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見つけた場所は、訓練場を見下ろせる位置にある、訓練所内の建物の二階だった。
その部屋の窓から訓練場全体が見渡せる。
本館の二階と外通路で繋がるその建物の一階は、普段控え室として利用し、簡単な治療が出きるようになっている。けれども、二階は特に使い道もなく、物置になっていた。
しかも一階には兵士が控えているという油断からか、特に侵入者対策などはなく、単純は鍵がかけられているだけ。
なので、私も単純な方法で部屋の中に入る。どうやるかというと…………
「ふん!」
私はドアノブを握り絞めると、力任せに捻りもぎ取った。
私のようなカラス羽は魔法が使えないとされているけれど、正確にいえば、魔法が使えないのではなく、魔力のコントロールができない。
なので、繊細な魔力コントロールが必要な魔法は非常に難しく、鍛錬を積みようやく魔法具を壊さない様まともに扱える、というのが大抵の人の限界だ。
極まれに非情なまでの鍛錬の末、魔法を扱えるようになる人物もいるけれど、目指す者は殆どいない。何故なら、どれだけ訓練したところで、せいぜい常人の域に達する程度なので、別の道を模索した方が現実というのが理由。
カラス羽にもメリットがないわけではない。
例えば、魔法具などはコントロールせず、ただ大量に魔力を込めるだけで、100%の力を引き出しやすいし、魔力を蓄えられる魔石を使用して利用する、魔力消費が多い魔法具類でも、自分の魔力だけでまかなえたりもする。
もちろん、それだけの魔力を保有しているが故の苦労もある。
普通ではありえない程の魔力が体に蓄積される結果、体を蝕み、昔なら短命だった。それを防ぐ為、定期的に魔力を放出する必要がある。
その方法の一つが、私が常に身に着けている一対の腕輪だ。
これは私の魔力を吸い取り貯めておくための魔法具で、貯めた魔力で筋肉を増強させたりもできる。
ちなみに私がドアノブを捩じり取れたのは、もちろんこの魔法具のおかげ。
「ふう……」
室内は埃っぽくて、多分だけど、長い間誰も出入りしていない。だからってこれは不用心すぎるわよね。簡単すぎるもの。
私はポケットから取り出したハンカチを口に当て、ソロリソロリと足音を立てず窓へ近寄る。
窓も埃塗れで、そのままではネノスを探すどころか、景色を望むことさえできそうにない。
私は埃で雲った窓ガラスを持っていたハンカチで拭いた。
窓を開けるのは、さすがにやり過ぎよね。
あくまでもお忍びで恋人の雄姿を眺めに来ただけ。窓を開けるなんていう、見つかりやすい行為は、少なくとも初めの内は避けるべき…………だとは思うのだけれど、中だけじゃなくて、外も汚いからどの道、綺麗に見えない。
練習場の片隅で、ネイノーシュが刃を潰した剣を持ち、相対する兵士に頭を下げる。ちょうどこれから模擬戦を行うらしい。
彼の実力を知れる良い機会だ。
「あ……」
そういえばと、私は持っていた荷物の中から眼鏡を取り出しかけた。眼鏡のつるの部分を持ち、魔力を注ぎ込むと、淡く光り出す。
これは遠くのものを見る為の道具で、遠くから覗く時はとても便利な代物。もちろん倍率も変えられるけれど、私の場合魔力調整が上手くはないので、必ず手で眼鏡を触る必要がある。
これでネイノーシュの実力をしっかり見ておかなければ。
そう思ったのに、気が付けば、私は近くのどこかで控えているはずのアートを探していた。
「いた……」
訓練場の端、壁の所。手に持っているのはタオルかしら。
ネノスが剣を振るう度に体がビクッとなるのね。戦いというものになれていないのかしら。
私なら守ってあげられるのに。頼ってくれれば良いのに。
現実的に無理だなの刃解っていても、私はつい想像してしまう。
私がいて、隣に彼がいて。襲置い来る魔獣をなぎ倒す。
魔獣を退け疲労する私に、彼が労りの声を掛け、優しく抱きしめてくれるの。
それから彼は魔獣に引っかかれた傷を、魔法で治療してくれた後、綺麗に治ったかどうか確認する様に撫でてくれるだけど、指先が肌を這う感覚にゾクリとして、私は…………
「ダメ!これはとても不味いわ」
これ以上の妄想は私にとって悪影響以外の何物でもない。アートと私は兄弟なのだから、例え妄想でも超えて行けない一線がある。
私はネイノーシュに視線を戻した。
ネイノーシュが剣を構える。真剣な面差しで恰好も様になっており、撃ち合いも悪くない。寧ろ王子様としては十分すぎるくらい。
となると、普段から訓練をしていたのでしょうね。
…………厳しく、育てられてきたのかしら。私と……一緒、だったのかしら。
白い髪を凪かせて、経験不足は否めないが、決して悪くはない型通りの件を振るう。体格もネイノーシュの相手をしている兵士と比べてもそれほど見劣りしない。
万が一の事があった時、自分の身は自分で守るくらいはできるかもしれない。
私個人としてはうっかり死んでしまっても構わないのだけどね、そうなるとお父様とお母様が悲しむから……これはとても重要な事なの。




