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星冠のアンタレス  作者: ミルフィーユ筍
5/14

出立

さて、あれからさらに四年が経ち、俺は七歳となった。

この世界では珍しい黒髪に、真っ青な瞳。

顔立ちは……まぁ、元の世界の基準では良い方だろう。

そして、俺は機装『アンタレス』の開発の為、三年間で家にあった地下室の大改造と拡張、発電設備の制作、地下室から地上への上昇用カタパルトの制作等を行い、一年を使ってアンタレスの本体を開発していた……のだが。



「あ゛ー……やらかしたぁ……!」



七歳にはとても似つかわしく無い声を出しながら、俺はほぼ完成したアンタレスの頭部で、うつ伏せの大の字になって寝ていた。



(最ッ悪だ……そうだよ、なんで四年もあって気が付かねぇんだよ俺は……マヌケかよ……マヌケだよ!)

「やらかした……って、何をっスか?恋愛とかっスか?」



俺が頭を抱え溜息をついていると、機体の頭部側面から女性が突然ヒョコっと顔を出した。

彼女の名は『ヤナギ』。

七年前、俺の名前案でゴンズイという案を出した人であり、家電生産工房兼飲食店である我が家の看板娘的ポジションの人である。

右はピンク、左は青と、かなり派手な髪色をした女性であり、体育会系のような口調が特徴の人だ。

ちなみに、何とは言わないがデカい。やたらデカい。

まぁ、やましい気持ちは微塵も湧かないが。



「恋愛のミスや相談ならこの私にお任せっスよ!良くアカギちゃんに相談されてますし!」

「そりゃ初耳……って、違いますよ、恋愛関連じゃ無いです。コイツを動かす為には、特別なプログ……魔術式を組まなくちゃいけないのをすっかり忘れてたんですよ」

「ほぇ~、特別な魔術式っスか……自分、魔術の方はからきしなんでサッパリっスねぇ……まぁ、餅は餅屋っスよ!」



先程から魔術式だの何だのと言っているが、早い話はプログラムである。

元の世界……というより前世だろうか、そこでは俺が機体開発、やちよがプログラム制作と、完全に分担してやっていた為にプログラムの心配は無かったのだが……



(まさかここに来て大ポカをやらかすとは……はぁ……強い酒でも飲んで忘れてぇ……)



ちなみに、この世界ではプログラミングという言葉は無く、そういった類のものは『魔術式』でほぼ統一されている。

また、魔術式を作る人間はそのまま『魔術式師』と言うらしい。



「……今回ばっかりは、餅屋でもどうだか……」



この世界でも、プログラミング自体は出来る人間が山程居るのだ。

しかし、俺の作ったアンタレスは『やちよ』のプログラミングを前提として作った『R-01』の設計を参考にしている。

『やちよのプログラム』である事を想定していたのだ、やちよより上でも、下でもいけない。

故に、現在の状況を端的に言えば『詰み』だ。

俺が半ば諦めつつどうしたものかと悩んでいると、地下室の扉が突然、けたたましい音を立てて開いた。



「アラター!居るかー!?」

「はいはーい……どしたの姉さん、何かあった?」



俺は返事をしながら起き上がる。

そしてそのままアンタレスの頭部から下を見ると、こちらに向けて手を振る姉さんが居たのだった。



「様子を見に来たぞ!進捗はどうだ?」



あれから四年が経った事で姉さんは十歳となり、身長が少々伸びたものの、あいも変わらず姉感は殆ど無いままだ。



「進捗……正直な所……『詰み』かな」

「詰み?あー……もしや、アレか?」

「えぇ。本体はほぼ完成してるんス。けど……私達、誰も魔術式が作れないじゃないっスか?だから予想通り丁度そこで行き詰まった……って感じっスね」



ヤナギさんがそう言うと、姉さんは待ってましたとばかりに、無い胸を自慢げに張った。



「ふっふっふ……やはりこうなったか……だがアラタ!安心しろ!こんなこともあろうかと、良いニュースを仕入れてきたぞ!テレビから!」



姉さんは無い胸を張りながら、ドヤ顔をキメる。

これが漫画ならば、ドヤッ!という効果音でもつきそうな、見事なドヤ顔であった。



「テレビから……まぁそれは置いといて、良いニュースってのは?」

「ふっふっふ……なんとだな、A区画に二つ名持ちの超天才魔術式師が現れたらしいんだ!」

「ほぉーん……超天才魔術式師……ねぇ?」

「うむ。そしてその魔術式師は、他の魔術式師では理解できない程の魔術式を組むらしい」



他の魔術式師でも理解出来ない程の魔術式。

その言葉を聞いた瞬間、俺はやちよを思い浮かべていた。

と言うもの、やちよはプログラミングにおいては右に出るもの無しと言われる程の人物であり、作るもの全てがブラックボックスと言われる程の物なのだ。

……まぁ、全てブラックボックス故に量産には向かなかったり量産する時には一々デチューンしたりと大変だったのだが──閑話休題(それはさておき)



(……もしや、マジでやちよなのか……いや、でもな……)



そして、俺がやちよについて考え、自分の世界に入り込みかけていた時だった。

突然、首が締まるような感覚と共に体が少しだけ浮く。

そう、姉さんが俺の服の襟首を持ったのだ。



「ぅぐぇ……姉さん、ちょっ、首……首が!」

「あっ、すまん……さてアラタ、話はここからだ。私とお前で、今からA区画に行くぞ!」

「……ん?えっ、ちょっ、待っ──」

「むぅ……私はお留守番っスか……まぁいいっス、行ってらっしゃいっス、お土産もお願いしますね~」



こうして、手を振るヤナギに見送られながら、ズルズルと引き摺られ、外へと連れて行かれたのだった。

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