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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「なんで、あんた達まで来るのよ。」

 せっかく盛り上がってたのにとジョアンナが口を尖らせる。


「いいじゃないですか。クリスティーナ姫とアイリン姫にご挨拶したかったんですよ。」

 とレオナルドがにこやかな笑顔を見せた。


「ちょうどいい時間なのでお菓子を持って来ました。」

 並べられていくお菓子を見て、ジョアンナが瞳を輝かせる。


「ずいぶんと楽しそうだったけど、一体何の話をしてたんだ?」

 そう尋ねながら、エイデンが私の隣に腰掛けた。


「それは……」

 絶対に言えないわ。誰のお尻が一番好きか話してたなんて言えるわけがない。

 黙ってしまった私をエイデンがすごい瞳で見ている。

 どうしたのかしら? 今日は一段と目力が強いわ。


「私とエイデン様が婚約解消してなければ、明日レイナ様の結婚式はなかったんですよねって話をしてました。」

 クリスティーナが艶やかに微笑んだ。


 へっ?

 たしかにエイデンには聞かれたくない話題だったけれど、いくらなんでもそれは……誤魔化し方が下手すぎじゃない?

 クリスティーナの嘘に、動揺してしまう。


「はぁ?」

 エイデンが厳しい瞳をクリスティーナに向けた。

 その視線を見て、そういうわけねと納得する。

 嬉しそうに頰を染めるクリスティーナに、

「前にも言いましたが、レイナの前でそのような話題を出すことはやめていただきたい。」

 エイデンは一段と冷たい視線を投げかけた。


「私は気にしてないから大丈夫よ。」

 別に強がりではなく、クリスティーナの目的が分かっている今、そんな話題では傷つきもしないし怒る気も起きやしない。


「……気にしてないのか?」

 少し不満気な様子でエイデンが私を見た。

「ええ、全然。」

 そう言って笑うと、エイデンは一層不満そうな顔を見せた。


 あら? 気にしてるって言った方が良かったのかしら?

 黙ってしまったエイデンを見ながら悩んでしまう。


「そう言えば、あのひとは元気にやってるのかな?」

 重苦しい空気を漂わすエイデンとは対照的に、レオナルドの声は弾んでいる。きっと机の上に並んだ甘いものでテンションがあがっているのだろう。


 レオナルドの言うあのひとが、エイデンとレオナルドの母親であるシャーナだということがクリスティーナには伝わったようだ。

「わたくしはあの事件以来お会いしてませんが、元気みたいですよ。」


 クリスティーナは複雑な表情を浮かべた。

「あんな事があったのに、まだ父はシャーナ様に夢中なんですよ。」

 困ったものですよね……少し悲しそうにクリスティーナは呟いた。


「クリスティーナ様……」

 そりゃ悲しいわよね。父親が自分を殺そうとした人物を未だに愛しているんだもの……


「帰国した父からお話を聞いた時はびっくりしましたわ。あのシャーナ様がそんな怖ろしいことをするなんて……」

 とアイリンも悲しそうな顔をした。


「大国会議ではアイリン姫の父君にはお世話になりました。」

 自分達の身を案じてくれたことがとても嬉しかったのだとエイデンは言った。


「このままずっと大人しくしといてくれればいいんだけどね。」

 レオナルドの言葉に、

「もしまたレイナに何かするようならただじゃおかない……」

 エイデンが殺気立つの感じてビクッとしてしまう。


 実の親子なのに……

 シャーナのしたことは許せないけれど、それでもエイデン達と冷めきった関係なのは何だか寂しい気がした。


「どうしてシャーナ様はあんなことをしたんでしょうね?」

「答えは簡単だ。母は俺の事が嫌いだからだ。」

 エイデンがふんっと冷たく鼻で笑った。


「そうかなぁ? サンドピークに嫁いだのは、エイデンとクリスティーナの婚約を円満に解消するためだって話だし、エイデンのことを嫌いっていうのは間違いじゃないのかな?」


