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 エグモンドおじ様の手下たちは、きっと私たちを追ってきているはず。過激派もこのままはでは済まない気がする。どれだけの追手がかかっているのか。

 町の数ヵ所に放たれた火の手は徐々に広がりを見せ、人々が逃げ惑う。そんな中を私とアートは北へと急いだ。



「そっちの道は火が回ってる!戻れ!」


 回り道を余儀なくされ


「押さないで!」「こっちじゃなくてあっちだ!」「これ以上は入れないから!」


 火事から逃れる為、川へ逃げ込む人の群れに押し潰されそうになりながら、私たちは人々の間をすり抜ける。

 人ごみに揉まれ離れてしまうかと思われた手は、引き剥がさんとした力に逆らいさらに強く握り合う。

 アートも私も一言も喋らず、握り合う手の温もりだけを頼りに進んだ。


 敵はやはり私を諦めてはいないようだった。


 逃げている途中、黒装束の者が襲ってきたのをいち早く察知しのは、探索魔法を展開していたアートだった。

 アートが魔法で敵の動きを止め、生まれた数秒の隙に私が拳を打ち込み膝に横から蹴りを入れた。

 さらに続けて、新手が二人同時に襲いかかってくる。

 私は一人目に蹴りを入れた後、流れるように右の死角から襲ってきた敵の顔面を、利き手とは逆、左手で掴みそのまま壁に叩きつけた。敵も抗い私の腕を掴む。けれど、私からすればさほど問題にならない程度の力でしかない。

 全身に張り巡らせた魔力は、私を剛腕の小人に仕立てたわけで。例えば大人が幼児と組み合ったとして、腕力の差というのは埋められないのと同じだ。

 私の有利は変わらないけれど抵抗されると煩わしい。私は頭を押さえる手に一層魔力を込めた。


――ミシッ――


 骨が音を立てて軋む。敵の抵抗が弱まった所に腹に蹴りを入れ、ようやく敵は大人しくなった。

 反対側の敵はアートが魔法で弾き飛ばしていた。こちらは私と違い、一撃で意識を失ったようだ。興奮してかアートの息が荒い。


 敵を撃退し、私たちは一応は難を退けたとはいえ、まだ安心とはいかない。否応なしに緊張感が高まる。

 そんな状態で私が冷静でいられたのは、たぶんアートのおかげ。彼がいるから、私は安心して目の前の敵に集中できた。

 そしてやっぱり、初めの襲撃から間をあけず、私達はまた黒装束の者たちに襲われたのだった。

 もちろん、その度私とアートで返り討ちにしたけれどね。



「怪我は?どこか痛む所は?」



 アートは襲われる度私を心配して、私の体を隈なくチェックした。

 レディの体を、頭のてっぺんから足の先までを手で触り、私の反応を見ている。


 多分私が怪我を隠していないか、見てるんだろうけど、正直アートでなかったらセクハラを疑うところよ。


 もしかしてアートって私の事、まだ子供だと思ってるのかしら。

 まさかよね。歳は同じでも見た目は同じだからって流石にないわね。アートも子供相手にキスはしないだろうし。


 …………でも待って。あの時は私たちが急に喋らなくなったら、敵も死んだと思ったのよね?


 という事は、アートは初めからそれを狙ってキスを?


 子供相手だったとしても、非常事態でそうするしかないって思い込んだのかも。背は腹に変えられないっていうし。

 生きるか死ぬかだもの。


 それにさっき、屋根から降りる時も、子供みたいに抱き上げてた……


 あれ?ちょっと待ってちょうだい。


 私すっかりアートに好かれている気になっていたけど、本当は違う?


 ただの勘違いで……自惚れていただけ……好きでも何でもないとか、だったり、して?





「……大丈夫か?」



「大丈夫に決まってるでしょう!?」



 しまった、つい大きな声を出してしまった。


 勘違いしていたなんて知られたら、恥ずかしいなんてものじゃないわ。



「そ、それなら良いんだ」



 平常心を保たなくてはね。



「大声出してごめんなさい、ちょっと考え事してて。あなたこそ魔法を使いっぱなしだけど魔力切れを起こしてない?」



「うん、まだ平気」



 アートが感触を確かめるかのように、何度か手を握る。顔色も良い。痩せ我慢をしているでもないよう。


 へぇ、凄いわね。

 これなら魔法師としても十分に活躍できそうだし、私のこ……護衛としてはまだ力不足だけど、悪くはないのかも知れないわね。



「顔が赤いけど、今度は何を考えてるんだ?」



 私の顔を覗き込むアートはにやついた笑みを浮かべている。


 何か言い返そうとは思った。

 だってこんな時にふざけてからかって緊張感がない、気が緩んでしまうじゃない。けれど私も人の事いえないし、アートに私が何を考えていたかなんて言いたくなかったので、ぐっと堪え



「 何でもないわ。先を急ぎましょう」



 取り急ぎ真剣さを装う。

 だけれどつい、眉間に皺を寄せてしまった。これじゃ怒ってるように見えたかもしれない。



「ん? あぁ……そうだな」



 アートがなんともいえない表情で、頭を掻いた。





 五度目の襲撃を受けた後だった。


 黒装束の者達はどうしても私を諦めるつもりはないらしい。

 私は彼らが仲間を連絡を取り合わない様に、その都度自由を奪いその場に転がしていった。もちろん彼らは意識を失っていたのは確認した上でだ。


 何度も繰り返していると、自然と気のゆるみも出てくる。五度とも黒装束だった。なので次があるとすれば、また黒装束だろうと思い込んでいた。私もアートも。


 火事から逃げる人々の中に混じった、エグモンドおじ様の手下たちに気が付いた時のは、すれ違いざまに口をふさがれた後の事だった。対応がすべて後手に回る。


 私は自分で思っている以上に、守られている事に慣れ過ぎてしまっていた。





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