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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「レオナルド、久しぶりだね。ジョアンナ様も相変わらずお綺麗で。」

「あなたも変わらず素敵だわ。」

 挨拶を交わすアダムとジョアンナの間にアランがさっと入り込む。


「はじめまして。」

 アランの敵意にも近い視線もなんのその、アダムはにこやかにアランと握手を交わす。


「まぁ、レイナ。何可愛いらしい格好してるのよ?」

 私を見たジョアンナの瞳がキラキラと輝いた。

「似合うでしょう?」

 お土産なのだと言うアダムに、

「センスいいじゃない。」

 とジョアンナが褒める。


「本当、可愛いよ。エイデン何怖い顔してるんだい? レイナが可愛すぎて言葉も出ないのかい?」

 にっこり笑うレオナルドに、

「そんなわけないだろ……」

 冷たく返すエイデンがちょっと怖い。


「今エイデン王に、妻の私室に入らないでほしいって怒られてたところなんだ。」

 アダムが明るい口調で言った。


「へー。」

 ジョアンナやレオナルドがエイデンを見る。

「あんたそんなこと言ったの。」

 ニヤニヤしたジョアンナに、エイデンが何だよと不愉快そうな顔をする。


「妻の私室に入るなかぁ…」

 レオナルドもニコニコしている。

「本当にエイデンはヤキモチやきだよね。」


 そう言われてエイデンはかぁと赤くなった。

 なんか、可愛いんですけど……

「誰が妬いてなんか……」

 と顔を背けてしまったエイデンが何だかとても可愛くて笑ってしまった。


「何笑ってんだよ。」

 ムッとした表情のエイデンと目があって、慌てて笑いを引っ込めた。

「まぁまぁ、エイデンもそんなに怒らずに。」


 結局私の部屋でごちゃごちゃやっていても始まらない……ということで皆揃って移動することになった。

 窓が大きく開放的な応接室では、カイルがアダムをもてなす準備をしていた。


「おやまぁ、皆さんお揃いですか。」

 一斉にやって来た私達を見て、カイル達が急いでテーブルの用意を終わらせる。


「ジョアンナ様?」

 なんて格好してるんだと言わんばかりの瞳でカイルがジョアンナを見つめている。

 やっぱりウィッグをはずして来て正解だった。

 私までつけてたら、カイルが何て言うか分かったもんじゃない。


「なかなか似合うでしょ?」

 つけたばかりのウィッグを手鏡でチェックするジョアンナの横で、アランは素敵ですと何度も繰り返し言っている。


 よかった。ジョアンナ様に持って行ってもらおう。

 私にはあんなに沢山ウィッグは必要ないもの。

 エメラルドグリーンの腰まである長いウィッグをつけたジョアンナは楽しそうだ。


 エイデン達は改めてアダムと挨拶を交わしている。

「こちらからお願いしたことなのにすいません。」

 頭を下げるエイデンに、

「いいんですよ。」

 とアダムが返した。


「こちらに来たのは久しぶりだけど、また賑やかになったみたいだね。」

 アダムがアランを見ながら言った。

「君はジョアンナ様の恋人なのかい?」


 恋人という言葉に気を良くしたアランが、

「そう見えますか?」

 と目を輝かせてアダムに近寄ってくる。


 さっきまでの敵意のある瞳が嘘みたいね。

 その変わりように思わず苦笑してしまう。

「ああ、お似合いだよ。」

 アダムがにっこりと笑うと、ジョアンナがやめてと口を出した。


「恋人ってわけじゃないんだから。」

 そう言っていつも通りの二人のやりとりが始まってしまった。


「コホン。」

 わざとらしいカイルの咳払いが響いた。

「ジョアンナ様とアラン様はどうかあちらでお待ちください。」

「え、でも……」


「あちらに何か甘いものをご用意しますので。」

 カイルの引きつったような笑顔の前では、どう言っても無駄なことは二人とも分かっている。

 ジョアンナとアランは渋々別室へと去って行った。


「騒がしくて申し訳ありません。」

 そう謝るエイデンに、

「いやいや。楽しいですよ。」

 とアダムが笑顔で返した。


「まさかアダム王子がいらっしゃるとは思っていませんでしたので……」

 マルコを預かってもらうようお願いしたのだから、本来ならエイデン達がアダムの元を訪れるべきなのだ。


 それなのに、わざわざアダム側、しかもアダム自身がマルコを引き受けに来たので、エイデン達は相当慌てたみたいだ。


「特に予定もなかったし。それに……」

 とアダムがチラリと私を見た。

「レイナにも会いたかったしね。」

 ははっ……

 エイデンの視線が怖くて乾いた笑いしか出てこない。


