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今後の方針

色々場面が飛ぶけど今回まで……と思う

 ロザリンドが壊滅する十日前、隣国の更に隣国の隣国であるローレス聖王国、三百年前に世界を救った英雄達の子孫であると伝わる王族が治める国の王城、王座の間にて初老の王の前に第一王子が呼び出されていた。

 

「ローランドよ。お主に魔王討伐を命じる」

 

「……御意で御座います、父上」

 

 魔王討伐という危険極まりない任務に我が子を送り出す理由、それは権威の失墜にあった。世界を救った英雄の子孫である事こそが権威を高める最大の道具だった王族にとって貴族や教会が擁立する召喚勇者の存在、そして禍人によって異常発生と凶暴化を起こしたモンスターによる被害は頭の痛い問題だ。故に魔王討伐と迄行かなくとも何かしらの成果さえ上げられれば構わない。

 

 そして強ち無理ではないと王は思っていた。他の息子や王家の血を引く者達が愚鈍な訳ではないが、この国の誰もがローランドには見劣りする。勇者の血が世界の危機に対して目覚めたと人々の希望となる程に彼は優れているのだ。強さだけではなく、仮に自分達に勇者の血など流れていまいが希望となるべく立ち上がる高潔さを持つ程度には。

 

 

「では、選抜した仲間を共に連れて行くとして……ヴァノガレスとボーディルを授ける」

 

 使い手の力量次第で魔法さえも易々と切り裂く魔剣ヴァノガレス、物理と魔法に対して強靭な耐性を持つ魔法の鎧ボーディル。共に国宝であり、控えていた家臣達がざわめき出した。

 

「お待ち下さい、王よ! 万が一失われては……」


 国宝であり勇者達が使っていたとされる権威の象徴。当然、失われるのを恐れる者が出てくるが……。

 

「ならば問おう。宝を惜しみ国が滅ぶのと、宝を危機に晒しても国を守るのと、どちらが正しいのだ?」

 

「そ…それは……」

 

 王から発せられた重圧に口を挟んだ家臣は黙らされ、王は再び我が子に視線を向ける。愛する子を危険に晒す事への憂い以上に信頼が込められていた。

 

「では準備を整え出発せよ! 世界を救うために戦って来るのだ!!」

 

 

 

 

 碌々舗装をされていない山道を五台の馬車が疾走する。強靭な肉体を持つ馬が二頭掛かりで引くのは巨大な馬車であり、内部は見た目以上に広い魔法の馬車である。時折、犬ほどの大きさのバッタや岩石の身体を持つ亀に襲われるも乗っている者達によって難なく退治されていた。

 

「しかし此処まで多いと嫌になりますね……」

 

「口ではなく手を動かさんか、馬鹿者」

 

 辟易したといった様子で死骸を除けて通り道を造っているのは立派な鎧を身に付けた騎士の青年。彼も、無駄口を注意して来た中年の騎士も王子の仲間として魔王討伐メンバーに選出された者達の一人。余計な護衛対象を増やさない為か騎士達は最低限の身の回りの事は訓練の一環で可能になっており、馬車に乗っている者の殆どが一流と表して良い実力者だ。

 

 もっとも、そうでなければ魔王の討伐という栄誉と危険が類を見ない程に大きい任務を任されないだろうが。名誉、義憤、忠義、憧憬、そして正義。動機は違えど皆、この任務に誇りを持っている。不良騎士と呼ばれ唾棄すべき者が居る中で、実力人格共に選考基準を満たしたエリートの集まりだ。

 

 そして彼らを率いる王子こそ最も優れた騎士であり、誰もが御飾り等ではないと認めている。彼さえいれば魔王討伐さえも果たせると信じていた。

 

「さて、行こうか。先ずはこの先で確認された禍人の幹部の討伐だ」

 

 

 

 

 

 

「……目標、発見。即排除」

 

 騎士達から離れる事一里程、崖の上から彼等を見詰める女が居た。覆面で口元を隠しフードを被って素顔は見えず、騎士達を見詰める瞳には殺意も憐憫も嘲りも含まれず、足下に転がる石ころ程度の認識も無いのだろう。息を吸うように無手のままの右手で投擲の構えを取り、右足を踏み込む。何時の間にか闇を凝縮したかの如き槍が握られ、槍が赤雷を纏った瞬間……放たれた。

 

 谷を越え、川を越え、空を切り裂きながら槍は飛んで行く。その速度は常人には知覚不能であり、進軍の準備を整えた騎士達へと一直線に向かい……。

 

 

 

 

「っ!」

 

 常人には知覚不可能な襲撃を唯一関知出来たのはローランドだけだった。何かが向かって来た事も、どれほど危険なのかも直感で悟った彼が選んだのは逃走……ではなくて迎撃。仲間に危機を知らせる時間はないと即断即決、ヴァノガレスを構えて跳び上がる。元より自分だけ逃げるという選択肢は存在せず、だからこそ彼は信頼と尊敬を集めるのだ。

