか、いくら国内外の物を手広く扱う商人であってもそうそうお目にかかれる代物じゃない。

 アートが驚くのも無理はない。



「爆薬よ。何かあった時に爆破出来る様に」


 私はこともなげに言うと、気のせいか、アートが纏う空気が冷える。

 これを使えば、例えば、私の脱走をうやむやにできるかもしれないし、そうでなくてもかく乱か囮に使えるはず。

 私の説明に頷きはしたものの、アートの表情はますます険しく、握り合う手にも力が入る。痛くはないけれど。



「他にもあるのか?こういう爆薬みたいなものが」



「あるわよ。私ってカラスでしょう? 魔法具とかないと魔法使えないから、護身用にいくつか体に仕込んでいるの」



「危険はないのか?その、いきなり爆発とかは?」



「大丈夫よ。ただの爆弾じゃないわ。見て」



 私はたった今フィルムを剥がした腕をアートに見せた。そこには黒い文字の羅列が記されている。魔法を扱うアートは、これが何を意味するのかすぐに気が付いたようだった。ほっとして息を吐く。


 これは爆薬といっても、火薬を使っているのでなく、魔法で爆発を起こす魔法具だ。間違えて私が爆発させない様にフィルムを剥がした後でないと発動しないし、剥がした後も皮膚に残された術式に魔力を込めないと爆発しない。


 細かな魔力調整ができない私では、爆発の規模を調整できないので、威力はあらかじめ決められているが、同じ、けれど威力の違う爆薬がもう二個、私の体に隠されている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