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 夜も更け、てっぺんを越えようかという時分だ。


 顔を真っ赤にした男がふらつく足取りで、人通りもまばらな、住宅街へと続く道を歩いていた。



 やがて木々が密集して生える茂みを見つけると、覚束ない足取りで、木の影に入った。

 おもむろにスボンのチャックを下ろすと、ジョボジョボと水音を立てる。


 めっきり寒くなり、暗くなるのも早まった今日この頃。人は足早に薄気味悪い林の前を通りすぎていく。

 誰も茂みの中で、用を足す男の事など気にも止めていない。


 やがて通りから人の気配がなくなると、男はそのまま、茂みの奥深くに入っていった。



 茂みの奥には、他にも人影があった。



「こんな危なげな場所で、何をしてでさ」



 男が言った。



「カグヤヒメを探してる」



 男とも女ともつかない不思議な声だった。


 カグヤヒメとは主に春から夏にかけて現れる虫で、発光するメスに、オスがエサを渡し、メスが受け取る事で、カップルが成立するという習性を持つ。

 ただ正式名称をアオコトロルディといい、カグヤヒメは俗称だ。


 俗称といったが、この国ではその知名度も低く、使う者もほとんどいない。

 この珍しい呼び名に、男は疑問も持たずスルリと答えた。



「この時期にですかい?夏になれば、そこの小川にもたくさん飛んでましたけど、もう、いないんじゃねぇですかねぇ」



「オキナに言えばもらえると聞いたのだよ」



「……オキナって……何ですかい?」



 男はそう言いつつ、男はポケットから手を抜き、拳を広げながら



「展開」



 男の拳から文字の羅列が、男を中心に広がっていく。それはあっという間に二人を包むと、膨張を止め、パッと散るように消えた。



「して、首尾は?」



 相手が、文字の羅列が消えるのとほぼ同時に言った。


 男は小さく笑った。せっかちな相手を笑っただけでない。

 今のからも察しがつくかもしれないが、この人物は短気だ。失敗したと報告して無事でいられるのか、考えるだけで、男は笑うしかなかったのだ。



「失敗しました」



「なんだと?またか?」



 この期に及んで。相手が独り言の様に呟いた。

 いや、本当に独り言だったのだろう。男は身を強張らせたが、特に何もないと知ると、ふっと体の力を抜いた。



「して、お前は何をしてたんだ?まさか何もせずボーッと見ていたのではあるまいな?」



「待って下さい!目標は達成できませんでしたけど、でも、護衛の数はほぼ特定できました!見える位置に護衛が常に3人!それから、隠れている護衛が最低一人います」



「なるほど…………確かか?」



「姫がどこに移動するにも侍女と護衛が付き添ってました。それに加えて姿を消している護衛は今日の騒ぎで姿を表したので、常に傍に控えいると考えて間違いないかと。個人的な意見を申し上げても良いなら、そういう想定で動くべきと考えます。ただ、煙が発生した時、直ちに姫を避難させるなどの動きはなく、姿を見せた時、姫自身も驚いていました点は少々気になりました」



「いるとこを知らなかったか、あるいは姿を見せてはいけないからか……」



「どうしますか?仕掛けますか?」



「そろそろ大海に漕ぎ出したいと思っていた。そうだな、我々に……国を明け渡してもらうとするか」




 ニヤリと笑う相手につられ、男も鼻を膨らませて笑みを浮かべた。



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