 

 飛来する槍を目で捉えた刹那後、ローランドは剣を振り下ろしていた。振り上げた時点の槍の距離は遠く、振り下ろしていた瞬間には剣の間合い。最も威力を発揮する瞬間を頭ではなく直感で感じ取り迷い無く動く。彼の腕が何一つ抵抗無く振り下ろされた。槍は確かに真芯で捉えている。それは間違いのない事実だ。

 

 

 

 只、ヴァノガレスもボーディルも、そしてローランドの肉体も一切の抵抗もなく貫通していた、それだけなのだ。

 

 

 

「な……」

 

 何だ、と、若い騎士が疑問の言葉を吐き出し終えるよりも前に地面に突き刺さった槍は眩く輝き膨張した。着弾地点を中心に膨らんでいく闇は地を、森を、生き物を、全てを飲み込んであっさりと消え去る。跡には丸く抉られた地面以外何も残らない。その場所に何かが在った痕跡さえも完全に消え去っていた……。

 

 

 

 

 

 

「勇者を名乗る者達の台頭ですか。……人の本質は変わりませんねぇ」

 

 エリーゼさんから得た情報は私が予測していた通りの内容でした。私達が旅をしていた時に紛失した秘宝と古文書ですが、世界中に所有を主張する者達が居て、彼らが支援する勇者の存在。勇者を名乗る事で得られる利益は大きいでしょうしね。……ですが、却って都合が良い。

 

「では、私達は勇者を名乗らぬ事にしましょうか。偽物扱いされるのも、偽物と分かっていて援助する権力者と敵対するのも厄介ですしね」

 

「で…ですが勇者である事で得られる支援や情報だって……」

 

「そして私達が一度魔王を倒しているという事実が禍人の勇者への警戒を生み、目立てば襲撃を受けるでしょう。数で攻められればどうなるかは……分かりますね?」

 

「……はい、そうですよね」

 

 大勢が巻き込まれる、私の言いたいことをそう取ったらしいエリーゼさんは言いたいことがある様子ですが飲み込む。向こうも此方を召喚して巻き込んだという自責の念が有るのでしょう。実際は私達が危ない以外の意味など無いのですけどね。

 

 ……私は昔から感情ではなく実利で動く人間だった。そうしたい、ではなくて、そうした方が都合が良いから、それで動いて来た。正反対の人間である空也が眩しく見えてはいましたが、それでも生き方を変える気はない。

 

 私にとって護るべきは孫娘である璃癒。次点で私や空也でしょうか? 正直言ってこの世界の住人など興味はない。私が勇者だった頃も元の世界に戻る為に戦ったのであり、世界を救うという使命感など偽りだった。

 

 

 

「ご安心なさい。私達の手でもう一度世界を救ってみせましょう」

 

「は…はい!」

 

 私が勇者を名乗るのをしないのを提案するのは面倒を避ける為。勝手に呼び出して押し付けた勇者の名に縋り、勇者だからと頼ってくる者が鬱陶しいからだ。だから魔王は倒しますが余計な人助けはしない。異世界の住民の為にどうして璃癒が危険を冒す必要が有るのですか? その場しのぎの局地的な平和維持など意味はないのですよ。

 

 

 

(……問題は)

 

 奈月の本性の件がショックだったらしい璃癒と、それを慰めている空也に視線を向ける。あの子の場合、救えたかもしれないのに救えなかったと落ち込むでしょうし……優しく善良な子に育って良いことなのですがね。

 

 

 

「まあ、後々考えるとして……」

 

 正直言って支援は欲しい。お金は必要ですからね。ですが権力者の厄介さは前回の冒険で理解しています……空也と奈月以外は。ああ、彼女が居ましたね。約束もありますし、目的地が決まりましたね……。

 

 

 

「エルフの国に行きましょう。しかし、信用できる相手が居るのは本当に嬉しい事です」

 

 ……ああ、所で偽物の皆さんには感謝しましょうか。説得の口実が増えた上に敵の情報が入りやすくて何よりです。きっと襲われるでしょうが別に良いのでしょう? 正義か欲か強制か、どんな理由であれ勇者を名乗るのですから折り込み済みでないといけませんよ? 勇者には高潔な自己犠牲の精神が求められるのですから。

 

 

 

 

 

「さて、璃癒。ちょっと彼処の木に目掛けて走ってみて下さい。勿論全力でお願いしますよ」

 

「え? うん、分かった」

 

 目的地も決まり、先ずは最寄りの町で準備を整えようとなったのですが先に確かめておくべき事があります。私の時も苦労しましたからね。

 

 私が指さしたのは燃え残った大木。璃癒は特に迷うことなく駆け出し、一瞬で激突した。メキメキと音を立てて倒れていく木の璃癒が激突した部分は弾け飛んでおり、大した痛みも無い様子ですが呆然としていました。それもその筈。本人からすれば自分が此処まで速いと認識さえしていないのですから。

