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星冠のアンタレス  作者: ミルフィーユ筍
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情報収集

さて、俺が異世界に来て三年。

哺乳瓶でミルクを飲まされ、おしめを変えられと、数々の恥辱を乗り越えながら、俺はすくすくと成長した。

因みに、何の因果か俺の名前は前世と同じく『アラタ』となった。転生者特典……な訳は無いだろう……無いよな?



(さてと、先立つ物は何よりもまず知識……今日も今日とて情報収集と参りますか!)



日課のラジオ体操をこなした後、俺はメモ帳とペンを片手に家の二階へ上がり、書斎へと繋がる扉を開ける。

さて、まずこの三年で知った事についてだが……この世界に来て早々分かったのは、ここは間違いなく異世界であると言う事。

そして、中世や現代では無く、近未来的な異世界であるという事だ。

近未来的……と言っても、AIが管理した世界だとか、人は不老不死になっているだとか、そういった事では無い。

スマホやコンビニ、車や電車……その程度であり、また生活水準に関しては日本で過ごしていた時とほぼ変わらない。

ついでに言うと、言語はだいたい日本語や英語。

ここまで聞いて、どこが近未来的だと思う人もいるだろうが……まぁ、話はここからだ。



(おっ、今日も飛んでんな……)



三歳児の体では少し長い家の廊下を歩きながら、廊下に取り付けられている窓から空を眺める。

するとそこには、俺がこの世界を近未来的だと断定した最大の理由にして、俺にある一つの夢を、『自分の手で、自分の好きな様に巨大ロボットを作る』という、子供の頃に憧れ、そして挫折した夢を思い出させた存在……流線的な、丸みを帯びたデザインの装甲を持ち、巨体ながらに自由に空を飛び回る、人型の巨大ロボット──『魔道具』と呼ばれる物が、編隊を組んで飛んでいた。



(異世界式の、空飛ぶ人型ロボット……ありゃ俺の世界の技術力じゃあまだ無理だったモンだ。なのに、技術力がほぼ同等な筈のこの世界じゃあ自由に空を飛び回ってやがる。さて、ならアレには一体どんな秘密があるんだか……やっぱり魔法で飛ばしてんだろうか?兎にも角にも、一回バラして調べてみりゃ分かんだろうが……流石に本には乗ってないよなぁ……)

「アーラタっ♪何してるんだ?」

「──!?」



俺がボーッとしながら魔道具を眺めていると、突然俺の視界が誰かの手によって塞がれる。

流石に一瞬驚いたものの、別段慌てる事も無く目の前の手を掴むと、そのまま手を上にずらして後ろを向いた。

後ろに居たのは、艶のある銀髪をポニーテールに纏め、ズボンと黒いカッターシャツを来た一人の少女……三年前、俺を拾ってくれた恩人『アカギ』であった。

現在の年齢は六歳、俺とは三歳差である。



「あー……なんかようだった?ねえしゃん」

「んー?アラタが見えたからな、何してるのかなーって」

「あぁ……ほんをよみにきたんだよ」

「アラタ、もう本が読めるのか!?」



自分の舌っ足らずな発声に苦笑しつつもそう答えると、姉さんはその目を輝かせて俺を見ていた。



「凄いなアラタ、まだ三歳なのに……天才だな!」

「はは……で、そういうねえしゃんはなにしてんの?」

「ん、私か?今からお買い物に行くんだが、アラタも来るか?今ならお姉ちゃんが抱っこして連れて行ってやるぞ?」



姉さんにそう聞かれ、俺は少し考えた後に首を横に振って、書斎へと続く扉を指した。



「きょうは……あー……ほんをよむことにするよ」

「ぬぐぐうっ……お姉ちゃんの誘惑が本に負けた……じゃあ、帰ってきたら遊ぼうな、アラタ!」

「はいはーい……」



タッタッタッ……と廊下を駆けていく姉さんを見送った後、俺は台に乗って書斎の扉を明け、中に入った。

書斎は、三歳児の俺からすればかなり広く、大人からすれば少し大きい位の広さだ。

俺は取り敢えずその辺の本棚から読んだことの無い本を選ぶと、そのまま椅子に腰かけ、本を開いた。



(ふぅ。子供の相手は相変わらずどうしていいか分からねぇな……やちよを元にするのはなんか違うし……にしても、昔は本なぞ仕事関連以外じゃ読む事もあるまいと思ってたんだが……いやはや、それがどうして中々面白い……すっかり習慣になっちまったな……)



日本語で書かれた小難しい歴史書を読みながら、いつの間にやら読書が習慣となっている自分に少々の驚きを覚えて苦笑する。

そして、この世界に来て、情報を集め始めて数ヶ月、知れば知る程にやはりここが元の世界……地球とは全く違う世界だと言う事を思い知る。



(やちよは……アイツは今どうしてんのかな……)



元の肉体では無く、赤ん坊としてこの世界に来たということは、元の肉体には何かあったと考えるべきであり、そして自惚れでなければ、俺はやちよに割と……いや多分だが、相当に懐かれていた。

