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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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 春の気持ちの良い風が私とマルコの間を吹き抜けていく。

 私が産まれてから、ガードランドが滅びるまでの物語……聞きたいようで、聞くのが怖い気もする。


「私が産まれた時のことを知ってるの?」

「ええ。よく覚えてますよ。あの日は土砂降りでした。」

「土砂降り?」

 マルコがクスっと笑う。


「そうです。土砂降りです。あなたが産まれた日だけではありません。あなたがまだ赤ん坊だった頃は、あなたが泣くと、空も一緒に泣いていましたよ。」


 雨のお姫様……マルコはそう言って優しい瞳で私を見つめたのだった。


「それじゃ毎日雨ばっかりで大変だっだでしょうね。」

 赤ん坊の時のことだとしても、なんだか皆に申し訳ない気持ちになってくる。


「それはジュール様が……あなたのお父上が天候を管理されてましたから大丈夫でしたよ。」

「私の……お父さん……」


 私のお父さんはジュールって言う名前なのか……

 初めて聞く父親の名前に胸がドキドキしてくる。


「人と龍族の婚姻は禁じられているのはご存知ですよね?」

 マルコの問いに、無言で首を縦に動かした。

 だから私は陰で禁忌の子だと言われているのだ。


「でも禁じられてはいても、あなたの存在はガードランドも、龍族も受け入れていました。なぜだか分かりますか?」


「なぜって?」

 そんな難しいこと、私に分かるわけなんてない。

 黙ってしまった私にマルコは言った。

「それは、ガードランド王家は竜の一族だからですよ。」


 竜の一族?

 初めて聞くことに困惑してしまう。

「私達が産まれる遥か昔、天から追放された龍族が私達ガードランド王家の祖先だと言われています。」


「追放? 罪人だったってこと?」

 驚く私に、マルコは言った。

「いいえ。ただ龍の力を持っていなかったのだと伝えられています。」


 力を持たない龍族が地上に降ろされ生活したのが竜族の始まり、そしてガードランドの始まりだとマルコが言う。


 力を持たず、地上と天を自由に行き来できない彼等のために作られたのが、竜の門なのだ。

 ガードランド王家は代々その門を守り続けてきたとマルコは言った。


「だからあなたが産まれた時も、皆喜んでいましたよ。」

 そう言われてとても嬉しい気持ちになる。

 よかった。私は生まれてきてはいけない存在じゃなかったのね。


 母の深い愛情を感じ、心優しく育てられた実感もある。でも、禁忌の子という言葉は私にとって、とても重苦しい言葉だった。


「でもそれはガードランドの中の話です。ガードランドも他国と交流がありましたから、あなたの存在が外にバレないよう気をつけていました。」


「バレたら危ないの?」

「龍の力は強力です。力を欲するものには魅力的でしょう。」

「確かにそうね。」


 私の力は天候にしか左右しない上に、力を使うと記憶をなくすので使えないという程度のものだが、詳しく知らない人間にとっては欲しいと思われても仕方がない。


「だから……あなたは一生この国で、私と一緒に生きるはずだったんですよ。」

 マルコが私の髪に触れた。

 言葉が出ない。


 だから私を嫌ってるの?

 一緒に生きなかった私を怒っているの?


「どうしてガードランドは滅びたの?」

「全てを正確に知っているわけではありません。まだ子供だったので……」

 そりゃそうだ。ガードランドが滅んだ時にマルコは10歳だったと言っていた。10歳で大人の事情全てを把握しきれているとは思えない。


 ただ……とマルコは続ける。

「おそらくは、私の父が力を欲したからではないかと……」

 マルコは言いにくそうに口ごもった。


「それがどの様なやりとりだったかは分かりません。気づいた時には龍族とガードランドは戦寸前までいっていました。」


「戦になってしまったの?」

 悲しい話になってきて、気分が沈んでいく。

「戦にはなりませんでした。あなたの父ジュール様とあなたの祖父アルバート様が自ら犠牲になることで龍神の怒りを鎮めてくださいました。」


「お父さんとお祖父様が……」

「はい。龍神というのは龍族をすべる王のことです。その王の怒りをかったガードランドは、戦をしてもすぐ滅ぼされていたでしょう。そうなれば、皆命はありません。ですから……」


