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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「エイデン、記憶が戻ったの?」

 驚いた様子でレイナが目を丸くする。

「ああ。」

 そう言って、シュッと小さな火の玉を出してみせる。

「こっちも元どおりだ。」


「よかった……」

 涙ぐむレイナを抱きしめて、よしよしと頭を撫でた。

「色々傷つけて悪かったな。」

 記憶をなくしている間、レイナにひどいことを言った事もきちんと覚えている。


 レイナが涙をぬぐいながら、いいの、と呟いた。

「でもどうやって? いつ記憶と魔力が戻ったの?」

 喜びながらレイナが尋ねる。


「レイナが死んだ時だ。」

 どう答えるのがよいか考えながらも、ストレートにそう答えた。


 あの時俺はもう生きていられないと思うほどのショックを受けた。それが引き金だったのか何なのか、気がつくと記憶も魔力も戻っていた。

 もしかしたらレイナが生き返る時に、レイナの父親が使った魔力も何か影響しているのかも知れない。


「もう。こんな大事なこと何で早く教えてくれないの。」

 レイナが口を尖らせた。

 その顔がまた可愛らしくてたまらない。


「驚かそうと思って隠してたんだが……」

 祖父にはすぐバレてしまったようだ。

 もう少し隠しておいて、何かサプライズでもと思ったんだけどな。


「本当に良かった。」

 レイナが心から喜んでくれているのを感じて嬉しくなる。


 それにしても、なぜ俺はこんなにも愛しいレイナを忘れることができたのだろう?

 本当に不思議でならない。

 抱きしめても抱きしめても物足りないくらい愛おしい。


 ひょいっとレイナを横抱きにして、ベッドの上に優しくおろした。

「ちょ、ちょっとエイデン?」

 焦った様子のレイナに口づける。


「レイナ、愛してるよ。」

「私も愛してるけど……」

 そう言いながら俺から逃れようとするレイナを捕まえる。


「逃がさないよ。」

「で、でも……」

 何か言いたげなレイナのおでこにキスをする。


「エイデンだめだよ。まだお昼で明るいし……」

 なおも逃れようとするレイナの頰にそっとキスをした。

 もちろんレイナが本気で嫌がるようなことをするつもりはない。


「嫌なの?」

 そっとレイナの耳元で囁いて、ちゅっと音をたてて耳に口づける。

「だって……隣にビビアンとミアがいるんだよ。」

 顔を真っ赤にして、瞳を潤ませるレイナの髪の毛を優しく撫でる。


 やっぱりレイナは最高に可愛いな。

「大丈夫。レイナが声を出さなきゃ気づかれないさ。」

 まぁ、そんなことは絶対に無理だろうけど。

 そう思いながらレイナの瞼にキスをする。


 やっぱり俺はレイナなしでは生きていけないな……

 レイナが今生きて自分のそばにいてくれることに感謝しながら、その可愛い唇にキスをした。




 ☆ ☆ ☆




「レイナ様、お客様です。」

 ビビアンと共にやって来たその客人を見て驚いた。

「アダム様? 突然どうしたんですか?」

 久しぶりだねと笑いながら、アダムはハンカチで額の汗を拭った。


 本格的な夏まであと少し……

 気温は日に日に高くなっていた。


「ありがとう。」

 ビビアンが運んできた冷たいレモネードを一気に半分飲んだ後で、アダムはふぅっと息を吐いた。


「アダム様は今日こちらに到着されたんですか?」 そう尋ねる私に、

「今着いたばかりだよ。早くレイナの顔が見たいと思って会いにきたんだ。」

 私を見ながらアダムはパチリとウィンクをした。


 全く……相変わらずなんだから。

 初めて会った時はこういうアダムの態度に困惑したが、慣れてしまえばどうってことはない。


「今日はレオとお約束ですか?」

 今朝レオナルドと朝食を一緒にとったが、特にアダムの訪問については聞いていない。


「ああ。」

 アダムはそう答えて、

「マルコを迎えに来たんだよ。」

 とつけ加えた。


「あ……」

 そう言えばマルコのことはアダムにお願いするってレオナルドは言ってたわね。


 結局あれ以来、マルコと顔は合わせていない。

 何度か会えるようお願いしてみたけれど、エイデンは決まってダメだと難しい顔をする。


 こっそりレオナルドにも頼んでみると、

「マルコはレイナに会いたくないと思うから……」

 そう言って会わせてはもらえなかった。


「でもマルコは元気だよ。少しずつだけど笑顔も見れるようになってきたし。」

 私がマルコのことを尋ねると、レオナルドは優しい顔をしてそう教えてくれた。


「レイナも大変だったみたいだね……」

 私の顔が曇ったことに気づいたのか、アダムが私を励ますように、にっこりと笑った。

「綺麗な髪の色だね。太陽の光を浴びて、キラキラ輝いて見えるよ。」

 その笑顔が素敵で、私もふふっと軽い笑顔を返した。


「でも残念だなぁ……」

 アダムがうーむと眉間に皺を寄せる。

「何がですか?」

 首をかしげる私に、ちょっと待つよう言い残し、アダムは廊下へ出て行ってしまった。


 ほんの数分後、アダムは箱を持ち再び部屋へ入って来た。

 何かしら? お土産かしら?

