僕の好きな彼女の好きな人が気になって夜しか眠れない
僕には好きな女性がいました。
その女性はいわゆる幼なじみであり、彼女にも好きな人がいるようです。
もしやと思い僕は勇気を出して告白をしたのですが
「冗談きついわ〜」
一蹴されました。
残念ながら彼女の好きな人は僕ではなかったようです。
でもめげません。今好かれて無くとも彼女の好みに近づけばいつかは振り向いて貰えるかもしれません。
彼女に好きな人や好みのタイプを聞いたのですが、一切教えてもらえません。
仕方がないのでどんな女性からも好かれる様なモテ男を目指すことにしました。
良い職に就くために勉強をして、誰もが認める会社に就職しました。
彼女を守れるように体を鍛えて強くなりました。
外見も磨きジャ○ーズの系の爽やかイケメンとなりました。
これだけ男をあげれば充分だろう、、そう思い彼女にもう一度告白をしました。
「貴方に興味がないの、どれだけ頑張っても無駄よ、、」
とこれまた一蹴されました。
それでも僕はめげません。他に手はないかと、世の女性が好む男について調べ、有名人が大好きな生き物だと知りました。
ならばと僕は今流行らしいYouTubeを始めました。
手始めにブラック会社の闇を摘発しました。
次は政治家の不正を暴き世に公表しました。
後ろ盾を失い激怒し襲ってきたヤクザも壊滅させました。
なんか日本に潜伏してたテロリストも全員捕まえました。
瞬く間に僕のチャンネルは5000万人達成。日本で知らぬも
のはもういません。これならばイケる、3度目の正直です。
「ウザい、貴方がいくら有名人でも無理なものは無理」
駄目でした、、、、、、
一体僕の何が駄目なんだ、、?
何をやっても意味ないのか、、?
僕は心が挫けそうです。
彼女に好かれる為に始めた活動ですから、もうYouTubeに興味はありません。
しかし今度の企画は有名女優とのコラボだった為、相手に悪いと思ったので仕方なく続けました。
コラボは生放送でした。その女優さんは正義感が強かったため、僕の活動に感動し、ファンになったそうでした。今回の企画は女優さんの持ち込みです。
企画の内容は女優さんのタレコミが基となっており、セクハラプロデューサーの本性を生放送で暴いて捕まえるという内容です。
プロデューサーをホテルに誘い出した後、言質を取る為に僕は隠れて様子を伺いました。
男は、とても期待した様子でした。
楽しみで仕方がないという風に口角をつりあげて、ニヤニヤしながら、ただでさえ醜い顔を更に醜く歪めています。
「もうこんな事はやめて下さい!私は貴方の所有物じゃありません!」
「こんな所に呼びだしておいて、何を言ってるんだ?覚悟を決めたということだろう?なぁに、悪い様にはしないよ」
「私、、、警察に全て話そうと思っています。もう嫌なんです。何もかも、貴方に関わる全てが」
「、、はぁ!?、、、何を言ってんだ!お前だってただじゃ済まないんだぞ!この世界に足を突っ込んだ時から分かってただろーがよ!」
「私自身の事も、もうどうでもいい!私は!人を笑顔にしたかったんだ!それが私のしたかった仕事だ!」
「これも仕事の内じゃねーか!お前にとってはよ!!」
男は激昂し、女優さんに襲いかかりました。
寸前の所で僕の動きの方が速く、突進してくる男をそのまま勢いを利用して背負い投げし、床に叩きつけました。
男は意識を失いました。
女優さんはというと、余程怖かったようで震えています。
僕が声を掛けるといきなり抱きついてきました。
「好き!私は貴方が好きなんです!」
あまりにも驚きすぎて生放送であることを忘れ、しばらく
呆然としていましたが、女優さんの告白に対して申し訳なく思いながらも答えました。
「、、、僕には好きな人がいます。
彼女は僕の人生における全てです。
だから、自分の気持ちは裏切れない
、、、たとえ貴方がどれほど素敵な女性であったとしても」
そうです。今、ようやく彼女の気持ちが理解できました。
彼女にとって僕が何者かなんて意味の無いことだったのです。
何故ならば彼女の好きな人以外は、彼女にとって全てひとしく意味のない物なのだから。
そして、それは僕にとっても同じ事だ。
なんだかとてもスッキリしました。
しかし女優さんは振られるなんて想像だにしていなかったらしく、どうすれば良いか分からないという様に暫くおろおろとしていました。
そして顔を真っ赤にしたと思ったら僕の頬を引っ張いてホテルの部屋から走り去りました。
叩かれた頬を押さえながら、僕は生放送であることを思い出しました。急ぎ画面を覗くとコメント欄はお祭り騒ぎでした。
「可哀想、、、」
「ビッチ女ざまぁww」
「プロデューサーが空気な件について」
「これは伝説に残る配信ww」
「人を嵌めようとするからだな、因果応報だよ」
「どうせ旬な男に取り入りたかったんだろw」
「最高ww」
色んなコメントが流れては消えていきます。
僕は女優さんに悪いことをしてしまったと思いながら、配信を切り、用済みとなったホテルを後にしました。
女優さんのお陰で彼女の気持ちを理解できた僕は、自分の気持ちに決着をつける為、彼女に連絡を試みました。
僕にとって一番大切な人は彼女です。伝える言葉はもう決まっています。それはとても辛いことでしたが、、
暫くの間手を組んで悩み、覚悟を決めました。
自分の気持ちの整理をする為の時間はかかりましたが、僕にとってこれは避けることのできないことでした。
ちゃんと伝えるんだ。
「さようなら、お幸せに」、、、、と
しかし電話は繋がりませんでした。
タイミングが悪かったかなと思い、これからの身の振り方を考えながら携帯をいじっていると、ふと、気になるネットニュースが目に留まりました。
[〇歳の女性が自宅のマンションから飛び降り意識不明の重体」
という見出しでした。
同じ年齢だったので気になった僕は記事をタップして読むことにしました。
死んだのは彼女でした
僕は一瞬頭が真っ白になり、動悸が激しく刻まれるのを感じると共に吐き気に襲われました。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!