やちよ的には、寝て起きたら目の前に知り合いの死体である。



「はぁ……トラウマになってなきゃいいが……」



曇りだした空を一瞥した後、俺は本に視線だけを戻し、もう二度と会えないであろう相棒の……やちよの事を考えていた。



「……だめだな、よむきしねぇや」



そして、俺は考え事の間にすっかり読む気の失せてしまった歴史書をパタンと閉じて本棚に戻すと、頭を振って思考をリセットし、この世界で分かった事を記入したメモ帳を開いた。

この世界の事について、分かった事は幾つもあるが、大きいものは現時点では三つ。



ひとつ。

この世界には『科学』と『魔法』があると言うことだ。

まずは魔法について。

魔法を使うには、この世界の地中に様々な大きさ、純度で幾つも埋まっている特殊な鉱物『魔石』から発せられている、無限に生成されるエネルギー『魔線』を使う必要があるらしい。

使い方は記されておらず、少し前、試しに指に意識を集中させた後に火が出るイメージをしてみたりしたのだが、どれもこれも効果は無かった。

そして科学は、この無限のエネルギーである魔線を使って発達した様で、現代でよく見たスマホやパソコンなんかもあった。

ただ、人工知能による無人操作等は行われておらず、そのほぼ全てが人により制御されていた。

過去には人工知能もあったらしいが……詳しい事はあまり分かっていない。



ふたつ。

この世界には『モンスター』や『機怪』と呼ばれる敵対生命体や、エルフやドワーフ等、亜種人類……亜人が存在しているということだ。

モンスターはその名の通り、ゴブリン、スライム、ゴーレム、etc……等の異世界ファンタジー定番のアレだ。

そして機怪とは、この世界に何時の頃からか現れるようになった、先程のモンスター達を改造して生物兵器の様にした物であり、全身が機械のものや、一部が機械のものと、バリエーションは様々である。

また機怪にはランクがあり、Fから始まり、E、D、C、B、A……そしてその中でも最上位のS級ランクが他の機怪を作り出していると考えられているらしく、懸賞金が高く、また力の証明となるSランクの機怪を倒す事は、ほぼ全ての冒険者の夢と言っても過言ではないだろう。



みっつ。

モンスターや機怪に対抗する為の職業、『冒険者』という者達の存在と、『魔道具』や『機装』という物の存在である。

ここで言う冒険者とは、鉄の鎧や皮の鎧を着込んだ、いかにも異世界の冒険者的な集団とかでは無く、遠隔操作型のロボットである魔道具を使い、モンスターや機怪との戦闘を行う者の事を指す。

そして機装とは、魔道具とは違う……所謂搭乗型のロボットであり、その圧倒的な力を持って数々の強力な機怪を打ち倒し、人類と機怪との戦力差を均衡させた、まさに人類の希望とも呼べる存在であり、過去には数機程存在していた様だが、いつの間にかその全てが行方知れずとなったそうだ。

それ以来、人類側と機怪側の戦力差は徐々に機怪優勢へと戻りつつあるらしい。



(ここ数ヶ月色んな本を漁って調べたが、機装や魔道具の構造に関する詳細な記述は殆ど無し……得られた情報は、精々『人と一体化』する機能があるらしい事と、ソレが機装の強さの源である事……うぅむ、神経系に機器を接続して制御……とかだろうか?もしそうなら流石に無理だな……)



俺はメモ帳にカリカリとペンを走らせながら、『人と一体化』する機能について考える。

がしかし、当然の事ながら何の成果も得られず。

俺はペンを置いて、休憩がてら何か小説でも読んでみようかなと再び本棚を見る。

その時、とある一札の小説が俺の目を引いた。



「なんだこれ……?『赤い星』?」



俺は本を手に取り、パラパラと流し読みする。

その本の内容は、とある一人の少年が一機の赤い機装と出会い、そして出会いと別れを繰り返して成長していく、機装がある事でロボットモノになっている事を除けば、至って王道的な冒険譚だった。

面白さ、並びに少しでも情報を求めている機装について書かれていと言うこともあり、その小説を夢中でパラパラと読み進めていくと、とあるページで手が止まった。



(コレは……『機装に乗ると、動かなかった手足が機装と融合し、再び動く様になったのだ』……か。融合……ってのが何を指すのか分からねぇが、コイツはいいヒントになるんじゃねぇか……?)



それから俺は集中してその本を読み込み、書いてある描写から機装の特徴を読み取ろうとする。

そしてある程度の時間が経った後、特に情報は得られなかったものの、ひとまず読み終えた俺はパタンと本を閉じ、メモ帳を数ページ捲り、そこにサラサラとペンを走らせる。

書いているのは設計図。

これから俺が幾度となく乗って戦う事になるであろう相棒にして、俺の持つ技術の粋を込めた、俺の専用機。

『アンタレス』の設計図だ。

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