アンタレス
「さてと……先輩、今から起動実験を始めます!準備は出来てますか?」
「あぁ。準備はOKだ、いつでも行ける!」
やちよと再開してから数日後。
俺は今日、完成したプログラムを組み込んだアンタレスの起動実験を行っていた。
「一部操作は自動にしてますが、基本操作は先輩で行って下さい。起動は声紋認証にしてます!」
「了解。んじゃ……『アンタレス』起動!」
そう言うと同時に、各駆動部のモーターが静かに鳴り出し、モニターが外の光景を映し出す。
コックピット前面に取り付けられたタッチパネルのディスプレイに内蔵されたバッテリーの残量が表示され、女性の様に聞こえる機械的な声が、コックピット内部に取り付けられたスピーカーから発せられた。
『正規登録者の搭乗を確認。認証並びに声紋登録──完了。システム『RSA』、起動しました。』
「おぉ……すげぇ……流石はやちよだな……」
自分で作ったワンオフの巨大ロボットに乗って、正規登録者として扱われる……密かに抱いていた憧れが実現された事に、俺は密かに感動を覚える。
「起動には成功しましたか?……って、あれ?先輩?おーい、聞こえてますー?」
「あぁ……悪い悪い。ちょっと感動してな……起動は成功したぞ」
俺がそう言うと、やちよが踊り場から次の指示を出して来る。
「次は歩行の確認です、そのまま一歩、歩いてみて下さい」
「了解。確か……R-01と同じ様に作っといたから……」
ペダルを踏みながら、操縦桿を前に倒す。
すると、操作と動作のラグもほぼ無く、アンタレスはまるで人間の如くスムーズに、その1歩を踏み出した。
床に振動が伝わり、ズゥン……と重い音が鳴る。
「おぉ……R-01の時よりスムーズだし、かかる負荷も軽減されてんな……」
「そのまま、手を開閉させてみて下さい」
両方の操縦桿の上に付いた赤いコントローラースティックをカチッと押し込む。
すると、アンタレス手が握り拳の形を作り、次にスライドパッドをぐるりと回すと、親指から順に手を開いていった。
「動作不良は無し……火器管制システムも正常作動……よし、テスト終了です!どうです?これまで私がR-01を使った中で得たデータをフィードバックさせて作った、この『RSA』システム!」
「あぁ……正直ビビった。R-01の時より、さらに動きが良くなってるな」
そう言いながら、俺はコックピット前面にあるタッチパネルを操作し、コックピット部のロックを解除した。
すると、空気が抜けるような音を立てながらハッチが前へとスライドし、それから上に持ち上がった。
そして、ハッチが開き切ったタイミングでレバーを引くと、シートが前にスライドすると共に、アンタレスの手がそっとコックピット前に差し出された。
「流石、降りる時の事も織り込み済みか」
俺がその掌に乗ると、なるべく揺らさぬようにアンタレスの腕がゆっくりと動き出して、そのまま俺を階段の踊り場……やちよの近くまで連れてきた。
「……すげぇな、マジで。気分はスーパーロボットのパイロットだよ。流石は相棒」
「ふっふっふ……満足頂けたようで嬉しいです。あの時から今この時まで、ひたすらプログラミングを続けてきた甲斐が有りました!」
俺がそう言うと、やちよは小さな胸を精一杯張った。
やちよがこうする時は『褒めて』のサインである。
俺がやちよの頭を撫でると、やちよは頬を緩ませる。
「にへへ……あぁ……久々に元気が出ました!それじゃあ、私は今からもうちょっとプログラムを改良して───」
「待て待て、お前ここの所休まずにずーっとパソコンと睨めっこしてたろうが。一段落着いたんだし、飯食って風呂入って寝ろ!身長伸びねぇぞ?」
「むー……ちょっと気にしてるんですよ、ソレ……」
俺がそう言うと、身長が伸びないと言ったのが気になったのか、やちよは俺を軽く殴りつつ、パタンとパソコンを閉じる。
そして、俺達が地下室を後にしてリビングへと向かおうとした、その時だった。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
耳をつんざくようなサイレンの音ともに、放送が流れ出す。
『こちらは、マシーンフロント中央、電気管理施設兼ギルド中枢区画、バベル。これは、緊急放送です。先程、B区画に『ランクB』の『飛竜種型機怪』が侵入しました。魔道士隊は魔道具を用いて、全力をもって、可及的速やかにこれの対処に当たって下さい。B区画の皆様は、速やかにバベル、ないし各区画のギルド等、安全な場所に避難して下さい。繰り返します、こちらは────』
放送が終わった瞬間、地面がグラグラと揺れた。
恐らく、機怪が暴れ出したのだろう。
「おいおい……マジかよ……!」
「マジ、みたいですね……どうします?先輩……って、その笑顔は……もう決まってるやつですね?」
「んぁ?」
やちよにそう言われ、自分の口元に手をやる。
すると、俺の口角は自分でも気が付かないうちに、斜めに釣り上がっていたのだった。
「あぁ──マジだ、笑ってる……クク、コイツはお誂え向きだな。完成した機体と、襲って来た敵……初陣には完璧のタイミングだ」