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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「レイナ、具合はどうだ?」

 夕食が済み、ベッドでゴロゴロしている時にエイデンはやって来た。

「もう大丈夫よ。」

 そう答えた私にエイデンがほっとしたような顔で笑った。


 本当は起き上がって色々やりたい事があったのだけど、ビビアンとミアから寝てなさいと言われ、今日は一日中ベッドの上で過ごした。


 全く心配症なんだから。

 そう思いながらも、心配かけて申し訳なく思う気持ちと、心配してくれる人がいるありがたさを感じる。


 まぁ一度死んだんだし、過剰に心配されてもおかしくはないわね。

 私が一度死んで、再び生き返ったという話をレオナルド達から聞いた時は驚いた。

 そんな実感全くないし、体だって異常を感じない。


「エイデン、心配かけちゃってごめんなさい。」

 ベッドに上半身を起こしてエイデンに頭を下げた。

「全く……」

 エイデンがベッドにのり、私の横に腰掛けた。

「何簡単に攫われてんだよ。次はもう探さないからな。」

 そう言いながら私の頭を撫でるエイデンの手は、冷たい口調とは裏腹にとても優しい。


「私が攫われてる間の話、少しだけ聞いたわ。」

 エイデンが小さくため息をついた。

「悪かったな。俺のせいで牢に入れられて辛かっただろ。」


「そう言えば私牢に入ってたんだっけ?」

 そっかぁ……その牢からマルコに出してもらって、ガードランドに連れて行かれたんだったわ。


「もう忘れたのか?」

 早すぎるだろと、呆れたような口調でエイデンが言った。

「だって色んな事が次から次に起こったでしょ? なんだかサンドピークにいたのがずいぶん前のような気がしちゃうんだもん。」


「そういうもんか?」

 エイデンがそう言って、小さくふっと笑った。

「エイデンも色々辛かったでしょ? その……お母様のこととか……」


 エイデンは無言のまま何も答えない。

 その表情からは、エイデンが何を思っているのか読み取ることはできなかった。


 エイデンの母親は、サンドピーク僻地の城で軟禁生活になるそうだ。

 エメリッヒ国王はそんな彼女に付き添うために、退位したとレオナルドが言っていた。


「そうだ。」

 しばしの沈黙後、エイデンが白いハンカチを取り出した。

「これをレイナに渡したかったんだ。」

 そう言って綺麗に折り畳まれたハンカチが開かれる。


「花びら?」

 ハンカチには大事そうに、白い花びらが3枚挟み込まれていた。

「レイナの父親だ。」

 エイデンの言葉に、思わず耳を疑った。


「ち、父親って、このお花が?」

 マルコから父親の話は少し聞いたが、お花ってどういうことなの?

 目をパチパチさせて花びらを見る私にエイデンが、

「父親っていうか、父親だったというか……それとも形見って言うべきなのか?」

 何だかエイデンも困惑している。


「これはな……」

 そう言って私が死んでしまっていた間に起こった出来事をエイデンが教えてくれる。


「そう……そんな事があったの……」

 小さな花びらを受け取りながら、結局会うことのできなかった父親を思う。


「……父は死んでしまったの?」

 だから花びらに変わって風で飛んでいったのだろうか?


「そうだ。」

 エイデンが私の瞳をまっすぐに見つめたまま言った。

「レイナの父親の従者から聞いたよ。レイナの父親は、罰としてお前と会うことも地上におりることも禁じられていたらしい。」


 確かマルコもそう言っていた。

「レイナの母親が死んでからは一年に一度、その年の最後の一時間のみ自由が与えられていたんだ。」

「そうなの……」

 父も天で苦労したのだろうか……?

