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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「……ここは?」

 眩しさに目を開けて、自分のベッドに寝ていることに驚いた。

 全部夢だったのかしら?

 長くて悲しい夢だったわ……


 そう思い、体を動かそうとするが何だか力が入らない。

「レイナ!!」

 もごもごしている私を見て、ミアが飛んでくる。


「レイナ、よかった……」

 そう言って涙を浮かべながら、大声でビビアンを呼ぶ。

「レイナ様!!」

 掃除道具を投げ出して飛びついて来たビビアンが涙を流す。


「ど、どうしたのよ二人とも。」

 泣いている二人に動揺してしまう。

「心配したんですよ。」

「無事でよかったわ。」

 二人の様子から、あれは夢ではなかったのだと実感する。


「心配かけてごめんね。」

 私に抱きついて涙する二人を抱きしめた。

「エイデン様をお呼びしなくちゃ。」

 ミアが慌てた様子で部屋から駆け出していく。


「エイデン様はレイナ様の側にいたいとおっしゃってたんですけど……」

 大国会議での騒ぎ等、後処理が多くあるのでカイルに執務室へ閉じ込められているとビビアンが言った。


「いらっしゃったみたいですね。」

 廊下をバタバタと走る音が近づいて来る。

「レイナ!!」

 盛大な音をたててドアが開いた。


「目が覚めたんだな。」

 エイデンが嬉しそうな顔をして、きつく私を抱きしめた。

「よかった……」

 消えてしまいそうな程小さなエイデンの呟きに、胸が苦しくなる。

 きっとすごく心配かけちゃったのよね。


「心配かけてごめんね。」

 私の首に回されたエイデンの腕にそっと触れた。

 エイデンが腕を緩め、私の瞳をじっと覗きこむ。

「体はおかしくないか? どこか痛いとか……」


 心配そうなエイデンに大丈夫だと笑って見せる。

 まだ少し体はだるいけれど、特に苦しくはなかった。

 それよりも……

「エイデンは大丈夫なの?」

 何だか薄汚れているというか、げっそりしているというか……よく見ると目の下のクマもひどい。


「カイルに執務室に閉じこめられてるって聞いたけど、そんなに忙しいの?」

 私の問いかけに、エイデンが優しく笑った。

「俺は大丈夫。」

 そう言ってエイデンの大きな手が私の頰を包み込んだ。


「……レイナ……」

 エイデンの顔がゆっくりと近づいて来るのを感じて静かに瞳を閉じた。


 トントン。

「お邪魔しますよ。」

 エイデンの唇が私の唇に到達するより前に、カイルの声が聞こえて慌てて目をあけた。


「おまえなぁ……」

 エイデンがフルフルと小刻みに震えながら後ろを振り返る。

「邪魔すんなって言っただろ。」

 エイデンの怒鳴り声に全く動じることなく、カイルは淡々と仕事の話をする。


「邪魔されずにゆっくりイチャイチャしたいのならば、以上のことを片付けてからにしてください。」

 ゆっくりイチャイチャって……そんな風に言われたら何だか恥ずかしい。


「少しくらい待とうとか思わないのか。」

 ブツブツと文句を言いながらも立ち上がるエイデンに、

「お待ちしますので、さっさとキスしてください。」

 とカイルが表情を変えずに言った。


「もういい。さっさと終わらせてまた来るからな。」

 不愉快そうな顔のままエイデンがカイルを引き連れ部屋を出ていった。

 一度閉じたドアがもう一度少しだけ開き、カイルが顔を出す。


「先程レイナ様がおっしゃってた事は正しくありません。」

 唐突に言われ、どのことかと首をかしげる。

「陛下がお疲れの件です。」

「ああ、そのことね。」

 カイルに閉じ込められているって言っちゃったのが悪かったかしら?


「陛下がくたびれてらっしゃるのは、レイナ様が心配であまり寝てらっしゃらないからです。」

「えっ?」

 私のせいだったの?


「今日は早めに仕事は切り上げますので、陛下がよくお休みになれるようお願いしますよ。」

 そう言い残し、カイルはもう一度扉の向こうに消えた。




  ☆ ☆ ☆




「いやー、よかったよかった。」

 レオナルドが陽気な声を出す。

「ほんとよね。一時はどうなることかと思ったわ。」

 そう言ったジョアンナに、心配かけてすいませんでしたと頭を下げる。


 お見舞いに来てくれたレオナルドとジョアンナは、ちょうど昼時ということで私のベッド脇で昼食をとりはじめた。


 なんでここで……用意される昼食を見ながら思わず苦笑いする。

 ずっと眠っていて入浴もしてないし、歯も磨いてない。正直早く一人になって綺麗に身支度を整えたいけれど、レオナルド達を追い返すわけにはいかなかった。


 それよりも、あれは誰なの?

