24.5
アイナの部屋を後にした国王であるアーロは、城の廊下を自身の職務室へ向かっていた。
その途中、弟のエグモンドが廊下に立っていて
「兄上」
声をかけてきた。
「姫君の様子はどうだった?久しぶりの親子水入らずだったんだろう?」
「ああ、思ったより元気そうだったよ。子供というのは、アッという間に大人になるな。赤ん坊だったのが、ついこの前だったと思っていたのにな……」
「特に女性は大人になるのが早い。アイナは血の制限をして見た目が幼く見えるから、余計にそう思うんだろ。もう止めさせたら良いのに。何故?必要か?」
「必要だよ!あれが成長し、美しいと知られれば、世の男たちが放っておかないだろう!?」
「兄上……本気か?」
はっきりと断言するアーロからは、冗談とは思えない程の気迫を感じる。弟として付き合いの長いエグモンドは、兄の気迫から本物を嗅ぎ取り、引き気味に言った。
「半分は、な」
「半分も本気なのか?これじゃアイナが、こそこそ隠れて恋人を作るはずだ」
エグモンドが溜息を吐く。アーロはフンッと、鼻を鳴らした。
「何とでも言え。私はあの子を守る為なら何だってする……そう、何だって」
だた一人を除き、すべての子が死んだ。三人いた側室は全員実家に下がらせ、王妃ともアルテム以降子をもうけてはいない。
アーロからほとばしる並々ならぬ怒気は、エグモンドにも痛い程理解できた。エグモンドもまた、子を持つ父なのだ。
子の為なら修羅にだってなれよう。
「それは……そうだな」
エグモンドはフッと笑みを零した。
「久しぶりと、兄上とお酒でも飲みたいな。今晩はどうです?」
「お酒は飲まん、それに今夜はお客人を迎えなきゃいかんのでね」
「だからじゃないか。今夜なら私も城に滞在するし、その後に飲めば良い。兄上はどうして……酒は神が世界に与えた宝だ。楽しまずしてどうする」
「確か……世界の珍味探訪記の一節だったな」
「兄上も好きだろう?」
「本はな。あれに載っていた、サンローンダ産のブドウジュースなら好きだ。あれをグラスに注げば、どんな宝石だにだって勝る。まさに宝というべき逸品だ」
「確かに絶品だが、酒ではないだろう?」
「だから、酒は好かんと……」
エグモンドが肩をすくめた。
「では、私も姪を見舞いに行こうかな」
「ああ、その事なんだが。今は止めた方が良い」
「なぜ?」
「寝てるんだ。あれの寝顔はまだ……誰にも見せるつもりはない」
「…………」
婚約者がいる身に何を言うのか。エグモンドの顔が雄弁に語る。
「何だ?その顔は」
「いや、何でも……では、兄上。安全確認が済んだ、とのことなので、私はこれで失礼致します。お客様を迎えに行ってまいります」
「くれぐれも頼んだぞ」
何せ、相手は執拗なる英知神大陸の大国、サフェンスの大統領閣下なのだから。
エグモンドが重々しく頷いた。