 

「え? ええ!?」

 

「懐かしいなー! 俺も召喚されて力が増えた最初の半日は加減が分からずに苦労したぜ。示現は三日掛かったけどな」

 

「寧ろ半日で適応した方が変ですけどねぇ。……璃癒、覚えて置きなさい。私達は召喚されてレベルとクラスを得た事で身体能力が大幅に上がっています。町に着くまでに慣らしましょう」

 

 私などフォークを曲げてしまったり物にぶつかったりと苦労したにも関わらず、空也は半日、奈月も一日で順応したのは呆気に取られた覚えがあります。絶対私が普通ですけどね。

 

「も、申し訳有りません! ちゃんと説明していませんでした」

 

「構いませんよ、エリーゼさん。私も空也も実際に体験した者達ですし、文献でしか知らない貴女を責めは致しません」

 

 実際、私は彼女にさほど期待はしていない。精々がこの世界の今の時代の住人として案内をして頂く迄です。だから私は平謝りの彼女に作り慣れた温厚な笑みを向ける。この場合、これが最適ですので。

 

 

 

 

 

 

「……うーん。ちょっと慣れて来たかな? あっ! 何かが寄って来たよ、お祖父ちゃん達」

 

 一時間後、その場で三メートル程ジャンプしながら早くも順応を始めたらしい璃癒は着地すると前方を指さす。視線を集中させれば地球では存在する筈のない生物が五体の群で近寄って来ていました。

 

「あれは確か……レッドゲルですね」

 

「何だか弱そうだね。ゲームの序盤の雑魚っぽい」

 

 現れたのは直径一メートル程の赤い半透明のキューブ状の生物。中心に細胞核を思わせる球体が浮かんでいまして璃癒は呑気にしていますが時代のせいでしょうね。なまじゲームやら小説やらでファンタジーに触れるからこそ油断が生まれる。さて、講義としては丁度良い相手です。

 

「エリーゼさん、あれの説明をお願いできますか?」

 

「え…えっと、レッドゲルはキューブゲル種の中堅に位置するモンスターでして決して雑魚では有りませんよ、璃癒さん」

 

「結構。では、実際に見てみましょう」

 

 此方に気付くなりプルプルと震えながら子供の駆け足程度の速度で寄ってくるレッドゲルの先頭に下手投げで拳大の石を投げる。弧を描きながら命中した石は体内に沈み、熱湯に入れた氷の粒のように一瞬で溶けて消え失せた。

 

 これで妙な侮りは消えたでしょう。実際、今の璃癒では武器があっても苦戦する相手です。見た目が弱そうなのが来てくれたのは逆に良かったかも知れませんね。

 

「生き物である以上は補食をしているという事で、あれの場合は強力な酸性の体液を使っています。……それと璃癒、都合良く弱い順にモンスターが出てくるゲームと違って現実ですので気を引き締めるように。良いですね?」

 

「うん。ごめんなさい」

 

「宜しい。では、空也。久しぶりの魔法をお願いします」

 

「おうよ! 璃癒、見てろよ。魔法使いの最高ランクである賢者の爺ちゃんの活躍をな! アースパイル!!」

 

 少しだけ厳しい声で忠告すれば璃癒は素直に聞いてくれる。では目障りな存在には消えて貰いましょう。次の講義には些か現実離れしすぎている。空也が前に進み出て手を前に翳し魔法を唱えれば天に向かって岩の杭が突き出されていく。凄まじい勢いで広がっていく杭が止まった時、既にレッドゲル達は溶解する間も無く杭に核を貫かれて消えていきますが……予想通りですね。

 

 実際、空也も分かっているのか頬をポリポリと掻いています。扇状に広がっていく範囲。レッドゲルを飲み込んだのは辛うじて効果範囲に収めた端の方なのですから。

 

「……あちゃあ。こりゃしくじったな」

 

「ブランクですね。……私達も勘を取り戻す必要が有るようです」

 

 魔法を使えると使いこなせるのは別の話。暫くは広範囲の魔法は控え、コントロール取り戻さなくては……。

 

 

 

 

「空也お祖父ちゃん凄い! 僕も魔法が使えるようになるのかな!?」

 

「ん? ああ、確か魔法が使えるクラスを得たならレベルの上昇と一緒に使える魔法が頭に浮かぶ筈だぜ。……だったよな?」

 

「いや、魔法に関しては君の方が上だったでしょうに。なぜ私に訊くのやら……忘れたのですね」

 

「おうさ!」

 

 得意げに肯定できる友人が羨ましいと、この時は思いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて、次のモンスターで講義が出来れば良いのですが。望むのは獣に近い種類。命を奪う事について早めに知っておかないと……。

親友が単純すぎて羨ま悲しい あと、孫娘素直  by示現

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