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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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 寒い、寒すぎる。

 一体なんなのだろう?

 新手の嫌がらせかしら?


「ついて来い。」

 エイデンにそう言われて、二人で庭を歩き始めて早1時間。あまりの寒さに耳も鼻も痛くなってきた。


「エイデン、もう寒くて耐えられないから部屋に戻るわね。」

 特に話をするわけでもなく、ただ二人で延々と庭を歩く意味がわからない。


「まぁ、待て。」

 引き上げようとする私をエイデンが引き止める。

「せっかくだから、お茶にするぞ。」

 そう言って、カイルにテーブルと椅子を用意するよう命じた。


 冗談でしょ……

 どんよりとした寒空の下で、なぜ震えながらお茶を飲まなくてはいけないのか?

 全く理解できない。


 それでもいつものごとく、有無を言わせぬ態度で私に座るよう促した。

 向かいの席に腰をおろしたエイデンは、震える様子もなく平然としている。

 エイデンは寒くないのかしら?

 あまりの寒さに、もう口も開く余裕がない。


「こうやって二人で庭で過ごすのも久しぶりだな。」

 エイデンが言った。

 当たり前よ、冬なんだから。

 心の中でそう答える。


「今日はお前に話があってだな……」

 エイデンの話を半分聞き流しながら、カイルのいれてくれた紅茶で暖をとる。


 冷たさで感覚のなくなった手が、カップの温かさで少しだけ生きかえる。


「キャッ。」

 かじかんだ手で支えきれず、カップが手から離れて落ちた。一口も飲んでいない紅茶が服にかかった。


「レイナ様、大丈夫ですか?」

 慌ててビビアンがタオルを手にしてかけよってくる。

「大丈夫よ。」

 厚手の服が幸いして、肌にはかかっていない。


「火傷にならなくてよかったです。」

 ほっとしたようにカイルが言う。

「全く……ダメなヤツだな。」

 ふっと軽く笑うエイデンに少しだけカチンとする。


 こんな寒い日に1時間以上も付き合わされてダメなヤツって……

 さっと立ち上がり、エイデンに告げた。

「着替えないといけないので先に部屋に戻ります。」


「お、おい。」

 エイデンが何か言おうとしたが、振り向くことなく庭を後にした。


「レイナ、おかえりなさい。」

 暖かな部屋でミアが迎えてくれる。

「さ、さむかった……」

 はぁっと大きなため息とともに言葉がもれた。


「レイナ様、早くお着替えを。濡れたままだと風邪をひかれますよ。」

 ビビアンが着替えの準備をする。

 着替えが済み、用意されたお茶を一口飲んだ。

 一瞬で胃からお腹周りまでがあたたまる。


 体があたたまると、寒さで停止していた思考も回復してきた。

「それにしても……エイデンはどうしてこんな寒い日に外でお茶をしたいなんて思ったのかしら?」


 私の問いかけに、ミアとビビアンが顔を見合わせる。

「それは……」

 ビビアンが少し困ったような顔をした。

「レイナ様に喜んで欲しかったのではないかと……」


「嫌がらせじゃなくて?」

 こんな寒い思いをさせられて喜ばしたかったと言われてもいまいちピンとこない。


 私の言葉にミアが苦笑しながら言った。

「あれでもエイデン様なりに一生懸命考えたんだと思うわよ。」

 ビビアンもミアに同意する。

「レイナ様がお庭でお茶をされるのがお好きだからと計画されたんでしょうね。」


 もし二人の言うことが事実だとしたら、先に一人で戻って来ちゃって悪かったかしら……

 少しだけ胸が痛んだ。


「それならわざわざ外に行かなくても、ここで一緒に過ごしてくれるだけでも十分うれしいのに。」

 ポツリと呟いた。


「もうすぐ今年も終わりですし、何か特別なことをして過ごしたかったのでしょうね。」

 ビビアンがそう言って優しく笑った。


「……今年ももう終わりなのね……」

 色々あって長かった気もするが、もう終わりだと思うと、やっぱり早かったと思えてくる。


 くしゅん。

 首筋がぞくっとしてくしゃみが出た。

「あら、大変。」

 ミアが心配して厚手の上着をとってくる。

「ありがとう。」


 今年も残すところあと3日。

 鼻水をすすりながら、今年最後の晩餐はどんなご馳走かしら?

