在りし日々に捧げる小夜曲
目を閉じればいつだってあの頃に戻れる。
あの頃私達は完全で無欠で、怖いものなんて何も無かった。
世界が広いことなんて知らなくて、目の前にある退屈な日々こそが世界の全てだった。
同じリボンとスカートにお揃いのカバン。
ただの学生服、ただの記号。
けれどもお揃いの学生服は、私たちにとって揺るぎない絆。
同じ服を着て、同じ道を歩く。
毎日、毎日。
雨の日も風の日も、二人で歩けば笑いは絶えない。
私があなたの一番で、あなたが私の一番で。
あなたの隣に私がいて、私の隣にあなたがいて。
それが私の世界の全てーー。
壊れてしまったのはいつだっただろう。
壊してしまったのは誰だっただろう。
目を閉じればいつだってあの頃を思い出す。
あの頃私達は不安定で歪で、いつも何かに怯えていた。
同じリボンとスカートにお揃いのカバン。
だけど学生服はもう同じじゃなくて。
スカートの長さ、重ねたカーディガン、カバンに付けたストラップ。
ほんの少しの違いが、すれ違う二人を浮き彫りにする。
同じ服を着て、同じ道を歩く。
毎日、毎日。
違うのは隣にあなたがいないということ。
晴れの日だって、一人きりでは笑えない。
変わって行くのが怖かった。離れてしまうのが怖かった。
あなたが望む答えを探って探して。
あなたの好きと私の好きが重なるように、仮初めの同じを造り出す。
間違うのが怖かった。嫌われるのが怖かった。
だけど何より怖かったのは、私に巣食った嫉妬の焔。
あなたと隣で笑うのは、私の知らない世界の誰か。
ただ楽しく一緒に笑っていたいだけ。今はそれが、こんなにも苦しい。
あなたの一番だと思えない私なら、この世界のどこにも要らないというのに。
もう一度振り向いて欲しいと願う私は、愚かでしょうかーー。
忘れてしまったのは何故だろう。
忘れてしまいたかったのは誰だろう。
目を閉じてみても、もうあの頃の風景は戻らない。
年々朧げになる記憶は、私から思い出を奪って行く。
楽しかった思い出も、悲しかった思い出も。
全て等しく、無情に私から奪って行く。
私の心を焼いた嫉妬の焔も、今は穏やかに、ほんの少しの苦しさだけを残して消えてしまった。
ずっと忘れたいと思っていたあの人も、もう思い出すことすら叶わない。
白いベッドの脇には小さな窓がひとつ。
すっかり皺だらけになった私の手に差し伸べられる、もう一人の皺だらけの手。
差し伸べられた手を取って、私はゆっくりとその手の先を見る。
私の隣にはいつだってあなたがいた。あなたの隣には私がいた。
今の私達は不完全で足りないものばかり。
だけど怖いものなんて何も無い。
世界がどんなに広くとも、目の前にある小さな幸せこそが二人の全てだと知っているから。




