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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「で、どうだったの?」

 どうだったって聞かれても……

 瞳を輝かせて身を乗り出すジョアンナに少しだけ困ってしまう。


「いいじゃない、女同士なんだし。ねぇ、ビビアン?」

 同意を求められたビビアンは苦笑している。


「だって嬉しいじゃない? あの陰気臭いチビが、婚約者を押し倒すほど大きくなったんだもの。感想くらい聞きたいわ。」


 押し倒すって……ジョアンナの言葉に苦笑いしながらも、顔が熱くなってくる。


 私とエイデンが仲良く朝を迎えたという情報は朝のうちに城中に知れ渡っていた。

 今度こそお祝いだと言って、料理長がえらく立派なケーキを持って来てくれ、今ジョアンナと一緒に食べているのだ。


 祝福してくれるのは嬉しいけれど、できれば皆知らないふりをしてほしかったな。

 皆が私達のことを知っていると思うと恥ずかしくてたまらない。


「秘密です。」

 楽しくてたまらない様子のジョアンナに向かってそう答えた。


「教えてくれてもいいのに。」

 大きめに切り分けられたケーキはあっと言う間にジョアンナの口の中に消えていった。


「でもエイデンって少し細すぎるわよね。」

 ジョアンナがケーキのお代わりを受け取りながら言った。


「そうですか?」

 太ってはいないけれど、細すぎると思ったことはない。

「引き締まっていて素敵だと思いますけど……」


 そう言いながら、昨夜のことを思い出す。

 私にキスをしながら我慢できないという感じで服を脱ぎ捨てたエイデンに、心臓が口から出てきちゃうんじゃないかと思うほどにドキドキしてしまった。


「あんなのじゃ脱いだっておもしろくないわ。」

 もっとこう……

 ジョアンナが突然立ち上がり、

「腹筋がこんな風に割れてなくっちゃ。」


 手でお腹に線をひく仕草をしながら、ジョアンナが熱弁する。

「やっぱり男は腹筋よ。脂肪なんてもっての他だけど、筋肉がただ大きいだけでもダメだわ。腹筋が綺麗に左右対象に割れてなきゃ、最高の男とは言えないわ。」


「そ、そういうものですか?」

 ジョアンナの熱にいささか押され気味になりながら答えた。


「あら? まだ腹筋の魅力を知らないの?」

 お子様なのね……

 席につきながらジョアンナが声をあげて笑った。


「……腹筋の魅力って、一体何の話をしているんです?」

 声の方に顔を向けると、入り口からレオナルドが入ってくる所だった。


「あら、女同士で楽しくやってたのに……」

 そう言うジョアンナに、

「こちらに美味しいケーキがあるって聞いたので。」

 とレオナルドは答えた。


 助かった……

 ジョアンナの筋肉談義についていけそうもなかったので、レオナルドの訪れは嬉しかった。


「レイナ、昨夜は熱い夜だったみたいだね。」

 大きく切り分けられたケーキに目を輝かせながらレオナルドが言った。


「熱い夜って……」

 もっと他に言い方はなかったのかと恥ずかしくなってきてしまう。


「それでエイデンの腹筋は魅力的だったのかい?」

 へっ?

 まさかまた腹筋の話に戻っちゃうの?

 レオナルドの訪れによって変わると思っていた話題は再び元に戻されてしまった。


「レイナにはまだシックスパックの良さが分からないみたいよ。」

 ジョアンナが本日三切れ目のケーキにフォークをさしながら髪をかきあげた。


「まぁこの世の女性全てがジョアンナみたいな腹筋フェチってわけじゃないですからね。」

 あっというまにお皿を空にしたレオナルドが、お代わりと言って皿を差し出した。


「足首フェチは黙ってなさい。」

 ジョアンナにそう言われてレオナルドは肩をすくめた。


「足首フェチ?」

 尋ねる私にジョアンナが言った。

「そうよ。この子は足首大好き人間なのよ。ね、レオナルド?」


「そりゃ綺麗な足首は好きですけど、その言われ方だとレイナに引かれてしまうじゃないですか。」


 否定はしないのね……

 足首フェチかぁ……


「レイナの足首はすごく綺麗で魅力的だよ。」

 突然レオナルドに言われて飲んでいた紅茶をむせてしまう。


「そ、それはどうも。」

 私ってどんな足首してたっけ?

