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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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 バラが見頃を迎える庭に、楽しい笑い声が響く。

 女子会はジョアンナの婚約話で大盛り上がりだ。


「私、お祖父様はジョアンナ様とアランの婚約に反対するんじゃないかと思ってました。」

 ジョアンナの父であるエイデンの祖父は、常々ジョアンナに結婚しろとは言っていた。でも相手があのアランだとさすがに反対するのではないかと思っていた。


「まぁね……私も賛成されるとは正直思ってなかったわ。」

 ジョアンナはそう言って笑った。


 ジョアンナからの結婚宣言があった夜、エイデンとジョアンナについて話をした。

「今朝ジョアンナ様からアランと結婚するって話を聞いたわ。すごい驚いちゃった。」

 少し疲れた様子のエイデンが俺もだと言う。


「絶対アランはないと思ってたんだがな……」

 就寝前なので紅茶ではなくカモミールティーを飲みながら、エイデンは仏頂面だ。


「悪い子じゃないんだけどね……」

 でも頼りないというか、子供っぽいというか……まぁ実際18歳だから若いと言えば若いんだけど……私と2つしか違わないなんて信じられない。


「まぁ年のこともあるが、それより……」

 アランはガリガリじゃないかとエイデンが言う。

「あんなに俺を貧相だと笑ってたくせに、あんなほっそい奴でいいのかよっ。」


 ジョアンナに散々言われていたのか、エイデンは自分の腹筋をポンポン叩きながら、

「どう見ても俺の方がいい体だろ?」

 と私を見る。

 アランの裸は見たことがないけれど、肩幅や手足の感じからだと筋肉質というのは考えにくい。


「それより、よくお祖父様が反対しなかったわね。」

 このままだとエイデンの筋肉話になってしまいそうで、慌てて話題を変えた。


「反対しなかったんじゃなくて、できなかったんじゃないか?」

 驚きすぎて頭が働かなかったんじゃないか? とエイデンが言う。


「それにだ。ジョアンナは自分がこうと決めたら誰が反対しようとも勝手にするからな。反対しても無駄ってのもあったのかもしれないな。」

 そう言ってエイデンが笑った。

 それもそうだと私もつられて笑顔になる。

「まぁ何にせよ、めでたいことだな。」

 エイデンもなんとなくだけど嬉しそうだ。


 そんな思い出に浸っていると皆がこちらを見ていることに気づいて慌ててしまう。

「何ぼんやりしてるんですか?」

 クリスティーナが心配そうな顔で私の顔を覗きこむ。


「どうせエイデンのことでも考えてたんでしょ?」

 ニヤニヤしちゃって……とジョアンナがおかしそうに笑った。


 私ってばそんなにニヤニヤしてたかしら?