「その節は妻が大変お世話になりました。」

 エイデンが明らかに作り笑いだと分かる顔でアダムに話しかける。

 エイデン、また妻って言ったわ。

 言われ慣れない言葉に、胸がときめく。


「いやいや。レイナみたいな可愛い子ならいつだって大歓迎だよ。」

 アダムがからかうような瞳を私に向け、

「マルコのついでに、レイナももらって帰っちゃおうかな。」

 と笑った。


 アダムってば絶対楽しんでるわ……

 私にちょっかいを出すことで、アダムがエイデンの反応を見て楽しんでいるのは明らかだ。

 隣のエイデンからは、何だか負のオーラが漂ってくるのを感じる。


 ちょっとレオ、何とかしてよ。

 助けを求めてレオナルドを見るが……ダメだこりゃ。

 レオナルドはアダムからのお土産だというケーキに夢中で、話なんて聞いちゃいない。

 もう、頼りにならないんだから。


 ふぅ……

 私の横でエイデンが小さく息をつくのが聞こえた。


「そう言えばお兄様はご結婚されたんですよね。」

 おめでとうございます、と満面の笑みを浮かべてエイデンが言った。

「お兄様の結婚相手、アンジェリーナ様でしたっけ? とてもお綺麗な方らしいですね。」


 ちょっとエイデン……それは意地悪なんじゃ……

 エイデンのまさかの反撃に私が焦ってしまう。


 アンジェリーナがアダムの元婚約者だった話をエイデンにしたことがある。

 アダムがまだアンジェリーナの事を好きなのもエイデンは知っているのだ。


「ありがとう。」

 アダムが平気な顔で答えた。

「まだ少し先だけど子供が生まれるんだ。」

 優しい顔でアダムが言った。

「まいってしまうよ……私がおじさんになるんなんてね。」

 憂いを含みながらも、嬉しそうに目を細めるアダムを切ない思いで見つめた。


 やっぱりアダム王子は強いな。

 アンジェリーナの幸せを喜ぶアダムを見ながら、私もこんな風にエイデンの幸せを願えるような人間になりたいと強く思った。


「……アダム王子、飲みましょう。」

 エイデンがカイルにシャンパンを持って来るよう命じた。


 きっとエイデンもアダムのさっきの顔を見て、何か感じることがあったのかもしれない。それほどまでにアダムの表情は優しかった。

 なんだかさっきまでと違い、エイデンの表情も柔らかくなっている。


 何にせよ、二人が仲良くするのは嬉しいことだわ。

 またいつもの作り笑いに戻ってしまったアダムを見ながら私もシャンパンで乾杯をした。




  ☆ ☆ ☆




 マルコがノースローザンヌに旅立ったのは、よく晴れて空がとても綺麗な日だった。


「結局最後まで会えなかったな。」

 見送りも禁じられ、部屋にいるよう命じられた私はなんとなく落ちつかなくて、窓から外をただぼんやりと眺めていた。


「終わったぞ。」

 見送りから部屋に戻って来たエイデンは少し疲れたようにソファーに体を沈めた。


 エイデンの隣に座り、マルコはどんな様子だったかと尋ねる私に、

「いつも通りだ。」

 とエイデンは答える。

「それだけ?」

 もっと何かないのかと尋ねても、結局たいした話は出てこない。


「まぁレオナルドがノースローザンヌまでついて行くから大丈夫だろ。」

 そう言いながらエイデンがポケットから小さな封筒を取り出した。


「マルコからだ。」

 白い封筒を受けとる。

「私に?」

 封筒を開けようと手をかけたが、すぐにその手をとめた。


「なんだ? 読まないのか?」

 隣に座るエイデンから鋭い視線を感じる。

「ええ。後でゆっくり読むわ。」


 本当は今すぐ読みたいけど、エイデンの横で読むのはなんだが落ちつかない。

 なくさないよう、しまっておこう。


 そう思い立ち上がった途端、手を引かれてソファーに逆戻りさせられる。

「今ここで読めよ。」

 エイデンの一段と鋭い視線を感じて、一瞬怯んでしまう。


「でも……」

 なんか今のエイデン怖いんだもの。

「読まないんなら、俺が読むぞ。」

 そう言って、ひょいっと私の手から封筒を奪っていく。


「エイデン、返して。」

 エイデンの手から封筒を取り返そうと手を伸ばして、思わずエイデンの上に倒れこんでしまう。


「あっ。ごめんなさい。」

 慌てて起き上がろうとするが、エイデンの片手が私の背中に回されて動けない。

「エイデン、離して。」


 ジタバタしている私の耳元に、エイデンの微かな笑い声が聞こえた。

「今ここで読むなら離してやるよ。」


 エイデンを押し倒しているという恥ずかしい体勢からいち早く逃れるために、

「読みます。読むから離してぇ。」

 私はすぐに降参したのだった。

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