 暗い気持ちになってくる。


「どうして父は死んでしまったの?」

 白い綺麗な花びらを見ながら尋ねた。

「それは……」

 エイデンが言いにくそうに口ごもった。


「エイデン?」

 話すべきか少し悩んだ様子を見せた後、エイデンは口を開いた。

「勝手に地上におりて、力を使ったからだ。」


「……私を助けるために?」

 エイデンが私を見つめ、首を縦に動かした。

「そっか……私のせいで……」

 胸が痛くて声が震えてしまう。

 息が荒くなってくる。


「大丈夫だ。」

 エイデンが私を抱き寄せる。

「レイナが自分を責めることはない。」

「でも……」

 我慢していた涙が溢れてくる。

「私のせいで……」


「お前の父親はこうなることは知っていた。知っていてもレイナを助けたかったんだ。」

 エイデンの言葉に、さらに涙が溢れてくる。

「それでレイナが助かるなら、嬉しかったに決まってる。息を吹き返したレイナの頭を撫でるお前の父親は、幸せそうに笑っていたよ。」


「本当に?」

 エイデンの瞳を見つめる。

「本当にお父さんはこれでよかったのかな?」

「ああ。」

 不思議……エイデンにはっきり言われると、本当のような気がしてくる。


 涙を拭ってエイデンに笑って見せた。

「お父さん、助けてくれてありがとう。」

 白い花びらを大切に握りしめる。


「悪いな。風が強くてそれだけしか持って帰れなかったんだ。」

「ううん。嬉しいわ。」

 そう言って笑う私にエイデンも優しく微笑んだ。


 いつかお母さんのお墓に一緒にいれてあげるからね。そう心の中で呟いて、花びらを大切にしまった。




 ☆ ☆ ☆




「飲んだらいい。体があたたまるぞ。」

 私の気持ちが落ち着くのを待って、エイデンが温かい飲み物を用意してくれた。


「美味しい。」

 ほぅっと息が漏れた。

「ホットワインね。」

 シナモンの香りが気分を落ち着かせてくれる。

 甘さもちょうど良くて飲みやすい。

 おいしくて、一気に飲んでしまった。


 体がポカポカして何だかいい気持ち。

 少しアルコールが入ったからだろうか、気分はすっかりよくなっていた。

「そう言えば、昼間アランに会ったわ。ジョアンナ様の事がすごく好きなのね。」


 エイデンが何とも言えない複雑な表情をする。

「悪いやつじゃないんだがなぁ……」

 たしかにアランは見るからに悪人ではなかった。

 残念な子だなと思う時はあったけれど、何だか憎めない子だ。


「ジョアンナ様と結婚するのかしらね?」

 そうしたらまた一段と賑やかになるわ。

「さぁな。」

 とエイデンはそっけなく返事をする。

「ジョアンナの好みとはかけ離れてるからなぁ……アランじゃ細すぎるだろ。」


 エイデンの言葉に思わず苦笑いしてしまう。

「エイデンもジョアンナ様が筋肉質な男性が好きって知ってたんだ?」

「当たり前だろ。」

 そう答えてエイデンがため息をつく。


「そのせいで俺は小さい頃、やれ赤身を食べろだの、腹筋しろだの煩く言われたんだ。挙句には怪しげな液体まで飲ませようとしやがった。」

 ジョアンナがエイデンをムキムキにしようとしていた様子を想像して思わず吹き出してしまう。


「何がおかしいんだよ。」

 エイデンがムッとしたように私を見た。

「ジョアンナ様は昔から筋肉好きだったんだなって思ったらおかしくって。」


「まぁどちらにしても……」

 エイデンがひょいっと空になったカップを私の手から取り上げ、ベッド脇のテーブルに置いた。


「あいつらより、俺達の結婚が先だけどな。」

 エイデンが私の後頭部を押さえてキスをした。

 こんな風に抱きしめられるの久しぶり……


 エイデンの胸に顔を押し当て目を瞑る。

 ふふっ。エイデンの胸もドキドキってしてる。

 優しく抱きしめられて、ドキドキと幸せが混じって気持ちがよい。


「……んんっ。」

 何度も繰り返される口付けに、幸せすぎて眩暈がしそうだ。


 エイデンの手が私の頭を支え、ゆっくりと体がベッドの上に倒される。

「レイナ……」

 私の頬に触れていたエイデンの指先が、私のシャツのボタンに触れた。


「あっ。」

 大変なことを思い出して慌てて時計を見た。

「レイナ?」

 急に体を起こした私をエイデンが驚いた様子で見ている。

「どうかしたか?」


「カイルから、今日はエイデンを早く寝かすよう言われてたのを忘れちゃってたわ。」

 時計はすでに11時をまわっている。

「早く寝なきゃ、またしかられちゃう。」


 エイデンがお前なぁ……と呟きながら、私の手首を掴んだ。

「今そんな事思い出すなよ。」

 エイデンは不愉快そうな顔だ。


「だってエイデン、ここの所私のせいで寝てないんでしょ?」

 手首を掴まれたまま、ベッドの上にボスンと倒される。


 エイデンに真上から見下ろされて、心臓がドキっと大きく跳ね上がる。

 エイデンの唇が私の首すじに優しく触れた。


「寝てないんじゃない、眠れなかっただけだ。」

 エイデンが私の耳元でささやいた。

 かぷっと優しく耳をかじられてゾクゾクっと気持ちの良い鳥肌が立つ。


「俺はもうお前の隣じゃなきゃ眠れん。だからもう勝手に消えるな……」

 エイデンが部屋の明かりを消した。


 まるで壊れやすい宝物のように優しく優しく触れられて、私は世界一幸せだと思いながら深い眠りについたのだった。

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