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伝説の勇者の爺共  ~保護者同伴の英雄伝~  作者: モミアゲ
ちょっと寄り道、大レース
15/69

バイコーン 下

 僕がお兄ちゃん達と出会ったのは雨の日だった。ボクの種族のケルベロスは家族を大切にするってオバちゃんから教えて貰ったけど、ボクとだけ遊んでくれない他の兄弟みたいにお母さんに毛繕いをして貰った事も、お腹いっぱいご飯を貰ったこともなくって、食べ残しを食べても怒られない、それだけだった。


 ボクの毛の色が違うから? ボクが雷や氷も吐くから? だから家族って認めてくれなかったのかなぁ?


「あれれ? 皆、どこだろー?」


 ある日、起きたら皆が巣から居なくなってた。ボクは固まって寝ちゃ駄目だから離れて寝ているんだけど、一日待っても誰も帰ってこなくって、臭いを追ったら川を渡ったのか消えちゃってた。ボク、泳げないし川の中には何だか怖いものが沢山いるし、仕方ないから巣に戻って皆を待って、次の日も、また次の日もお腹が減るのを我慢して待ったんだ。


「……うぇ。不味いよぉ……」


 狩りを習っていないボクじゃ獲物を仕留める事なんか無理だし、美味しくない草や虫を食べて空腹を誤魔化してた。


「お肉食べたいよぉ……」


 骨にこびり付いたお肉を齧ってたけど、とっても美味しかったと思ってる。寂しくて一匹は怖くって、誰かとお話がしたくってボクは旅に出た。


 モンスターに、人に、動物に襲われて、受け入れて貰えなくって、寂しくてひもじくて寒くて、雨の中でボクは倒れて起き上がれなくなったんだ……。


「もう疲れちゃった……」


 もう全部諦めて目を閉じた時、温かい手がボクを持ち上げた。



「金毛のケルベロスとか珍しいね。師匠、これ飼って良い?」


「ペットを飼うのは情操教育に良いって聞くし……ちゃんとお世話できる?」


「うん!」


「多分世話するのは結局お母さ……私」


 生まれて初めて抱っこされて満腹になって暖かい寝床で寝て……生まれて初めて幸せだった。



「よーし! お前は今日からジークね。え? お兄ちゃんって呼びたい? 別に良いよ」


「セウスに逆らわないならご飯はあげる。早く強くなって守る。分かった?」


「……ケベロスルだったか?」


 皆、ボクの大切な家族。大切で大好きな家族。だから絶対にボクが守るんだ!






 バイコーンが前脚を振り上げる。さっきはお兄ちゃんが防いだけど、次は絶対に防げない。あんなのを受けたらお兄ちゃんが大怪我しちゃうよ!


「やめろぉおおおおおおおおっ!!」


 考えるよりも先にボクはバイコーンに飛びかかっていた。首筋に牙を突き立てて全力で噛む。皮もお肉も堅くって先っぽしか刺さらないけど足を思いっきり振り下ろすのは邪魔が出来た。バイコーン、お前はお兄ちゃんを苛めた! だから絶対に許さないぞ!


 牙が通じないなら噛んだ状態で雷や炎を吐き出してやる。これは少しは効いたのかバイコーンが暴れだした。


「ブルルルルルルッ!」


 お姉ちゃんが切った首の怪我と口から血を出しながらバイコーンは無茶苦茶に暴れまわってボクを木や岩に叩き付ける。木や岩が砕ける位の威力で凄く痛い。でも、お兄ちゃんはもう戦えないし、璃癒お姉ちゃんは怪我してエリーゼお姉ちゃんが治している。


 ボクしか居ないんだ。戦うのは身体が頑丈なボクの仕事なんだ。ボクが絶対に守るんだ!