 私の父は二度と母と会わない。そう龍神と約束し、自ら天に閉じ込められることにしたのだそうだ。


 祖父はガードランドの民と私と母の命を助ける代わりに竜の門を自ら壊し、ガードランドを滅ぼした。


「私の父と母は騒動を起こした罪を咎められ、天へと連れて行かれました。一体どのような扱いを受けたのか、今だに生きているのか……分かりません。」

 マルコの諦めたような暗い口調が辛い。


「それでガードランドの民衆は記憶を消されてしまったの?」

「記憶を消したというよりは、ほんの少し改竄したんだと思います。」

 皆がそれぞれ国外で不自由なく暮らせているはずだとマルコが言った。


「じゃあ誰も死ななかったのね?」

 マルコが頷くのを見て安堵する。

 よかった……


「その後アンナ様はガードランドの記憶を失ったあなたと共に国を後にしました。」

 だから私達は隠れるようにして暮らしていたのね。

 小さい頃母と二人過ごした日々を思い出す。


「どうせなら、記憶だけじゃなく、私の魔力も奪ってくれたらよかったのに。」

 そうすれば私も母も、もっと楽に生きられたはずだわ。


「それは……一種の罰なんだと思います。」

「罰?」

「ええ……ガードランドの滅亡はアンナ様とジュール様が結ばれてあなたが産まれたことで始まりました。それを忘れさせないという罰です。あなたが辛い思いをすることが、アンナ様とジュール様にとっては一番悲しいことですから……」


 お母さん……お父さん……

 胸が苦しくなってくる。


「私なんにも知らなかったわ……」

「仕方ないですよ。」

 マルコが静かに立ち上がて、大きく深呼吸をした。

「ここに来るのは、ガードランドが滅びてから初めてですが、本当に変わらない……」


 私も立ち上がりマルコと同じように遠くまで広がる美しい花畑に目をやった。

「本当に綺麗ね。」

 二人で静かに風に揺れる花々を見つめる。

 ここで私は産まれ育ったのね。

 失われてしまった幼少時代に思いをはせる。


「そう言えば、マルコ……じゃない、マルクスはどうして記憶があるの?」

 さっきガードランドの民は記憶を変えられ普通に生活していると言ってたのに、なぜマルコはガードランドの事を覚えているのだろうか?


「何かのはずみで思い出したの?」

 私の問いかけに、マルコは違いますと首を振った。

「私は記憶を封じられませんでした。」

「どうしてあなただけ?」


「本当は私も父や母と一緒に捕まるはずだったんだと思います。でもまだ子供だったので許されたんでしょう。きっと記憶を持ったまま生きることが私への罰だったんでしょうね。」

 マルコが力なく笑った。


 ガードランドが滅びた時、マルコは10歳だったと言っていた。10歳の子が一人、自分の国を出てどうやって生きてきたのだろう。

「色々大変だったでしょう?」

「そうですね……でも何とか生き延びてこれました。」


 きっと言えないような苦労もたくさんあったのだろうと思うと胸が痛くなる。

 私も苦労したと思うけれど、私には母がいた。決して一人ぼっちではなかったのでやってこれた。


「寂しかったわよね……」

 小さなマルコが一人、悲しい思いをしていることを考えると悲しくなってくる。

「私を嫌いなのも無理ないわ。」


 涙が頬を伝う。

 本当にひどい話よね。

 マルコの辛い生活の元凶が私なのだから、憎まれたって文句は言えない。


 マルコの手がそっと私の涙を拭った。

「レオ様に拾われて一緒に過ごしていたあの日、あなたが森から飛び出してきた。」

 本当に驚いたとマルコが言った。


「髪の色は違ってましたが、すぐに分かりましたよ。」

 マルコが優しく私の頭を撫でた。

「あの小さかった姫が、こんなに大きくなっていて嬉しかったですよ。」


「なんですぐにいとこだって言ってくれなかったの?」

 言ってくれれば、もっと早く色んな話ができたのに。


「言えるわけないですよ。全部忘れてしまったあなたに悲しい思いをさせたくないですから……」

 涙がポロポロと溢れてくる。


「私を嫌いなんじゃなかったの?」

 なのになんでそんなに優しいの?

「ええ……憎んでますよ……」

 そう答えたマルコの瞳は、とても優しく、とても悲しそうに見えた。

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