 当たり前のように席に着いて笑っている少年が気になって仕方がない。

「あの……」

 昼食のマフィンを選んでいるレオナルド達に、ベッドに座ったまま声をかける。


「何だい?」

 数種類あるマフィンの中から、チョコレートマフィンばかりを選んだレオナルドが私を見た。

「あの、えっと……そちらはどなたでしょうか?」


「僕ですか?」

 私の視線を感じた少年が立ち上がって私の元へ寄って来る。

「そう言えばまだ挨拶してませんでしたね。レイナ様が眠ってる時に顔を見てたので、知り合いのような気分になってました。」

 と少年が笑った。


「アランです。どうぞよろしく。」

 にっこり笑うアランにつられて、私も笑顔になる。

「アランはレオのお友達なの?」

 私の問いに、違いますとアランが即答する。

「僕はジョアンナ様の夫です。」


 アランの言葉に思わず顎が外れてしまいそうなほど驚いた。

「ジョアンナ様、結婚されたんですか?」

 興奮して大きな声を出してしまった私に、ジョアンナは冷静に答えた。


「してるわけないでしょ。この子が勝手に言ってるだけよ。ほっといていいから。」

 ジョアンナがニコリともせずそう言った。


「えー、ひどいなぁ。」

 アランがジョアンナの隣に座って、椅子を近づける。

「僕との結婚、考えてくれるって言ったじゃないですかぁ〜?」


「考えたわよ。考えて、やっぱり結婚なんて有り得ないって思ったわ。」

 ジョアンナは何食わぬ顔でパクパクとマフィンを平らげていく。


「そんなぁ……」

 アランは心底がっかりした様子でうなだれている。

 なんだろ、さっぱり分からない。

 私が攫われてから今日までの数日に一体何があったの?


「レイナが困惑してるよ。」

 レオナルドが声を出して笑った。

「レイナがいなくなった間の話はもう聞いたかい?」

 レオナルドの質問に、まだだと首を横に振った。


 たしかに私がいない間の話もとっても気になる。だけど、私が今一番知りたいのは……

「マルコがどうなったか教えてもらえる?」


 レオナルドの顔がさっと曇った。

 ジョアンナとアランも静かになる。

「マルコかい?」

 レオナルドが小さくため息をついた。


「マルコは昨日目覚めてね、今は城のある場所で養生してるよ。」

「よかった、生きてるのね。」

 ほっとする私に、

「エイデン様に殺されそうな感じでしたけどね。」

 とアランが言った。


「エイデンに殺されるって?」

 ギョッとする私に、

「気にしなくていいのよ。本当に殺そうとしたわけじゃないから。」

 ジョアンナが安心させるように言った。


「あんたはまたいらない事を……」

 ジョアンナが咎めるような視線をアランに向ける。


「レイナが目覚めなかったら、どうなってたか分からないけどね。」

 レオナルドが微かに困ったような笑みを浮かべた。


「マルコに会いたいんだけど、会えるかしら?」

 マルコに会って話したいことがまだたくさんある。

 エイデンのお祖父様も一緒にガードランドの話をしたらきっと楽しいわ。

 そう思う私にレオナルドは小さな声で、

「会うのは難しいかな。」

 と告げた。


「どうして? そんなに具合が悪いの?」

「そうじゃないよ。そうじゃないけれど、マルコはきっとレイナに会いたくないと思うよ。」

 レオナルドは悲しそうな顔をしながら言った。


「それにエイデンはレイナがマルコに会うのを許さないはずだよ。」

 エイデンのマルコに対する怒りはまだおさまってないからとレオナルドは言う。


「じゃあ、マルコはどうなるの?」

 このままずっと部屋に閉じ込められているなんて絶対ダメだ。

「……今考え中だよ。」

 レオナルドは静かに言った。


「とにかく、レイナは早く普通通りの生活に戻ることだけ考えてればいいんだよ。」

 それがマルコにとっても、エイデンにとってもいいことなのだとレオナルドは言った。

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