 急に身体が宙に浮く。上に跳んだバイコーンは空中でグルグル回って目が回りそうだよ。


「ジーク、直ぐに離れろ!」


 お兄ちゃんの声に慌てて口を放してバイコーンから離れる。危なかったよ。あの勢いで岩に叩き付けられる所だった。


「お兄ちゃん、ありがとう」


「別に良いから無理はするなよ、ジーク」


 お兄ちゃんはそう言うけど、バイコーンは強いんだ。だから後で謝ろう。ボクは突進しようとするバイコーンが動き出すより前に頭からぶつかった。ううっ、凄い石頭。


「ブル……」


 でも、たぶん相手も怪我が大きくって弱くなってる。今ならボクの方が速いぞ!


 また前足を振り上げたバイコーンの胸を爪で切り裂く。とっても浅いけどバランスを崩したので体当たりを仕掛けたら伏せて躱されて頭突きを食らって転がった。


「やったなー!」


 全力で雷を吐き出そうとして……あれ? 息しか出ない。もしかして魔力切れ?


 突然、バイコーンが大きくなる。あっ、違った。ボクが元の大きさに戻っちゃったんだ。


「あわわわわ! お兄ちゃん、どうしよー!?」


「馬鹿っ! 相手から目を離すなっ!」


 聞こえてくる猛烈な足音。怒濤の突進を慌てて避けるけど余波でボクの小さな身体は吹き飛んで地面を転がり木にぶつかった」


「きゃんっ!」


 思わず悲鳴を上げたボクが見上げた先には踏み潰そうと落下してくるバイコーン。体中が痛くて動けないボクが目を閉じた時、温かい手がボクの身体に触れる。お兄ちゃんがボクを掴んで助けてくれたんだ。


「危っな! ジーク、無茶しすぎ。でも頑張ったよ。後でお肉買ってあげる」


「お肉ー!」


 何かな何かな? ボク、骨の付いた牛さんのお肉が大好きなんだ。涎が出て尻尾をブンブン振っちゃう。楽しみだなー、お肉!


「あれ? でもバイコーンはまだ……」


「ジーク、教えてあげる。勇者ってのは困難に打ち勝つ人を指す言葉なんだ」


 ボクを抱いたお兄ちゃんごとボクを倒そうとこっちを向いていたバイコーンの背後から璃癒お姉ちゃんが飛びかかる。手には折れちゃった剣を持ってた。







「ホーリーセイバァアアアアアアアアアッ!!」


 柄に残った刃がナイフくらいの大きさの光の剣になってピカピカ眩しい。でもボクは見逃せなくって頑張って見る。バイコーンの背中に飛び乗った璃癒お姉ちゃんは首に刃を突き刺した。



「ブルォッ!?」


 とっても沢山の血を吐いてバイコーンは苦しそう。でも、そんな状態なのに走り出した。背中に璃癒お姉ちゃんを乗せたまま。


「くっ! これでも倒せないなんてっ!」


 首に食い込んだ剣の柄を掴みながらしがみついた璃癒お姉ちゃんを振り下ろそうと走り出す。きっと逃げる気だ。逃げて怪我を治して人を襲う気なんだなっ!


 璃癒お姉ちゃんも分かっているのか必死でしがみついて、バイコーンは自分の身体ごと木とかにぶつかっている。もう声も出ないのか口から血だけが出るだけだ。


 そうだよね、生きたいよね、死にたくないよね。ボクもお兄ちゃんと出会えなかったら死んでいたもん、分かるよ。


 でもね、子供のボクより分かっているだろうけど戦いなんだ。



「あぐっ! 痛っ! こなくそっ!」


 璃癒お姉ちゃんは体中をぶつけて血を流すけど絶対に手を離そうとしない。バイコーンの脚はちょっとずつ遅くなってるし、もう限界が近いんだ。だから何が何でも生き延びようと全力を尽くしている。