 魅力的なんて言われたせいか、急に足首が気になってきた。


 普通だよね……チラリと自分の足首を見ながら思う。

 そもそもあまり人の足首に注目したことなんてないから、あまり違いが分からない。


「あなたは?」

 急にジョアンナに話をふられる。

「腹筋に興味がないなら、一体男のどこに魅力を感じるの?」

「あ、それ私も聞きたいな。」

 二人が身を乗り出してくる。


 いやいや、そんなに興味をもってくれなくてもいいのに。しかしながら興味津々なこの二人から逃れられるわけもない。


 うーん……どこに魅力を感じるかって言われたら、

「目、ですかね。」


「目?」

 二人が同時に聞き返した。

「はい。ちょっとつり目気味の、切れ長の目が好きです。」


「……それって、こんな目のこと?」

 ジョアンナがレオナルドを指差した。

 うーん……たしかにレオの涼しげな切れ長の目も素敵だけど……


「私的にはエイデンの目の方が好みです。」

「……ってどこが違うのよ?」


 双子なんだから同じだろうと言うジョアンナに、全然違うのだと説明をする。


「エイデンの方が少しキリッとしてて、力強さがあります。レオの方が涼やかで、少し知的な目元ですよ。」


「ぜんっぜん、分からない。」

 レオナルドの顔を穴があくほど見つめながらジョアンナが力いっぱい言った。


「今度エイデンと鏡の前で見比べてみようかな。」

 とレオナルドが言った。


「でも、なかなかいいわ。」

 ジョアンナが満足そうに笑った。

「あなたの好みもなかなかマニアックみたいね。私そういうの大好きよ」

 そう言われて喜んでいいのか微妙な気持ちになる。


 横を見るとレオナルドもうんうんと頷いている。

「レイナもこれで私達の仲間だね。」

 なんか嬉しくないかも……

 そう思いながら、楽しそうにケーキを食べ続ける甘党二人を苦笑いしながら見つめていた。




  ☆ ☆ ☆




「俺は今日からここで寝るから。」

 夜部屋にやって来たエイデンの言葉に慌ててしまう。


「えっ? それってあの、一緒のベッドってこと?」

 当たり前だろと言って、先にベッドに入ってしまったエイデンの後を急いで追いかける。


「お前も早く来いよ。」

 そう言ってベッドの空いた部分をポンポンと叩くエイデンをドキドキしながら見つめた。


 来いよって言われても、どんな風に行けって言うのよ。

「どうした? 来ないのか?」

 そう言われてベッドの空いている部分に体をのせる。何だか緊張してしまって動きがぎこちなくなってしまう。


 隣で優しく微笑むエイデンが眩しくて、なんだかまともに見ることができない。

 エイデンが私の髪の毛に優しく触れた。


「エ、エイデン。ここで毎日一緒に寝るのは無理じゃない? ベッドは一人用で小さいし……」


「一人用ったってここから落ちるほどお前は寝相悪くないだろ。」

 そりゃそうだけど……

 エイデンと密着してたら眠れる自信なんてないんだもん。


 黙ってしまった私を見て、エイデンがすっと立ち上がって寝室のドアに手をかけた。

 怒っちゃったかしら?

 何も言わないエイデンに不安になりながら、部屋を出たエイデンの様子を伺う。


「今からですか?」

 ドアの隙間からビビアンの驚いた声が聞こえた。

「ああ、すぐにだ。カイルに言って持って来させろ。」


 戸惑うビビアンと、何かを命じるエイデンに不安を覚え、寝室のドアから二人に声をかけた。

「二人とも、どうかしたの?」


「何でもない。すぐ済むから待ってろ。」

 そう言うエイデンとは対照的に、ビビアンは困惑顔だ。

「何でもないって顔には見えないんだけど。」


 ビビアンが言いにくそうに口を開く。

「エイデン様が、ベッドを運ぶようおっしゃってまして……」

「ベッド?」

 こんな時間に一体何のベッドを運ぶ必要があるのかしら?


 怪訝な顔でエイデンを見た私に、

「……お前が一人用のベッドだから一緒に寝るのは無理だと言っただろう?」

 だから客室から、余っている大きいベッドを運びこむのだとエイデンは言った。


「そうすれば、一緒に寝れない理由はないな?」

 えっと……返事に困ってしまう。

 私の負けだわ……私のベッドで一緒に寝ることを了承するしかなくなった。


「むくれんなよ。」

 ベッドに入ったエイデンが私の頰を優しくつねる。

「だって……」

 私と寝るためにわざわざベッドを運ぶって言い出すなんて思わなかったもの。


「仕方ないだろ……離れたくないと思っちまったんだから……」

 エイデンが小さく呟いた。

 そんな風に言われたらもう何も言えないじゃない……嬉しくて胸が熱くなってくる。


「結婚の儀までには城を改装して、俺とレイナの寝室と部屋を新しくしておく予定だ。」

 それまでは、窮屈でも我慢しろとエイデンは言った。


 結婚の儀は次の生誕祭とあわせて行うとカイルは言っていた。

 生誕祭は秋だから、まだまだ先の話ね……

 それまでここで一緒かぁ。

 心臓もつかしら?

 エイデンの顔をぼんやりと眺めていると、ん? っとエイデンが私の顔をのぞきこんだ。


「なんでもない。」

 そう言って笑う私に、

「春にサンドピークで大国会議があるが、一緒に行くか?」

 とエイデンが聞いた。


「行く。行きたい。行っていいの?」

 間髪入れずにそう答えるとエイデンが声を出して笑った。

「何でそんなに必死なんだよ。」

 あ……私この顔が好き。


 普段の眼力からは想像できないほど可愛らしい、くしゃっと皺のよった笑顔に胸がキュンとしてしまう。


「何見惚れてんだ?」

 エイデンが私を引き寄せ、ちゅっと首筋にキスをした。

「あぁっ。」

 甘い痺れが体をめぐる。


「いい声だな。もっと聞かせろよ。」

 エイデンがふっと柔らかい笑みをこぼす。

 エイデンの大きな手が私の頭を支え、ゆっくりとベッドの上に体を倒される。


「エイデン、ちょっと待って。」

「待てない。」

 エイデンが優しく私の頭を撫でる。


 やっぱりだめだ〜。

 このままじゃ絶対私の心臓もたないよ。

 多くの緊張と、少しの期待でガチガチになりながら、瞳を閉じてエイデンのキスを待った。

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