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白の蛍  作者: すずしろ
7/7

流れ星と君の詩

 この日の恵のその後のあったかもしれない配信は見ていない。どういう気持ちで見たらいいのかが分からなかった。

 女性経験が皆無の士郎にとっては、付き合うというそれがいまいちどういったものなのかが分からなかった。意味としては勿論理解しているし、どういった事をするのが一般的なのか、というのは今まで読んできた小説やら漫画やらドラマなんかで大体の理解はしているが。

 いざ、それが自分のする事となるとさっぱり何をしていいのか分からなかった。

 ごった煮の感情の処理が出来ない士郎は、PCに向かいブラウザゲームを立ち上げる。一先ずこの感情の整理は気持ちが落ち着いてからしよう、と考えたのだ。



 その頃の恵はと言うと――



「あっ、ごめん! 行動忘れてた!」



 後でなにかすると言った言葉通り再び生放送をしているのだが……先ほどのやりとりの事もあってか、普段ならばしないようなミスを連発していた。

 コメントでは『調子悪い?』や『大丈夫?』等のコメントが流れてきてそれが恵の目に入る。普段が上手い分、仕方の無いことだろう。



「んー……ごめんね、皆。今日ちょっと調子悪いみたい。この辺で終わりにするから、短いけど見に来てくれた人はありがとね」



 そう言って、恵は生放送を終わらせる。最後に流れてくる労りの言葉にほんの少しの罪悪感を覚える。PCの画面を落として大きなベッドに身体を投げ出して枕に顔を埋めた。勢いに任せた告白だったが、互いの気持ちは同じで片想いではなく、付き合いをする仲に発展することが出来た。


(でも……いざお付き合いってなるとどう接したらいいか分かんないよ……!)


 枕に顔を埋めたまま、転がりながら声にならない声を上げる。恵もまた、士郎と同じで恋愛経験がなかった。陽に当たる場所へと出る事の難しい体質は、一般的な日常を送る事を許さなかったのだ。

 小学生位の歳の頃は十分な対策をした上で外へ出ていた事もあったが、同じ年頃の子供たちは、彼女の見た目を見て心無い言葉を浴びせた。

 そんな事があって塞ぎ込んでいた時期に、士郎と出会い、ほんの少しの時間だったが言葉を交わし、遊んだ。それだけだったが、自分を否定すること無く接してくれた士郎の事追うようになった。

 とは言うものの、士郎との接点はその時の一瞬だけ。中学からは家庭教師と通信制の学校に通う事になった。高校に入る頃から両親は仕事に忙殺されだし、小さな頃から仲の良かった楓とその辺から二人で暮らし始めた。とは言っても、数日おきに楓の両親が様子を見に来るので本当の意味で二人暮らし、という訳でもない。

 ちなみに、恵がゲームや小説の世界に惹かれ始めたのは中学生の辺りだ。それからというもの、家の中で有り余る時間を小説とゲームに費やした。それの延長線で興味本位で行った生放送が、今となっては大人気生主となってしまったのだが。

 枕から顔を離して、それを抱きながらゴロンと転がった後にお風呂に入ろう、と考えた恵だったが時間はとっくに日付を跨いでいた。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 あれから一週間。二人は何をすることも無く、平々凡々と日々を過ごした。士郎は普段と同じようにアルバイトをして、恵は普段通りに生放送をしていた。あの後も士郎は隆広や悠に弄られていたが、それも適当にあしらっていたら、飽きたのかいつの間にか話題に出されなくなっていた。



「士郎、知ってるか?明後日辺りから流星群のピークらしいぞ」

「あー……そんな事確かにネットで言ってましたね……」

「おう、ちなみになんで俺がこんな事言ったか分かるか?」



 そう言って隆広は士郎の方を見る。これは回答を間違えると不味いパターンだと分かってはいるのだが……応えが思いつかない。あまり長く考えていてもいけないので、そういう時に言う答えは一つだ。