 たしかにエイデンの事を思い出していたけど、そんなに甘いことを考えていたわけではない。


「ジョアンナ様がアランと結婚すると分かった時、『アランはガリガリじゃないか。』ってエイデンが言ってたなって思い出してました。」

 エイデンの口調を真似した私を、三人は一瞬きょとんとした顔で見つめた後、大爆笑した。


「やだ、レイナ様ってば。」

「笑わせないでよ。」

 そう言ってひとしきり笑った後で、ジョアンナがコホンと一つ咳払いをした。


「まぁたしかにね〜。腹筋の面では不満としか言いようがないわ。」

 ジョアンナが頬杖をつきながら不満気な顔をする。

「たしかにアラン様は細くてらっしゃるから。」

 ジョアンナの腹筋好きはアイリンもクリスティーナも知っている。


「でもね。」

 ジョアンナが瞳を輝かせ身を乗り出した。ちょいちょいっと私達を手招きする。


「アランは腹筋はダメだけど、お尻は最高にキュートなのよ。」

「お尻!?」

 耳を寄せた私達は、ジョアンナの言葉に思わず大きな声が出て、慌てて口を塞いだ。


 話しても話しても……話題が尽きることのない私達の女子会は続いていく。




  ☆ ☆ ☆



 レイナ達が庭で笑いあっているのと同時刻、執務室では……


「あれ? エイデンは?」

 自分を呼ぶレオナルドの声が聞こえ、無言のままここだと手で合図をした。


「またこんな所でレイナのこと覗いてたのかい?」

 飽きないね〜と言いながら、レオナルドも一緒になってカーテンの隙間から庭で笑うレイナ達の様子をうかがう。


「それにしても、レイナとクリスティーナが仲良くなったのには驚きだよね。」

 レイナはサンドピークで嫌な思いをしたはずなのに、なぜか今までよりもクリスティーナと距離が縮まっていることが不思議だった。


 しかもクリスティーナは俺の元婚約者ということで色々あったはずなのだが……なぜか俺の知らない所で2人が意気投合している。


「まぁ、レイナが楽しいならそれでいい。」

 可愛いらしい笑顔を見ていると、何だかとても癒される。


「おふたりとも……」

 振り向くとカイルが非常に暗い顔で俺達を見ていた。

「な、何だい?」

 その迫力に押されながらレオナルドが返事をした。


「何ですか、その双眼鏡は? カーテンの隙間からこっそり覗くだけでも、あれでしたのに、双眼鏡まで持ちだすなんて……」

 ああ……と首を振りながら、

「あなた方は一国の王と大臣なんですよ。それなのに……」


 まぁいつもの如くカイルの説教が始まり、レオナルドと2人顔を見合わせて肩をすくめた。


「仕方ないじゃないか。今日は遠いんだから。」

 レイナのガーデンには様々な花が植えられている。

 今が見頃なバラ園は、ここからだと少し離れた場所にあるのだ。そのためバラ園で茶会をするレイナの表情は肉眼では分からない。


「毎晩一緒に寝てらっしゃるんですから、少しの間くらい顔を見なくてもいいじゃないですか。」

 カイルはそう言うが、そういうもんじゃない。

「俺以外の人間といる時の様子も気になるだろ。」

 そう言って双眼鏡を覗きこんだ。


「皆楽しそうだねぇ。」

 レオナルドも同様に双眼鏡を覗きこむ。

 レイナが楽しそうに大きな口をあけて笑っている。


「なんか、俺といる時より笑ってないか?」

 あまりにも楽しそうなレイナの様子に思わずモヤモヤしてしまう。


「一体何話してるんだろうね?」

 さすがに遠すぎてレイナ達の声は聞こえない。

「次は声が聞こえるようにするか……」

 そう呟く俺に、どうやって? とレオナルドが笑った。


 どうやれば声が聞こえるか……

「おい、カイル。」

 俺の呼びかけにカイルが嫌そうな顔を向けた。

「いい案なんかありませんよ。」

 尋ねるより前にそう返事をする。


「そもそも、女性陣の話を盗み聞きしようとするのが間違ってます。」

 と言うカイルに、

「えー? カイルは気にならないかい?」

 とレオナルドが尋ねた。


「全く気になりませんね。」

 そう答えてカイルが一つため息をつく。

「いいですか? 女性が盛り上がっている時の話題ほど、怖ろしいものはありませんよ。」


 そう言うものか? と首をかしげる俺達にカイルは力説する。

「そうなんです。女性が盛り上がってる時の話題というのは決まって旦那や恋人の悪口なんですから。」


 そういえば、こいつは家で嫁の尻に敷かれてるんだったな……

 そう思い出して思わず苦笑いしてしまう。


「じゃあ今レイナ達はエイデンとアランの悪口で盛り上がってるってことだよね?」

 再び双眼鏡を手に取りながらレオナルドが言った。

「なんか余計聞きたくなっちゃったな。」


「アランの悪口ならともかくとして、俺の悪口はないだろ。」

 そう言いながら双眼鏡を覗きこむ。


 レンズの向こうでは、レイナが頰をうっすらと染めて照れ笑いをしている。

「俺の話をしているんだとしたら、惚気に決まっている。」


 自信満々な俺に、

「確かめてみるかい?」

 とレオナルドが笑った。


 どうやるのかと尋ねる俺に、いい方法があるとレオナルドが笑った。そして窓の外に向かい、

「クロウ。」

 と名を呼んだ。


 ヒュッと窓から吹き込む風に思わず目を瞑ってしまう。目を開けた時にはどこから現れたのか、レオナルドの影であるクロウが側に控えていた。


「クロウなら、レイナ達が何を話しているのか口の動きで分かるよね。」

「読唇術はあまり得意ではありませんが……」

 そう言いながら、窓際に立ちレイナ達の方を見る。


「おい、これ……」

 手渡そうとした双眼鏡を必要ないと返された。

 こんなに離れた場所からでも、レイナの口の動きが分かるのかと尊敬する。


「……おしり……」

 静かにレイナ達を見つめていたクロウが一言だけ呟いた。


 おしり? 知り合いについて話しているのか?

 続きを待つ俺にクロウは、

「申し訳ありません。」

 と頭をさげた。


「私の口からはお話できませんので……失礼。」

 それだけ言うと来た時と同様に、いきなりいなくなってしまった。


「言えないって……一体?」

 レイナ達は何を話してるんだ?

 不安になる俺の横で、

「だから言ったじゃないですか。」

 カイルがそう言って、少しだけ勝ち誇ったような顔をした。

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