読みたくない!読みたくない!読みたくない!
嘘だ!こんなのは嘘だ!認めない!絶対!
絶対に認めない!絶対に認めない!」
僕は床に膝を打ちつけましたが、それでも記事を読む手は止まりませんでした、、、、、、
記事の内容は、好きだった女優が男に振られたのを見たショックだろうというものでした。
彼女の部屋は女優さんのグッズやポスターで埋められており、パソコンに映った画面が先程の配信だった状況からの予測でした。
僕は訳が分からなくなっていました。
彼女はあの女優さんのことが好きだった、、?死ぬ程までに愛していた、、?
しかし、彼女は今更になって言うまでもなく女性でした。
なぜ?、、なんで?、、
頭では分かっています。彼女は女性を好きになったのでしょう。ただそれだけのこと。
あるいは性別など気にしない人だったのかもしれません。
ただ、僕はある一つの事実に気付いてしまい、その事実から目を背ける為に、今となってはどうでもいい彼女の恋愛観について考え、気を逸らしていたのでした。
ある一つの事実、、それは、、、、、
あの女優さんを振ったのは、、、、
あの女優さんを、振ったのは、、、、
僕だ!僕が振ったんだ!
僕が彼女を殺した!!
僕の人生の全てを!好きだった人を!僕自身が!!!
「なんで!!どうしてこうなる!!ただ僕は彼女を幸せにしたかっただけなのに!!そのためにぼくは!!すべてをかけたのに、、どうして、、どうしてだよ、、、、
どうして、、、どうしてこうなったんだ、、、、
ーーーーーーーーーーーーー」」」」」
彼女はとても言葉がキツイ人でした。
それが原因でしょうか、友達もあまりいなかったようでした。
僕と同じです。いえ、同じだと思っていました。
僕と違い彼女はとても強い人でした。
当時小学生であり、変わり者であった僕はよくからかわれたり、イジめを受けたりしていました。
その日、いつもの様に授業を受けているとクシャクシャに丸められた紙が僕の足元に転がってきました。
手に取り紙を広げて読みました。
「きもちわるい」 「がっこうくるなよばか」
「ノロマ」「めいわくなんだよ」
「くさい」 「きえろ」
悪口が書かれていました。
僕はまたかと思い、興味のない授業に集中しようと紙をまた丸めて机の隅に置き、クラス全員の悪意から目を逸らそうとしました。
、、突然悪口の書かれた紙は何者かに奪われました。
誰だろう?
少し驚きながらも紙を奪った人に視線を向けると、彼女でした。
彼女は紙に書かれた内容をまじまじと見つめ、理解したかと思うと突然叫び出しました。
「おまえら皆死んじゃえ!!恥ずかしいんだよ!!
おまえらとおんなじ人間だなんて!!おまえらとおんなじ人間だなんて思われたくない!!だから死ね!!」
雷が落ちたのかと錯覚しました。
僕だけがそう思ったのかもしれません。
しかし彼女の一喝で教室はまるで蛇に睨まれたカエルの様に怯えたように静まりかえっていました。
恐る恐る彼女の顔を見ると、彼女は泣いていました。
、、、とても力強く、美しい瞳と、涙でした。
僕も泣いていました。
、、、とても弱く、醜い涙だったと思います。
でも、なんだか胸がとても熱くて、なのに悪くない気分でした。
担任の先生も驚いて授業は中止となり、僕と彼女は職員室に呼ばれました。
その後事態を重くみた学校はクラス替えを行い、PTAにも働きかけました。
その後、いじめに関わっていた人達は面倒くさくなったのか、僕に関わろうとはしなくなりました。
そして、僕は救われました。
彼女に。
僕は彼女のことが好きになりました。
だから、今度は僕が彼女を救いたいと思いました。
なぜなら彼女はとても苦しそうだったから。
彼女が強がらず、幸せそうに笑う顔が見たいから。
「それだけが僕の、、、」
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ではでは