「……分からないっす、すんません」


 素直に回答を聞く、だった。そんな士郎に、隆広はひとつため息をついてから、回答を教える。


「前に士郎に会いに来たあの娘と一緒に見に行ったらどうだ? ってわそういう意味で言ったんだよ……お前恋愛経験無さそうだしな、間違ってたら悪いが……合ってる?」

「あ、合ってます……」

「なんというか……よくそんなのであの娘と彼女になれたな」


 隆広が呆れ声でそう言うと、士郎は驚いた様子で、


「え、タカ先輩、恵と何か話したんですか?」

「ん? ああ、士郎が休みの時にぐうぜんあの娘が来たんだよ。今日はお休みなんですか? ってな。随分と寂しそうだったから士郎の休みの日を教えたら、それはもうニッコニコでお礼を言ってくれたんだよ。これで彼女じゃないならなんなんだ?」



 自分が休みの日にそんな事があったのか……と驚いていると、隆広から絶対に誘えよ? という、圧が飛んでくるので一も二もなく士郎は首を縦に振った。


 今日のバイトが終わると、士郎はネットで流星群の情報を確かめる。確かに、明後日辺りからが流星群のピークらしい。折角見るのなら、星のよく見えるところがいいと考え、そこでピンと来た。


(俺と恵が初めて出会ったあそこなら……よく見えるんじゃないか?)


 今も変わっていなければ、あそこはほぼ人の手が入っていない山の中だ。麓ではなくそれなりに上の方の為、星もきっと見えやすいと考えたが、交通の便に関してはお世辞にもいいとは言い難いので、必然的に車で行く事になる。これについては遠方でイベントがある時等はレンタカーを使って移動していたりしているので、問題は無い筈だ。

 場所も聞けば教えてくれるだろうし、いざとなれば文明の利器を使えばどうとでもなるだろう。目下の問題は、恵をどう誘うかだった。


 家に着くまでに、あれやこれやを調べつつPCの画面の電源を入れる。通話アプリのウィンドウは立ち上げっぱなしなので、そのまま恵がオンラインかどうかを確認する。するとアイコンの右下のランプが緑色なのでどうやらオンラインのようだった。

 画面と睨み合いをしながら、士郎は文章を書いては消してを繰り返す。それを繰り返してはや数十分。我ながら情けないと苦笑しながら、今までで一番シンプルな文章を作り上げた。後はエンターキーを押して送信するだけだ。

 士郎は、覚悟を決めてそれを送信した。



『明後日辺りに流星群がピークらしいんだけど、一緒に見にいかないか?』



 後は恵の返事を待つだけだ。士郎は一息ついていつもの如く、複数のブラウザゲームを立ち上げる。しばらくすると、ピコンと通知音が鳴る。隠れていた通話アプリのウィンドウを上に出して確認すると、



『ぜひ行きましょうっ、誘ってくれてとっても嬉しいですっ!!』



 それはもうテンションの高い返事が返ってきた。断られずに良かったという安堵の気持ちと共にこれからの予定を伝える。



『なら、予定がないのなら明後日に見に行きたいんだけど大丈夫か?』

『大丈夫です、その……私も誘うつもりでしたから、流星群を見に行こうって』



 恵の返信にクスリと微笑み、キーボードで素早く予定を打ち込んで返信する。



『そっか、わかったよ。場所は俺たちが初めて出会ったあそこで考えてるけど、いいかな? 車は俺が運転するから安心して』

『はい、大丈夫ですっ。それにしてもロマンチックですね、初めて出会った場所で流星群を見るって』

『そう言って貰えると考えた甲斐があったよ。当日の集合場所はそうだな……黒風として初めて会った時のあそこでいいか?』

『はい、何時くらいに行ったらいいですか?』

『あそこからだとスムーズに行って一時間ちょいって所のはずだから、二十時位に居てくれればいいよ』

『おっけーですっ、明後日楽しみにしてますね!』



 ここで会話を終えて、士郎は席を立つ。そして、軽く体を伸ばしてから夕食の支度をするのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



「みんな、今日もやってくよー!」


 いつもよりも少し高めの、機嫌の良さげな声で恵は生放送を始める。コメントで『いい事あったの?』『今日はご機嫌だね』なんてコメントが流れてきて、それを見た恵は、


「えへへ、分かっちゃう? そうだよ、いい事あったんだー」


 勿論、内容自体は秘密だ。下手な事を言えば生主としての活動はおろか、実生活にすら悪影響が出かねない。匿名の情報社会では悪意のある人間はどんな事だってしてくる。それを理解しているからこその自衛手段として、恵はゲームの事以外は自分に関する事を殆ど喋らないのである。