「……ごめんね。君は本当は人とは関わらない所に住んでいたんでしょ? だから、僕を恨んで構わない」


 璃癒お姉ちゃん、バイコーンが可哀想だって思ってる。泣きそうな顔で歯を食いしばって呟くのがボクには見えて聞こえていた。




「伸びろっ!」


 後ろから首に刺さった光の刃が伸びて貫通する。今までで一番多くの血を吐いてバイコーンは倒れた。最後に璃癒お姉ちゃんが投げ出されないように自分が下敷きになるみたいにして……。



「……はははは。勝っちゃったよ。まあ、レースの優勝は無理だけどさ。少し休んで行こうか」


 緊張が解けたのか座り込んだお兄ちゃんがボクの頭を撫でながら笑ってる。矢っ張りお兄ちゃんが撫でてくれるのが一番嬉しいな! でも、レースを諦めるなんてどうしたんだろ?



「ボク、走れるよ? 頑張って一位になるよ!」


「構わないから休めって。ボクは情報よりジークが大事なんだからさ。怪我は大丈夫?」


「うん! お兄ちゃんが守ってくれたもん」


 とっても嬉しいから顔を嘗めてあげる。ふふん! 後で璃癒お姉ちゃんも嘗めてあげよっと!







「ジークもボクを守って……璃癒さん、逃げてっ!」


 お兄ちゃんが安心した顔から一変して叫ぶ。さっき倒した筈のバイコーンが立ち上がってた。首に穴が空いて目は死んでいるのに動いている。あれってゾンビだ!


 でも、こんな短時間でどうしてと思ったボクが見たお兄ちゃんのお顔は凄く怖かった。


「イルマ・カルマぁ……!」


 その名前をボクは知っている。お兄ちゃんのお兄ちゃんの一人を殺した禍人の死霊使い(ネクロマンサー)の名前だった。






「……あはは。ちょっと不愉快かな?」


 確かに倒したのに立ち上がったバイコーンの瞳には生気がない。だって首に穴が空いているし、そこから血が溢れ出しているのに平然としている時点で変だ。


 変な話だけど僕はバイコーンに、いや、戦ってきた相手に敬意を持つ事にしている。命を奪うことに慣れすぎてしまわないように、本当の意味で強くて誰かを守れる勇者になるために。


 だからこそ、目の前のバイコーンの姿に無性に腹が立つ。肉が急速に腐って目玉が飛び出して神経でぶら下がって所々骨が姿を覗かせる。魔法に詳しくはないけど何かしらの魔法が発動したって理解した。



「イルマ・カルマぁ……!」


 そう、セウス君は犯人に心当たりがあるんだ。うん、覚えたぞ。探しているっていうイルマ・カルマって名前の禍人がやったんだね。



「あー、でも拙いな。ゾンビってリミッター外れて強くなってるんだっけ……」


 凄く腹が立っている僕だけど正直言って限界が近い。剣だって今度は完全に砕けちゃったし体中が痛いしピンチだ。……でもさ、ピンチにはヒーローがやって来るものだ。





 そうでしょう? ねぇ、示現お祖父ちゃん。


「遅くなって済みません、璃癒。ですが、もう安心なさい」


 示現お祖父ちゃんがバイコーンゾンビの前に立ちふさがる。もう老人なのに大きく見える背中は格好良くって頼もしくって憧れた。こうして見ると本当に遠いなぁ。



「示現お祖父ちゃん、解放してあげて」


「ええ、分かりました」


 ゾンビに知能はなく、存在するのは生き物を襲って食べる本能だけってエリーゼから聞いている。バイコーンも血と涎をダラダラと口から溢れさし、さっきまでの数倍の速度で至近距離の僕達に襲い掛かる。




 そして、次の瞬間には示現お祖父ちゃんが剣を鞘から抜いて振り下ろし両断していた。左右に分かれて飛んでいき、地面に転がるバイコーンの死骸。今度の今度こそ倒したって転がった魔魂石が教えてくれた。





