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 エグモンドおじ様にお城まで送ってもらい、そこで私を待っていたのは、お説教でも感動の包容でもなく医者の診察だった。

 煙の中に立っていたという報告を、すでに受け取っていたらしいマンナが手配していたようだ。


 私をベッドに寝かし、侍女に指示を出す。医者に連絡をして、全ての侍女を下がらせた。淡々と作業をこなすマンナは逆に新鮮で、私は圧倒され無言でベッドに横たわっていた。


 きっとこの後、報告会が開かれるはずだから、今の内に状況を整理しておかなくては。


 ネイノーシュを見てたら、たぶん煙がモクモクってしてきて……ネノスの方に異変はなかった様に思えるけど……

 ……そういえば、アートは剣より魔法が得意なのかしら。それとも危なくない様に、剣を持たされなかったのかしら。




 私の心臓がヒヤリとした。




 剣を持つという事は、対象に接近しなくてはいけないものね。その分怪我を負う事も多くなるでしょう?



 大事な体に傷かつかない様大事にされてきたのかしら。剣を振り回すなんでスキルは王子なら重要でないだろうし……剣を持ってよろめいたのはそういうわけで。


 厳しいトレーニングなんてとんでもないと、過保護にされて……いいえ、そんなはずないわね。


 だって髪が黒い時もネノスは魔法を仕えたじゃない。相当な訓練を積んできたはずよ。



 そうよ、アートは王子じゃない。きっと、違う。



 

 違う……違う……違う……違う……王子は絶対ネノスであって、アートじゃない。アートはきっと私の兄弟であって、王子じゃない。違う……違う……




 私が考え込んでいると、突然、マンナに声をかけられた。

 その時すでにお医者様はおらず、室内にはベットの私を見下ろしているマンナのみとなっていた。



「ジージールは?」



 私は体を起こしベットにもたれ掛かる。


 今日の話をするのであれば、彼は不可欠だ。何せ、私がぼうっとしている間の事を、克明に覚えているはずだもの。寧ろ私の話はなくても困らないのじゃないかしら。


 マンナが部屋の角に目をやった。



「そう……では後で彼から話を聞くと良いわ。私は……疲れたから寝て良いかしら?」



「かしこまりました」



 自分でも分かるくらい素っ気ない態度。普段のマンナなら、それだけで姫らしくと説教が始まるのだけれど、マンナは表情をピクリとも変えず、声に抑揚もない。逆に気味が悪いくらい。



「では姫様、一つだけお聞かせください」



「何かしら?」



「どうしてすぐに逃げなかったのですか?」



 やはりという気持ちしかなかった。

 ジージールにも叱られたし、マンナも聞いてくるんじゃないかと思ってた。だって親子だもんね、この二人。似てるのよ。



「なんだ、もう聞いてたのね。仕方ないじゃない。だって、私の役目なんだもの」



 バカ正直にアートを見つめていて、気付かなかったと言えるはずもなく、だからといって、ネイノーシュを眺めていてというのは、嘘が過ぎる。


 なら、そう言うしかないじゃない。エサたる私は敵の罠にかかってこそ真意を持つと。


 だからといって完全に嘘というわけじゃない。常日頃からそういって聞かせてきたんだもの。


 いつもの事。いつもの返答。


 けれど、マンナはそうじゃなかった。


 マンナは目尻をキッと吊り上げると、珍しく声を荒げた。



「そういうのは、聞き飽きました!」



 声が震えている。これでも我慢していると言わんばかりだ。

 私は呆気に取られ、背中を浮かした。



「あれほど、ご自愛をとお願い申し上げましたのに、どうしてでございますか!?」



「だって、それが私の役目でしょ?もしかしたら、この後、敵が現れるかも知れないって思ったら、動けなくなったの」



 敵を引き付ける為、苦しむ演技をするべきかとも考えた。でも、本当に死んだらどうしようとかは考えなかったな。


 たぶん、昔そう言われたからかな。




「命に関わるような場面では速やかにお逃げ下さい。以前も申し上げたじゃないですか。国王陛下も王妃様もそれを望んでおられると…………」



「あら、それは違うわ」



 そう、私は知っている。


 ちゃんと聞いたもの。あの二人の本心を。


 実際に、この耳で。


 あの人が教えてくれたから、ちゃんと知ってるの。





「お父様もお母様も犯人が捕まる事を望んでいるのよ?私、間違った事言ってる?」



「ですが……」



「マンナ?」



 マンナが言いかけたのを、被せて止める。私にも譲れない物がある。



「私は、間違っているかどうか、を、尋ねているの。答えて」



「それは……間違っておりませんが、でも……」



「ね?そうでしょう?なら王女たる私の役目はそれを捕まえることよ。何も違わない」



「姫様、姫様のおっしゃる事は間違っておりません。ですが、真実でもございません」



「どういう事?」



「国王陛下は、貴方の為に犯人を捕まえたいとお考えなのです。姫様の御身あって、初めて陛下の望みなのです」



 何も言えなかった。肯定も否定もできず、私は何も言わず、頭から布団を被った。



「そんな事あるはず…………」



 言いかけて、きゅっと唇を噛む。



「マンナのバカ……」





 誰かが私の傍でため息を吐いた。







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