「今日は素材が足りないから、限定クエストの敵を部位破壊しながら回そうかなって考えてるよ! お手伝いしてくれる人はよろしくね?」



 そう言って、大人気狩猟ゲームを起動させて、マルチプレイ用の集会所を作る。かなりの種類のゲームに手を出しているが、とりわけ恵はアクションゲームが好みだった。

 数十秒としないうちに、集会所の定員である十六人が一瞬で埋まる。だが、一パーティの人数は四人まで、一回では当たり前だが終わらない。

 とは言っても、恵の目的のアイテムが必ず出るとも限らないので、何人集まろうと問題ではなかったし、あくまでも最優先がそれというだけで、必要なアイテムは他にもまだまだあった。


「一回私と一緒にクエストに行ったら、他の人の為に部屋を空けてあげてね、お願いっ」


 その言葉に、視聴者達がコメントで答えると同時に恵はクエストを始めるのだった。


 それから二時間が経ち、数十回のクエストクリアを経てようやく必要分が揃った恵はグッと体を伸ばした後に、


「んー……っ! やっと必要分揃った! みんなありがとね!」


 そんな喜びの声に『おつ』や『おめでとう』等の労いの言葉が飛ぶ。


「じゃあ、今この部屋に残ってる人達と一緒にクエストに行ったら、この枠は終わり! 次は……うーんお風呂に入ってから元気があったらやるかも! 時間はいつか分からないかなー」



 そう言って、残っていた部屋のプレイヤーとクエストをこなしてから、恵は軽く挨拶をして生放送を終える。椅子に凭れかかり大きく息を一つ吐いてから席を立つ。

 部屋の扉を開けて一階に降り、そこでコーヒーを飲みながら休憩している楓に声をかける。



「楓、お風呂の用意お願いしていいー?」

「中々いいタイミングですね。私がついさっき入ったばかりなので、それでもいいのならすぐにでも入れますけど」

「うん、それでいいよ。そういうの気にしてないって分かってるでしょ?」

「これでもお嬢様のご両親に雇われてメイドをしていますので」



 楓がそう言って軽く微笑む。恵もそれに釣られてクスリと笑みを零す。そして、少し間を置いて楓は、


「良かったですね、お嬢様。あの時の王子様が見つかって」

「ふぇっ!?」

「顔に書いてありますよ?」

「うそ!? 顔に出てた……!?」


 動揺して自分の顔をぺたぺたと触る恵を見て、楓は楽しそうな表情で、


「冗談ですよ、顔には出てないです。何日か前にお嬢様のお部屋を掃除する時に、いつもなら切られているPCの画面が付いていたので、それを消す為に近づいた際に画面を見たら……それはそれは楽しそうに会話をしていた様子が見て取れたので」

「み、見られてた……!?」


 恵は顔を真っ赤にして自分の書いた文章を思い起こす。だが、楓はそれに追い打ちをかけるように少しの苦笑を混じらせ、


「まぁ……お嬢様がどういう事をしているかとかは大体把握していましたが。あれは驚きました。勿論、いい意味でですよ?」

「ま、待って!? 私がどういう活動してるか知ってるってほんと!?」

「ええ、偶に声が漏れてますし……というか、そう出ないと深夜に働いているメイドって何ですか、ブラックもいいところです」



 そうでしょう? と、聞いてくる楓に恵も納得しかかっている間に、楓の姿が何処かに消えていた。

 隠し事のバレた子どものような気持ちで恵は服を脱いで湯船に浸かる。いつの間にか沸かし直してくれていたのか、恵が入る頃には丁度いい温度だった。

 リラックスした息を吐いて、体の疲れを湯の中に溶かす。そんな恵の頭の中は明後日の事で一杯になっていた。


(楽しみだなぁ……)


 彼女の小さな笑い声は、浴室の中に溶けて消えていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 二日が過ぎて、約束の星を見に行く日。士郎はあまりにも緊張しているのか、普段よりも早い時間に起床する。その上で眠気も来ないので、仕方なくベッドから出てPCを付けてオンラインゲームを起動する。今の時間なら朝にメインで活動をしている人達がいるだろうと思いながら、非公式サーバーでマルチプレイが出来ないか尋ね、飲み物を取りに行く。

