ばぶー
ガン……ギン……ガン……ゴン……ギュィィイイ……
どこか遠くから聴こえる、何やら金属を加工しているかのような音と、慣れていないとかなりキツい、工場特有の油と鉄の様な匂い。
(んぁ……?誰だ、こんな朝っぱらからガンガンガンガン……R-01は昨日完成したし、コッチに来るとすれば……ウチの課の奴か?と、そういや腹の辺りが重くねぇな、とすればやちよはもう起きて──)
その音と匂いで幾らか意識が覚醒し、そのまま俺は目を開ける。
すると、俺よりも遥かに大きい銀髪の女が一人、驚いたような顔で俺を見下ろしていた。
(え……な……巨人……?)
「ん……?おぉ!起きた!起きたぞ皆!」
「へ?マジですかアカギちゃん!見せて下さい!」
「アンタら、そんなデカい声だと泣いちまうぞ?」
俺が困惑しつつ目の前の女……アカギと呼ばれた女を眺めていると、その声に反応した二名の男女の声が聞こえ、ドタドタと走る音が聞こえた後に、青とピンクの二色の髪色が特徴的な女と、スキンヘッドでやたらムキムキな男がやって来る。
アカギと比較するとかなり身長が大きい為、恐らくその二人は大人なのであろうという事が見て取れた。
そして、三人は俺の方を見て優しくニコリと微笑むと、そのままあれこれと会話をしていた。
「にへへ……可愛いなぁ……私の弟……あっ、そうだ!名前はどうする?」
「私にお任せを!ゴンズイとか…….どスかね!?」
「それはナマズの名前だろ、アホ。そうだな……ベニマルとかどうよ?」
「痛ってて……た、叩くこたぁ無いじゃないスか!てか先輩のも大概ッスよねぇ!?」
「うぐ……いや、だがゴンズイよりはマシだろう!?」
「二人共……」
目の前で繰り広げられる、巨人達の談笑。
それを見ながら、俺はなるべく冷静になって考える。
(お……落ち着け、冷静になるんだ俺よ。正直、疑問は尽きないし訳も分からんが……取り敢えず、こういう時こそ言語によるコミュニケーションだ。言葉が分かるってんなら、ちゃんと話せる筈だ……!)
俺は会話を試みようと、なんとか口角を上げて笑顔を作り、覚悟を決めて口を開いた。
「あー、あぶぅぁ!(あー、こんにちは!──ん?)」
「おぉ、喋った!喋ったぞ皆!それに笑ってる!」
「わぁ……可愛いっスねぇ……!」
「ふふ……元気一杯、と言った所か?」
和やかなムードに包まれる巨人達の中、俺は一人、先程自分が発した言葉に驚いていた。
言葉──にしては余りにも意味をなさないものであり、また、それを発した自分の声、その高さにも違和感があった。
きん、とする様な高いその声は、間違いなく俺の……三十路を過ぎた男性の物では無い。
例えるなら、そう。
まるで赤ん坊の様な──
そして、この場で最も可能性が高く、最も信じ難い嫌な考えが、俺の頭をよぎった。
(もしかして……俺は、赤ちゃんになってる…………のか?)
数時間後、抱っこされた時に見えた鏡によって自分の姿を確認した俺が軽く発狂し、俺の叫び声が家全体に響いたのは、また別のお話。
「ば……ばぶぅーーーーーッッ!!」