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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「やっぱりレイナにはフリフリがよく似合うね。」

 ドレス姿になった私を見てレオナルドが嬉しそうに笑った。

「これなら絶対エイデンも喜ぶはずだよ。」

 そう言われて改めて姿見で自分の姿を見る。


 自分で言うのもなんだけど、たしかに今日の私は可愛らしい。

 フリフリとリボンがたくさんついた、ふんわりしたスカート部分を揺らしながらいろんな角度からドレスを眺める。


「本当に可愛いドレスね。」

 こんなにボリュームがあるドレスでいいのかしら? と悩んだけど、このドレスにしてよかった。

 エイデンは気に入ってくれるかしら?


「レイナのドレスは俺が決める。」

 エイデンはそう言ってなかなか譲らなかったが、それじゃつまらない。

 結婚の儀も披露パーティーもエイデンとカイルが仕切るのだから、ドレスくらいは自分で決めさせてと頼み込んで何とかオッケーをもらったのだ。


 ビビアンとミアとゆっくり決める予定が、レオナルドとジョアンナが黙っていられるはずもなく、揉めに揉めて選んだドレスがこれなのだ。

 まだエイデンにドレス姿は見せてないし、どんなドレスを着るのかも伝えてはいない。


 姿見の前で改めて自分の姿を見つめる。白く輝くドレスが、今日という日を一段と特別なものにしてくれる。


「エイデンは今頃、レイナのドレス姿が見たくてうずうずしてるだろうね。」

 そう言ってレオナルドが笑った。


「レイナ様、お綺麗ですよ。」

 瞳を潤ませたビビアンと鏡の中で目があった。

 その横ではミアも目頭を押さえている。


「二人にはいっぱい心配かけたよね……いつも一緒にいてくれてありがとう。」


 いつも本当の姉のように見守ってくれている二人の涙に、私まで胸がいっぱいで熱いものが込み上げてくる。


「レイナ、泣いたらだめよ。せっかく綺麗にしたんだから。」

 私の目元をそっと押さえるミアの瞳からはポロポロと涙が溢れおちる。

 本当に私の側にビビアンとミアがいてくれることが幸せだった。


「私のボディラインを際立たせるには絶対にマーメイドラインって思ってたけど、プリンセスラインも捨てがたいわね。」


 私達が涙を浮かべるその後ろでは、いつものごとくジョアンナ達が盛り上がっている。

「プリンセスラインですか……いいと思いますが、あんまり可愛いのは似合わないんじゃないですかね。」


 そう言ったレオナルドに、

「どういう意味? 私に可愛らしいドレスは似合わないって言いたいの?」

 ジョアンナがブスっとした顔をむける。


「そういうわけではないですが……」

 言い淀むレオナルドの横から、

「僕達の結婚式ではこれくらいの丈のドレスが着て欲しいです。」

 とアランが口をはさみ、膝上15センチくらいの所に手で線を引く。


「バッカじゃない?」

 ジョアンナが冷めた瞳をアランに向けた。

「誰がそんなミニ丈着るもんですか。」


「えー。」

 アランが残念そうな顔をする。

「だいたい好きな女に太ももを出せって言う男なんている? 普通は隠せって言うもんじゃないの?」

 ジョアンナは不満そうだ。


「だってジョアンナ様の足はスラリと長くて美しいから、皆に見せたくなっちゃいますよ。」

「まぁたしかに、私の足は綺麗だけど……」

 アランの無邪気な笑顔にジョアンナがほんのりと頰を染めた。


 いつもの賑やかなやりとりに、私達の感動の時はいつの間にか過ぎ去ってしまい、ビビアン、ミアと顔を見合わせてクスリと笑った。


「レイナ……」

 名前を呼ばれ振り向くと、レオナルドが私を見つめていた。いつにない真剣な表情に思わずドキっとしてしまう。


「レイナ、本当にありがとう。」

 お礼を言われることに心当たりがなくて、首をかしげる。

「こんな風に私達が楽しく過ごせるのはレイナのおかげだよ。」


「私は何も……」

 こんな風に毎日が楽しいのは私のおかげではなく、レオナルドやジョアンナが明るく賑やかだからだと思うけど……


「昔から兄弟仲は悪くなかったけれど、ぎこちない関係だった私達を近づけてくれたのは間違いなくレイナだよ。」

 レオナルドの瞳はとても温かくて優しい。

「私はそのことがとても嬉しいんだ。」


「……そうね。」

 とジョアンナが言う。