 数分の後に戻ってくると、何人かから返信が来ていたのでグラスに取ってきたミルクティーを注ぎながら、約束の時間までの時間を潰すのだった。




 一方の恵はというと、昼手前まではぐっすりと眠っていた。夜型の人間なのでいつもと変わりないとも言えるが。

 寝ぼけ眼を擦りながらベッドからゆっくり降りると、今日の服をどうしようかとクローゼットの中の服をじいっと覗き込みながら考える。

 数分間の睨み合いの末に決めたのは、白に近い水色のブラウスと白のロングスカート。

 勝負服とも言えるそれを着て、問題が無いことを確認すると、一階に降りてから楓に頼み、髪のセットをしてもらう。普段ならば天地がひっくりかえっても頼まないようなそれに楓は驚いた後、分かりました。と短く答えてセットを始めた。



「気合十分ですね。お嬢様」

「当たり前でしょ? 今日出さないならいつ出すの?」

「ですね。今日の夜は快晴ですから、きっと見れますよ、流星群」

「うんっ……って、私その事楓に話してないと思うんだけど……」

「お嬢様が気合を入れて服を選んで、私に頼んでまで髪のセットをさせるんです。きっと王子様とどこかへ行くんですよね? で、今日の大きなイベントを推測すると、流星群を見に行くのかな……と思ったんですよ」



 楓はそう言いながら髪をくるりくるりと器用にセットする。そんな楓に恵は感心するように呟く。


「楓には何でもお見通しだね」


 その言葉に、恵には見えないが笑顔で答える。


「お嬢様が分かりやすいだけですよ」




 マルチプレイをして、時間を潰していた士郎が画面の時計を確認すると、いつの間にか正午を過ぎていた。それに気付いたからなのか、遅れて空腹のサインが自分の腹部から発せられる。

 クエストも無事にクリア出来たので一旦区切りをつけて、パーティを解散する。昼食に関しては何も考えていなかったので、残っていたパスタを茹でる事にした。その途中で悠が帰ってきたようで扉が開く音がした。



「おっす、珍しいじゃん昼の時間にちゃんと昼ご飯食べてるなんて」

「まだ作ってる途中だけどな」

「作ったんならすぐ食べるんだから変わんねーだろ?」

「そうとも言うな」


 そんな軽口を言い合いながら、ごく自然に悠に伝える。


「あー、そうだ。今日は夜帰ってくるかわかんねぇわ。ヴィルって休みだっけ?」

「んや、仕事だけど……あ、なるほど。ま、頑張りなアル」

「ん? それ、どういう意味だ?」

「わかんねーならそれでもいいよ、アル」



 悠は楽しそうに笑いながら、冷蔵庫からエナジードリンクを引っ張り出して自室へと戻っていった。

 パスタを食べてから、車のレンタルの電話を入れて時間を確認したがまだまだ余裕がある。どうしようかと、考えても特に何も思いつかなかったので、士郎は再びオンラインゲームを起動して時間を潰す事にした。



 ソロプレイで素材を集めたりしながら時間を確認すると、借りに行くには丁度いい時間になっていたので、早速向かうことにした。

 その道中で、思い出したことがあったので通話アプリを使って恵にメッセージを送る。



『すっかり忘れてたんだけど、夕飯どうする?』


 そう送って数分もしないうちに恵からの返信が帰ってくる。


『私も考えていなかったので……コンビニで何か買ってきて貰えれば嬉しいですっ、お金は後で払いますから』


 そんなメッセージが返ってきたので、近くのコンビニで適当に何を買おうかと考えていると、追加で私はタラコのおにぎりが好きです。と送られてきたので、クスリと笑いながら恵の要望に答えるのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇



 恵は、少し早く待ち合わせ場所に着いて時間をこまめに確認している。二十分は前なので流石にまだ来ていないよね……と思っていると、



「あれ……もう来たのか?」

「はい、待ちきれなくて」

「そっか、なら早めに行こうか。恵」


 恵は、はいっと笑顔で答えると扉を開けて助手席に乗る。すると、フワリと花の甘い香りが士郎の鼻腔をくすぐる。

 それに、気合を入れてきたと言わんばかりのファッションが目に入り、士郎は恥ずかしさで目を合わせられないものの、


「その……綺麗だ、恵」

「……えへへ、ありがとう。士郎君、頑張った甲斐があったよ」


 見えずとも恵の笑顔が士郎にはわかった。士郎は誤魔化すように、買ってきていたコンビニのおにぎり達を袋毎渡す。自分の分も入っているので、欲しい分だけ持って行ってくれ、と言うと、しばらくして返ってきた袋の中からはタラコのおにぎりが二つ無くなっていた。