「皆さん、随分と頑張ったようですね。野暮用で遅れで不安でしたが杞憂だったらしい」


「野暮用?」


 流石にエリーゼだけじゃ治療の手が回らないから示現お祖父ちゃんも治療を行っている最中、戦いの様子を僕から聞いて示現お祖父ちゃんは少し嬉しそうだった。……無茶だって怒られもしたけどね。


 そして示現お祖父ちゃんが何をしてたかというと怪しい奴らと戦っていたらしい。


「いえいえ、戦ってなどいませんよ?」


「え? 武器を構えた奴らがガルムの拠点の周囲やら森の中に居たから捕らえたんでしょ?」


「はははは。あの程度、戦いなどと言いません。……まあ、璃癒達の中に上玉が居るから伯爵に差し出すなどと口にしたので少し本気は出しましたけど。可愛い孫娘に手を出させる訳がないでしょうに」


 あー、うん。多分エリーゼの事じゃないかな? って言うか恥ずかしいから人前では止めてっ!


「璃癒、今後は気を付けなさい。貴女はこちらの世界では向こうより魅力的に見えるらしい。変な輩が寄ってくる程にね」


 だから止めてってっ! ……まったく、孫娘が可愛いからってさ。嬉しいけど恥ずかしい……。





「あのね、あのね! ボク、走りたい気分なんだ! 駆けっこの続きがしたいな!」


「良し、出発しようか、セウス君!」


「え? あっ、うん」


 もう回復したのかジークはまた大きくなって今すぐ走り出したいみたい。これはこの場から逃げ出すチャンスだって思った僕はセウス君の手を取ってジークの背中に飛び乗った。





 緑溢れる森の中をジークに跨がって突き進む。凸凹道も獣道も道無き道を平然と走破する中、僕はセウス君の背中を見つめていた。


 最初は首飾りが欲しかったし興味もあったからこれ幸いと参加したレースも終盤。短い時間だけど濃密な体験をしたと思う。


 ジークみたいに速い動物に乗って自然の中を巡ったのも、氷の橋を渡ったのも、洞窟で迷ったりしたのも今は面白い体験で、誘ってくれたセウス君には感謝している。多分この子は巻き込んでしまったって思ってるだろうけど、バイコーンとの戦いだって終わってみれば悪くない……かな?


 いや、セウス君はずっと年下だし、僕にそっち系の趣味はないよ? そんな言い訳や弁明を先にさせて貰うけどさ、危なかった時の僕を助けてくれた姿は格好良かったって思った。


 僕、誰かを守れる人になりたいし、お祖父ちゃん達に守って貰ってはきたけど、お祖父ちゃんはお祖父ちゃんだもん。男の子に守って貰うってシチュエーションに何も感じない程に枯れた青春は送っていないんだ。


 言っておくけど少しだよ? ほんの少しだけドキッとしたんだ。うん、こんなのは初めてだよ。相手はずっと年下の子供なのにね。


「璃癒さん、見えてきたよ!」


「うん! このまま一気に突っ切ろうか!!」


 だから森を抜けて先頭集団の背中が見えた時に少しだけ惜しいって感じちゃった。きっと半分はジークに乗るのが楽しいからだけど、きっと残り半分は……。



「行くよ、全速力だぁー!!」


 ジークの掛け声と共に僕は落ちないように姿勢を低くしてセウス君に密着する。あっ、少し照れてるや、可愛いな。そして一人、また一人とジークは追い越して遂に……。












「ゴール!! 一位はセウス&璃癒&ジーク! まさかの大番狂わせ、優勝したのは十歳の少年だぁー!!」


 万雷の喝采が僕達を祝福し、それに応える為に手を振る。あー、楽しかった。またジークに乗れたら嬉しいな。










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次回は後始末と次へのフラグ、エピローグ挟んで兄弟の物語の予定 感想が来ないのって厳しいですね 一定数はアクセス有るし嬉しいけど

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