再会
姉さんが攫われて数分後。
俺は誘拐犯を見つける為、先程の自動販売機近くの路地裏を虱潰しに走り回っていた。
「ハァ……ハァ……クソっ、闇雲に探し回ってもダメか……!」
幾ら日頃から体を鍛えているとはいえ、所詮は七歳。まだそこまで体力も無い為、一度立ち止まって息を整えようとした、その時だった。
「ヒッ……へぎゅぁっ!」
「やめっ──おわぁぁっ!」
少し遠くから、男達の悲鳴が聞こえてくる。
悲鳴の理由は何なのか、それによっては身の危険もあるのだが……俺は一度だけ深呼吸して覚悟を決めると、姉さんの手がかりを求めて、声のする方へと向かった。
ウィィン……ガシュン。
ギュイイ……ゴシャァン!
「あれは……まさか──ッ!?」
驚愕と共に、俺はその目を見開いた。
路地裏の中にある、小さな広場。
そこに居たのは、猿ぐつわを付けられ縄で縛られた姉さんと、殴られてボコボコにされた数名の男性。
そして、四メートル程まで小型化されてはいるものの、前世で作った『R-01』と寸分違わぬ見た目をした、人型のロボットだった。
「全く、女の子を攫うなんて最っ低の奴らですね……おっと、動かないで下さいね?もし動けば……この『R-01』で鉄拳制裁ですよ」
「ひ……ひぇぁぁ!で、出来心だったんです!か、金が欲しくて……そ、それで!」
R-01から、拡声器越しに少女の声が発せられる。
誘拐犯に向けた言葉が故か、声色は何処となく辟易したような物ではあったが……その声は間違いなく、やちよの声であった。
そして、やちよが誘拐犯にそう言う一方で、高額そうなスーツに身を包んだ、誘拐犯のリーダーと思わしき男は、目の前のR-01に腰を抜かしながら早口で弁明をまくし立てていた。
「……取り敢えず、何を言っても無駄ですし、どうでもいいです。私に見つかったのが運の尽きですので、さっさと諦めてお縄について下さい。強制依頼だから受けましたけど、ホントはこんな依頼受けてる暇とか無いんですよ」
そして、R-01が誘拐犯のリーダーに近付こうとした、その時だった。
R-01の後ろにある路地裏からコソコソ忍び寄ろうとしている、ナイフを持った男の姿が見えたのだ。
「おっと、アレは……放っとくとやべぇな……」
男の姿を見た瞬間、俺はR-01と男の間に向かって走り出す。
すると、急接近する俺に気が付いたか、それとも背後から忍び寄ろうとしている男に気が付いたか、R-01から声が発せられた。
「貴方、何をニヤニヤしてるんですか──ッ!?誰です!?」
「フヒャハハハッ!よォし!そのまま中身を殺れェ!」
「させるかぁ──よっ!」
忍び寄っていた男が、R-01の胸部ハッチ部分に手をかけようとする。
しかし、何とかその間に入れた俺は咄嗟に身を限界まで屈めると、男の顎に向けて体全体でアッパーを喰らわせた。
「なんだてめ……へぐぉ!」
「今だ、思いっきりブン殴れ!」
「了解──ですっ!」
「あ──ごがぁっ……!」
いくら全身全霊で殴ったとは言え、所詮は七歳の体。
ダメージこそ与えたものの気絶とは行かず、精々よろめく程度だった……が。
男がよろめいた隙にR-01から拳が繰り出され、それをモロに喰らった男は、呻き声を上げて気絶した。
「ふぅ……成程、後ろから忍び寄って何とかしようって算段でしたか……止めてくれたお陰で助かりました。──さて」
「ひ、ヒィィェ!た、助け──」
「誘拐に騙し討ち……最早、情状酌量の余地も無し……しっかりと反省する事ですね」
リーダーらしき男が言い切る前に、R-01から容赦なく鉄拳が繰り出される。
鉄拳をモロに喰らった男は、ヒビが入る程の勢いで壁に直撃し、そのまま気を失った。
「これでよし──っと。姉さんは大丈夫?あいつらに何かされたりとかは……」
「ん──ぷはっ……だ、大丈夫だ。アラタこそ……大丈夫だったか?」
姉さんを縛っていた縄を解いて猿ぐつわを外す。
幾ら気丈に振る舞えど、姉さんは転生者である俺とは違って、純粋な子供なのだ。
誘拐された自分が一番怖かっただろうに、姉さんは何よりも先に俺の心配をした。
「あー……俺は大丈夫。姉さんが無事で良かったよ」
これが姉というものなのか、ちょっとした尊敬の念すら抱きながら姉さんの顔をよく見ると、安心からか、その目尻にはうっすらと涙が溜まっていた。
「……む、何するんだアラタ。頭を撫でるのはお姉ちゃんの特権で──んむぅ……」
「お二方は……姉弟だったんですね。無事に助けられて良かったです」
ガコン……とR-01のコックピット部のハッチが縦に開き、そのパイロットが降りてくる。
俺の予想通り、R-01から降りてきたのはブロンズ混じりの黒髪をショートカットにした少女。
もう二度と会えないと思っていた、唯一無二にして最高の相棒……『鈴木 やちよ』だった。
サイズの合ってない白衣を着て、こちらを……俺をじっと見つめるその姿は、昔と何ら変わっていない。
「あ……礼が遅れてしまったな。私の名はアカギ。今回の事は本当に感謝している」
「いえいえ、お気になさらず。人探しのついでに受けた依頼でしたし」
そう言うとやちよは笑顔で俺の方に振り向き、そのまま一歩、距離を詰めてきた。
「にしても、先程は本当に助かりました。指示も丁度良かったですし……ロボットも無事でした。私こそ、お礼を申し上げるべきですね」
「あー……いやいや、こっちこそ本当に──」
やちよに何と言うべきか悩んだ結果、取り敢えず無難な事を言おうと口を開いた、その時だった。
途端にやちよの目がギラリと光った様な気がして──
気が付くと、やちよの顔が俺の眼前まで迫っていた。
「──ッ!?」
「所で……貴方はロボットという単語に疑問を示さないんですね?」
「あ、やっべ……」
痛恨……という訳でも無いが、どうやら俺は選択肢をミスっていたらしい。
俺が口ごもると、やちよは更に顔を近付けて来た。
「ちょっ、近──」
「この世界の人って、ロボット=魔道具の認識なんですよ。だから色んな人にロボットって言っても、全員揃って頭にハテナマークなんですよね」
俺の背筋を、冷や汗が流れる。
既に確信を得ているのだろうか。
やちよは更に笑顔になり、ますます俺に顔を寄せてくる。
互いの鼻先が触れる程の距離……もうほぼゼロ距離と言っても過言では無いだろう。
「と言うか、まぁおかしいなと思いましたよ?だって普通の子供があんな事出来ます?しかもあの落ち着きっぷりで」
「えっとだな、それは──」
「あぁほら。今一瞬素が出ましたね?それに私、この世界にいる異世界人は一人だけって、ちゃんと聞いてきたんですよ?セ・ン・パ・イ・?」
久々に会った相棒は、俺の見ぬ間に立派に成長したらしい。
昔は可愛らしかったその怒りも、今や般若が透けて見えるようになっていた。
俺その場で両手を上げると、観念して口を開く。
「……降参だ、やちよ。……取り敢えず、場所を変えて話さないか?」
「ええ、しっかり、聞かせてもらいますからね?」




