A区画
姉さんに連れられて歩く事数分。
駅に着いた俺達は今、A区画行きの電車を待っていた。
「にしても……A区画か、初めて行くな……姉さんはどう?行ったことある?」
「ん?いや、実はまだ私は他の区画に行ったことが無くてな……正直に言うと、緊張している」
さて、先程から言っているA区画とは、俺達の住む人類最大の機械都市『マシーンフロント』における町の区分である。
マシーンフロントの中心には町の全ての電力を補い、また全ての区画を繋ぐ中枢区画『バベル』があり、そこからまるでミカンの断面の様にいくつかの町がくっつく事で出来ている。
区画の数は、アルファベット順にAからJまであり、区画事にそれぞれの特徴があるらしい。
因みに、俺達の行くA区画は魔術式関連……所謂、情報電子系が盛んな区画だ。
「おっ、来た来た……って、ありゃすげぇ……」
遠くに見えた電車が、高速でこちらに近付いてくる。
細長い流線的なデザインに、車輪の無い車体。
一般的にリニアモーターカーと呼ばれるソレは、徐々に減速すると、静かに駅のホームへと停車した。
「ほぉ……これも魔石で稼働してんのか……すげぇな魔石ってのは……っと、ぼーっとしてる場合じゃねぇや。姉さん、早く乗ろ……姉さん?」
「えっ?あっ、ああ!乗ろう!」
姉さんはそう言うも、その足は中々前に進まない。
チラリとその顔を見てみれば、その顔は何時もの好奇心と自信に満ち溢れたものでは無く、何処か不安げな表情をしていた。
(初めて電車に乗った時は、俺もこんな感じだったな……ホントに目的地に着くのか?とか、事故ったりしないか?とか考えたりして……)
「……ほら姉さん、大丈夫だよ。ほいっ……と」
「え……?わっ──!」
俺は姉さんの手を握ると、そのままその手を引いて電車へと乗り込んだ。
と同時に電車のドアが閉まり、発車を知らせるアナウンスが鳴った。
「良し、後はA区画で降りるだけっと……」
「むぅ、アラタが時々大人っぽく見える……」
「姉さん、頬を伸ばすのやめて……痛ぇ」
俺はパッと姉さんの手を引いて、そのまま空いていた座席に連れて来て、姉さんの手を離した。
車内は思ったよりも人が少なく、ちらほらと空いた座席が見受けられる。
そして、手を引かれて俺の後ろを着いてきていた姉さんも同じ様に俺の隣に座ると、チラチラと横目で俺を見ていた。
「……姉さん?どうし──」
「な、なぁアラタ。もし不安だったら、もう少しだけお姉ちゃんの手を握っててもいいぞ?」
姉さんが少し躊躇いがちに手を差し出す。
俺は咄嗟に口を閉じると、その手を軽く握った。
(成程ね。さっきの視線はアレか、手を握っといて欲しいって奴だったのか……姉さんも素直じゃねぇな……)
「あっ……ふふ……」
姉さんはニコニコしながら、握った手に少し力を込めると、そのまま窓の外に見える景色を眺め始めた。
その後、俺達はA区画で降りるまでずっと手を握っていた。
『次は~A区画~A区画~、反対側のドアは開きません、お降りの方は足元にご注意ください~』
電車に揺られる事十数分、車内アナウンスが流れ始め、徐々にその速度が低下し始める。
「姉さん、そろそろ降りる準備を……」
「ん?あぁ、分かった。えっと、財布は……あったあった」
俺達は駅員に金を払い、キチンとA区画で降りた。
因みに、この世界でのお金は全て『ルピス』と言われ、単体のルピスとしては一万ルピスが最大で、日本と同じようになっている。
「さて、駅から見下ろした形になるけど……すげぇなここの区画……」
「綺麗だな……B区画とはまるで違う……」
駅のホームから街を見下ろすと、巨大なビルが無数に建ち並び、その全てがまるでSFの都市の如く、華麗な電飾を施されている。
その光景はまさに、圧巻と言う他無かった。
「さて、と。このまま眺めてても良いけど、件の魔術式師を探さないとな……」
「む……そうだな、まずは……聞き込みからだな!」
そして、俺達の魔術式師探しは始まったのだった。
聞き込み、実地調査、聞き込み、実地調査……その繰り返しを行う事数時間。
結果としては魔術式師は発見出来ず、俺達は取り敢えず一休みする為に、偶然見つけた公園のベンチに座った。
「ふぅ、疲れた……アラタ、喉は大丈夫か?乾いてないか?」
「あぁ、まぁ。喉は大丈夫。にしても、有名な筈なのにここまで出会わないとは……運が悪い……」
俺達は聞き込みや実地調査を続ける中で、探している魔術式師について幾つかの情報を知った。
まず、件の魔術式師はこの世界では珍しい黒髪の少女であり、ほぼいつも巨大な機械に乗っている事。
そして、人を探しているらしいという事だ。
巨大な機械に乗っているならば、案外直ぐに見つかるかもしれない……と、最初は思っていた。
しかし、結局は見つからないまま時が過ぎ、今に至る。
(にしても、その魔術式師、聞けば聞くほどやちよっぽいんだよなぁ……)
「ん……あっ、水が無くなった……少し買ってくる!」
「あ、姉さん。俺も着いて行こうか?」
「いや、一人でも大丈夫だ!」
姉さんはそう言うと、そのまま公園に来る途中で見つけた自動販売機へと走って行った。
そして姉さんを見送った後、設計図でも書いて時間を潰そうかとメモ帳を取り出した、その時だった。
「ア……アラ……むぐっ!」
「コラ!大人しくしろ!」
少し遠くから、姉さんの声が聞こえた。
俺が何か嫌な予感を感じて自動販売機まで行くと、そこには姉さんの持っていた赤い星型のペンダントが落ちていたのだった。