 ワクワクしながらアダムの後ろを見て目を丸くする。


「えぇ?」

 アダムの後ろにいた侍女達が、次から次へと箱を部屋に運びいれていく。

 お土産は嬉しいけど……これはちょっと多すぎじゃない?

 部屋の大部分がアダムが運び入れた箱だらけになってしまった。


「あの……これは一体?」

「お土産だよ。」

 そう言ってアダムは自分が手に持っていた箱を開けた。


「レイナに似合う物をと思って色々用意したんだよ。」

 箱から出てきたのは薄紫色のウィッグだった。

「髪の毛の色が変わってると思わなかったからね。」


 まさかこれ、全部ウィッグなの?

 たとえ髪の毛の色が変わってなかったとしても、これは多すぎじゃないかしら?


 正直お土産はうれしくないけれど、アダムの気遣いはとっても嬉しい。

「ありがとうございます。」

 そう頭をさげる私に、

「せっかくだし、ちょっとつけて見てよ。」

 アダムが楽しそうにそう言った。


「え、でも……」

 ちょっとめんどくさくて断る私に、

「きっと似合うと思うよ。ね、ビビアン達もそう思うだろ?」


 前回アダムの城でお世話になってから、なぜかアダムと仲良くなっているビビアンとミアがアダムに賛同する。


「さぁさ、レイナ様こちらへ。」

 ビビアン達に流されるようにして鏡台の前に座った。

「髪飾りも色々用意して来たからね。」

 そう言ってアダムはミアに、新たな箱を手渡した。

 ビビアンもミアも絶対楽しんでるわ……


 仕方なくつけたウィッグだけど、つけてみると案外似合っていて悪くなかった。

 薄紫の少しカールした姫カットの髪の毛に、白のレースと濃い紫のリボンがついている。


 似合うかどうかは別として、このウィッグ自体はとっても可愛いわ。

「思った通りだ。とっても可愛いよ。」

 そうアダムに褒められると、何だか気分も良くなってきた。


 アダムが飲み物のおかわりをするので、私もウィッグをつけたままアダムと一緒にレモネードを飲むことにした。


「今のレイナを見たら、君の婚約者は何て言うだろうね?」

「まぁ……褒めてはくれないでしょうね。」

 そう答えるとアダムはおかしそうに笑った。

 特に理由はないけれど、この様子を見たエイデンが私を褒めるイメージが全くわかない。


 こんな話をしているからなのか……

 何だか廊下が騒がしくなったと思うと同時にエイデンが部屋へ入ってきた。


「エイデン……」

 ノックくらいしてよ……言っても無駄だけれど、バタンと大きな音を立てて開く扉は心臓に悪い。


 全速力で走ってきたのか、エイデンの息はあがっている。

「ア、アダム王子……こちらにおいででしたか。」

 息を整えてゆっくりと部屋に入って来たエイデンが、山のように積まれた箱を見て足を止める。


「これは一体?」

「あ、それはレイナへのお土産だよ。」

 ね、レイナとアダムが私に呼びかけるとエイデンの眉間に微かにシワがよった。


「……」

 エイデンが無言で私を見つめている。その視線が痛い。

「アダム王子、申し訳ありませんが、ここはレイナの私室なので……」


 違う部屋に移動しろと言うエイデンに、アダムは気にすることなく答えた。

「今度からはそうするよ。レイナ、今日はいいよね?」

 アダムにそう尋ねられたら、嫌とは言いにくい。


「え、ええ……」

 そう答えた私にエイデンの視線は冷たい。

 エイデンが立ったまま、私の肩に手を置いた。


 やだな……エイデン怒ってるみたい。

 その手のひらからピリピリとしたものが伝わってくる気がする。


「申し訳ありません。妻の部屋に入られるのはあまりよい気分がしないので……」

 妻? 今エイデン妻って言ったよね?

 その言葉にドキドキして何だか落ち着かない。


 ふっとアダムが口元を緩ませ、何かを言おうとした時、

「やー、久しぶりだね。」

 そう言ってレオナルドが、ジョアンナとアランと共に部屋に入ってきた。


 もぅぐちゃぐちゃだわ。

 賑やかなメンバーが集まった箱だらけの部屋を見て、私は小さなため息をひとつついたのだった。

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