 そんなことを考えていた。




  ☆ ☆ ☆




「レイナ、大丈夫かい?」

 豪快なくしゃみをした私にレオナルドがティッシュを渡してくれる。

 ティッシュで鼻を抑えながら、無言でこくこくと頷いた。


「昨日は風邪で寝込んでたんですって?」

 レオナルドとの朝食といういつもの風景に、今朝は一つだけ違うところがあった。

 ジョアンナもいるのだ。


「もう大丈夫なの?」

 パンケーキにこれでもかというほどのシロップをかけて、美味しそうにパクリと口に入れるジョアンナを見ながら、レオナルドそっくりだわと思う。

 二人ともかなりの甘党だ。


「ええ、なんとか復活しました。」

 そう答えた私に、

「エイデンと庭でお茶をしたんだって?」

 レオナルドが笑いながら言った。


「この寒いのに?」

 ジョアンナが信じられないといった顔をする。

「そりゃ風邪もひくわ。」


「そう思ったんですけど……エイデンが誘ってくれたので。」

「エイデンにも困ったもんだ。」

 レオナルドとジョアンナがおかしそうに笑った。


「今日は二人で夕食だって? その時間を作るために、昨日できる限り仕事を終わらせるとか言って執務室にこもってたよ。」

 パンケーキをペロリと平らげ、レオナルドは紅茶のお代わりを飲む。

「おかげで私も昨日執務室に閉じ込められてたよ。」


「ふーん、二人で夕食ね。いいじゃない。」

 ジョアンナの前には食後のデザートとしてイチゴが山積みになっている。


 エイデンと二人で夕食はもちろん嬉しいし楽しみだ。だけど……

「今日の夕食は、ドレスアップして席に着くよう言われてて……」

 今まで二人で食事をするのに、こんな風に言われたことはない。


「なんだか最近エイデンが少しおかしい気がするんです。」

 あの庭の散歩の時、特に話をするわけでもなく、同じところをぐるぐると一時間も歩いていた。


 昨日だって……

 部屋で寝ている私の所に来たエイデンの様子を思い出す。


「調子はどうだ?」

 そう言ってベッド脇の椅子に腰掛け、腕を組んだまま難しい顔をしていた。

 結局私は眠ってしまったが、ビビアンによるとエイデンはそのままの状態で夜更けまで過ごしていたらしい。


「何だかよく難しい顔をしてるし、何か悩みがあるんじゃないかと……」

 私の話を聞いたジョアンナがプッと吹き出した。


 驚く私にジョアンナは、

「ごめんね。」

 そう謝りながらも声を出して笑っている。


「いやー、あの子は本当に期待を裏切らないわね。」

 そう言うジョアンナを諌めるように、

「そんなに笑ったらダメだよ。」

 と言ったレオナルドも笑っている。


 二人とも楽しそうで結構だが、私一人おいてけぼりの状態のまま二人が落ちつくのを待った。

「たしかにエイデンは悩んでいるとも言えるわね。」

 笑いがひと段落したジョアンナが口を開いた。


「やっぱり……」

 そう言う私にジョアンナが、

「何か心当たりはないの?」

 と尋ねた。

 心当たり……

 そう言われてもエイデンの悩み事なんて想像がつかない。


 考え込む私にジョアンナが言った。

「エイデンはあなたのことで悩んでるのよ。」

 えっ?

 驚いて顔をあげるとジョアンナと目があった。

「エイデンはね……」


「ジョアンナ!」

 ジョアンナの言葉をレオナルドが遮る。

 レオナルドが無言で首を振るのを見て、ジョアンナが首をすくめた。


「今のは聞かなかったことにしてくれるね。」

 レオナルドがにっこりと笑う。

 いやいや、ここで止められたら気になって仕方ないでしょ。


「少しくらい教えてあげてもいいじゃない。エイデンがさっさと言わないのが悪いんだから。」


 ジョアンナとレオナルドのやりとりを聞きながら、不安が募っていく。

 一体エイデンは何を悩んでるの?

「二人ともエイデンが何を悩んでいるのか知ってるんですか?」


 私の問いかけに、二人は口をつぐんだ。

「……教えてあげられなくてごめんね。レオナルドが煩いから……」


 ジョアンナにそう言われたレオナルドは笑ったまま、

「エイデンが言ってないのに、私達が言うわけにはいかないよ。」

 と言った。


 やっぱり私だけ知らないんだ。

 私にだけ言えないことってなんだろう?

 あのエイデンの眉間に皺を寄せた顔を見るかぎり、いい話なわけはない。


「まぁでもあなたにも分かるでしょ。あなたとのことで悩む一番の理由は……」

「ジョアンナ!」

 レオナルドが再びジョアンナに黙るよう合図を送る。


 私とのことで悩む一番の理由……

 思いつくことは一つしかない。

「もしかして、結婚のこと……?」


 レオナルドが曖昧な表情をした。

 やっぱりそうなのだろうか?

「でも……エイデンは湖で私に……」

 そこまで言って言葉に詰まった。


 エイデンは私と結婚するつもりなのだと思っていた。でも湖でのやりとりをよく思い出してみたら、エイデンは一言もそんな風には言っていない。

 分かるだろって言われて、分かった気になっていたけれど……もしかしたらそれは私の思い違いだったのかもしれない。


「エイデンは不器用なところがあるからね。」

 困ったような顔をしてレオナルドが笑った。

「やっぱりレイナを前にしたら、うまく言えなくなってしまうんじゃないかな。」


「そうね……」

 そう力なく返事をした。

「そっかぁ……エイデンはそれで悩んでたのか……」


 いつまでたっても結婚式の日取りがきまらないわけよね。思わず涙が出そうになって慌ててこらえた。

「それならそうと、さっさと言ってくれれば良かったのに。」


「今夜じゃないの? ドレスアップしろって言われたんでしょ?」

 ジョアンナが優しい顔で笑った。


「そうですね。頑張ります。」

 そう言いながら、頭の中はぐしゃぐしゃだった。


 ごめんねエイデン気づいてあげられなくて……

 思い出してみると、庭で過ごした時も、昨日お見舞いに来てくれた時も、何か言いにくそうにしていた時があった。


 そっか、あの時エイデンは私に婚約解消の話をしたかったんだ……

 私ったら全然気がつかなかった。


 今夜がエイデンと二人で過ごす最後の夜になるのかしら……

 私、泣かずに笑って話せるかしら?

 悲しみで震える胸を落ちつかせるように、胸に手を当て目を瞑った。

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