 士郎の運転する車は高速道路に乗って、かつて二人が出会った場所での近くに辿り着く。

 あらかじめ連絡を入れておいた士郎の祖父の家の近くに車を止めて降りる。



「ここまで来ると、空気が澄んでいて星空がよく見えますね」

「そうだな、天気もいいしこれで流星群を見る事が出来たら言う事なしだ」

「大丈夫ですよ、きっと見れます」



 恵がそう言うと、士郎もそうだな。と答えて頷く。


「ここからは少し歩くけど……その服で大丈夫か?」

「はい、大丈夫ですけど……ちゃんとエスコートしてくださいね?」

「任せてくれ」


 士郎がそう言って、改めて恵を見ると心臓がドキリと跳ねる。

 月光が彼女の白髪を煌めかせ、夜の中に浮かび上がるような白い肌と薄水色のブラウスと白のスカート。そして、紅玉のように紅く、優しい光を見せる瞳。

 士郎は、初めて出会ったあの時と同じ感覚だと、直感的に思った。


「さあ、行こうか恵」

「うん、お願いします。士郎君」


 差し出される士郎の手を取り、恵と二人で森の中へと歩いていった。




 森の中を歩いて数分。出来るだけ人が歩ける道を選んで進んではいるが、どうしても木々の枝が遮っている所は細心の注意を払って、あの場所へと向かった。

 そして、辿り着いたのは二人が初めて出会った森の中で何故か開けていた小さな広場のような場所だった。少なくとも十年は経っている筈なのに、ここだけはまるで時間が止まっていたかのように当時とほとんど変わらないまま残っていた。


 恵は、そっと手を離すと広場の中央に行ってニコリと微笑みながら、士郎に対して問いかける。まるで、あの時のように。



「道に迷いましたか? 素敵な王子様」


 あの時は言葉が出なかったが、今は違う。


「いいえ、貴女を迎えに来たのです。お姫様」


 とびきりキザな台詞だったが、この瞬間だけは恥ずかしさなどどこにもなかった。


「そうなのですか? でしたら、私を連れていく前に一曲踊っていただけませんか? 今夜はとても星が綺麗ですから、きっと思い出に残ります」

 「踊り……ですか?」

 「大丈夫です。私がリードしてあげますから。さぁ、手を取って?」


 恵が優しく手を差し伸べる。士郎は、恵の手を取り、恵の歌に合わせて踊る。例えぎこちない踊りでも、それを見ているのは月と星と、森の木々だけだ。

 踊りが終わると、拍手の代わりと言わんばかりに一条の流星が空を横切り、いつの間にか蛍が周りを飛んでいた。


 「貴方は、私をどこへと連れて行くのですか?」

 「夢のような素敵な所へ連れていきますよ」


 士郎は笑う。それには照れ隠しもあったが、恵はニコリと嬉しそうに微笑み、


 「なら、どこまででも連れていってください。私の、王子様」


 ほんの少しだけ、背伸びをして恵が手を伸ばして士郎の顔を寄せると、互いの唇が触れ合った。

 士郎は、少し遅れて恵を抱きしめる。二人のそれを祝福するように、蛍は淡く光り、空ではいくつもの流星が流れていった。

ここから先は執筆し終えた感想です。


ここまで読んで頂きありがとうございます!この話自体は夏頃に思い立って骨組みは作っていたのですが色々なあーだこーだがあって真冬に投稿する事になりました、現実は甘くないのだ。


少ないながらも読んで貰えるというのは本当に感謝しかないです。

これから先何かが起きて筆を折る事があるかもしれないので、出来ているものは世に出しておこうかなというお気持ちでした。

まあ、余程の事が無い限り全部終わらせるか死ぬまでは筆は折らないとは思うので、これからも読んで頂ける方は末永くよろしくお願いします!


以上、珍しい後書きでした

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