「私も久しぶりにここに帰ってレオナルドとエイデンがうちとけているのを見て驚いたわ。」

 ジョアンナの眼差しもレオナルドと同様にとても優しかった。


「エイデンはよく笑うようになったわよね。それに反応を返すし。今までは嫌味を言おうが、何しようが冷めた目で黙って見てただけだもの。」


「人間らしくなったって言ったらいいのかな。」

 レオナルドが立ち上がって私の側に来た。

「本当にレイナのおかげだよ、ありがとう。これからもエイデンのことを頼むよ。」

 レオナルドが兄の顔をして優しく笑った。


「もう、レオったら……」

 そんな風にお礼なんて言わないでよ。そんなこと言われちゃったら私……目頭が熱くなってくる。


「泣いたら美人がだいなしだよ。」

 レオナルドが笑いながら私の頰の涙を優しく拭う。

「そうね………」

 涙を浮かべたまま、レオナルドに微笑み返した。


「おいっ。」

 急に聞きなれた声が聞こえて顔をあげる。

 ぐいっと体が引かれ、思わずよろけそうになる。


「……エイデン?」

 いつの間に現れたのか、エイデンがよろける私を支えるようにしながらレオナルドに厳しい視線を向けていた。




  ☆ ☆ ☆




「どう考えてもおかしいだろ。」

 忙しそうに動き続けるカイルに愚痴を言う。

「どうしてレイナのドレス姿を見に行けないんだ。」

 レオナルド達はレイナの部屋に入り浸ってるというのに……


「そもそもドレス選びに付き合うのは夫である俺の役割だろう。それを我慢させられた上に結婚の儀までドレス姿を見るなとかあり得ない。」


「それはあなたがこの国の王で、結婚の儀がこの国の大切な行事だからです。ドレス選びに付き合うような時間なんてありません。」

 カイルは口を動かしながらも手を休めることはない。


「結婚の儀まであと少しじゃないですか。ドレス姿なんてそんなに焦って見なくても後でゆっくり見れますから。」


 全く……俺がどれだけレイナのドレス姿を楽しみにしているのか分かっちゃいない。

 そもそも俺はレイナのドレス選びもやる気満々でとても楽しみにしていたのだ。


 俺の好きなドレスを次々とレイナに着せていくなんて、想像しただけで楽しくてたまらない。

 それなのに……俺の一番の楽しみを奪われてしまった。


 まぁレイナが自分で決めたいとあれだけ言ったのだから仕方ないと思ったが、レオナルドがドレス選びに付き合っていたなんて許せない。

 それこそレオナルドが俺の代わりに儀式の用意やパーティーの用意をすればいいのだ。


「もう我慢ならん。」

 バンと机を叩いて立ち上がる。

 考えれば考えるほどイラついてくる。

 どちらにしろこのままでは何も手につかないのだから、レイナのドレス姿を見に行った方がまだ有意義だ。


「陛下、まだ……」

 カイルが呼びとめるが、

「お前に全て任せた。」

 と言って部屋を後にした。

 まぁ残る仕事はそう多くはない。それにカイルはとても有能だ。全て任せても何の心配もない。

 心が浮き立ち、知らぬ間に早足になってくる。


 これは……

 部屋を開けた瞬間にまばゆい輝きを感じた。純白のドレスに身を包んだレイナが眩しすぎて目を細める。


 ん?

 思わず見惚れていたがよく見ると泣いてるのか?


 レオナルドがレイナの涙を拭う姿を見てイラッとする。

「おいっ。」

 ぐいっとレイナの肩を引きレオナルドから引き離す。


 俺の許可なくレイナに触るな。

「何泣かせてるんだ?」

 レイナを泣かせていることにも、レイナを慰めていることにも腹が立って仕方がない。

 それをしていいのは他の誰でもなく俺だけだ。


「これは泣かされたわけじゃなくて、感動したって言うか胸がいっぱいっていうか……」

 俺の怒りを感じたのか、レイナが焦ったように説明する。

「とにかくレオは悪くないの。」


「レイナ、言っても無駄よ。」

 後ろから、からかうようなジョアンナの声が聞こえてくる。

「エイデンはレイナに近づくものは誰であろうとムカつくんだから。」

 そう言って笑うジョアンナに続いて、

「本当にエイデンは独占欲の塊だね。」

 そう言いながら、なぜか嬉しそうにレオナルドが笑った。


「何嬉しそうな顔してんだよ?」

 ヘラヘラしているレオナルド達に余計にイライラしてくる。

「本当に……エイデンは可愛い私の弟だよ。」

 そう言ってレオナルドが俺の頭をポンポンと叩いた。


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