「だからレイナの前で、昔の婚約の話は出すなって言ってるだろ。」

 エイデンがレオナルドに文句を言った。


 だからさっきも言ったけど、私は別に気にしてないんだけど……

 今更クリスティーナとエイデンの関係なんて微塵も気にならない。


「あの女はエイデンの事を嫌いって言うより、フレイムジールの事が嫌いだったのよ。」

 冷静な口調でそう言ったジョアンナにエイデンが尋ねる。

「そう言えば前に、あの女はフレイムジールを滅ぼしたいんだと思うとか言ってなかったか?」


「何だか物騒な話になってきたね。」

 レオナルドが眉間に皺をよせた。

「そんな事言ったかしら?」

 ジョアンナは首を傾げる。


「シャーナはね、お兄様がフレイムジールに殺されたと思っているの。」

 ジョアンナの顔が切なそうに歪んだ。

「そんなわけないのにね……でもシャーナはお兄様を本当に愛していたから、きっと受け入れられなかったんだと思うわ。」


 フレイムジールに殺された……その意味を尋ねたいけれど、ジョアンナの悲しそうな顔を見ていると言葉が出てこない。


「……どうぞ。」

 ビビアンが皆の紅茶を新しいものにいれかえてくれる。カップからたちのぼる湯気と共に微かにレモンの香りが漂ってくる。


「レモンバームね。」

 いい香りとアイリンが口元をほころばせた。

 爽やかな香りが暗い気分を明るくしてくれるようだ。


 ハーブティーにたっぷりと入れた蜂蜜を混ぜながら、

「私達の父親がフレイムジールに殺されたってどういう意味なんです?」

 とレオナルドが尋ねた。


 同様に蜂蜜たっぷりのハーブティーを口にして、おいしいとジョアンナが満足そうに顔をほころばせた。

「どこから話そうかしら?」

 私達の顔を見まわして、

「ちょっと長くなるかもしれないけど、やっぱり最初からかしらね。」

 と言って微かに笑った。


「あなた達はシャーナがフレイムジール属国の姫だったって知ってるかしら?」

 それは聞いた事があるとエイデンが答える。

「確か王妃の産んだ子じゃなかったんだよな?」


「そうよ。シャーナの本当の母親については知らないけれど……あの美貌だから、父親である王にも母親違いの兄達にもとても可愛がられてたらしいわ。」


「想像ができますわ。」

 クリスティーナの言葉に私も頷いた。

「私はまだ小さかったけれど、城の舞踏会でいつも人々の中心にいたのをよく覚えてるわ。」

 ジョアンナが昔を懐かしむように瞳を細めた。


「それでエイデン様のお父上に見初められたんですか?」

 ワクワクしたような顔をしながらクリスティーナが尋ねた。


「それは違うわ。シャーナがお兄様を好きになったのよ。あの頃のお兄様は自分のことで手一杯で誰とも結婚するつもりなんてないとよく言ってたもの。当時この国はゴタゴタしてたし……」


 エイデンの父親かぁ……

 どんな人だったんだろう。エイデンとレオナルドが生まれる前に亡くなっていたことしか知らないエイデンの父親の話に胸がドキドキしてくる。


「ゴタゴタって何かあったのか?」

「王位の事でちょっとね。」

「王位?」

 エイデンとレオナルドが同時に声をあげた。


「当時お父様が退位について考え始めてたの……まだ若くて元気だったけどお母様が亡くなって気力がなくなってしまったんでしょうね……」

 ジョアンナが切ない顔をしながら話を続ける。

「それで王位継承順位について議論されはじめたってわけ。」


「王位継承順位が確定してなかったんですか?」

 驚いたような顔でアイリンが質問する。

「ええ。でもこの国ではよくあることよ。現に今だってはっきりしてないもの。」

 そうよね? とジョアンナがエイデンに同意を求める。


「そうだな。」

 基本的に一番強力な魔力を持つ者が王位を継ぐため、王が退位する時に初めて王位継承順位について議論されるとエイデンが言う。


「まぁ魔力の強弱は皆が知ることだから、議論と言っても形だけだがな。」

「一体何がそんなに問題だったんです?」

 エイデンとレオナルドが不思議そうな顔をする。


「私とお兄様は年齢が12歳離れてるの。お父様が退位を考え始めた時は今から22年くらい前だったかしら? お兄様がちょうど20歳で私が8歳の時だったわ。」


 ん?

 今さらりと言ったけど、22年前にジョアンナ様が8歳だった?

 ……ということは……


「えぇ?」

 つい声が出てしまって、慌てて口に手を当てた。

 何驚いてるんだという皆の視線を感じて、

「ごめんなさい。」

 と謝った。


 ジョアンナ様ってば今30歳なのね……

 今まで聞きたくても聞けなかったことがあっさりと分かってしまった。


 そんな言うほど年じゃないじゃない。

 ジョアンナが年のことを気にしていたから、正直もっと年上かと思っていた。

 本人には口が裂けても言えないが、見た目通りの年齢だったことがちょっとだけつまらなかった。

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