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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「エ、エイデン?」

 執務室の扉をあけて思わず固まった。


「やっと帰ったか。遅かったな。」

 ふんぞり返って座っているエイデンに

「体は? 傷は大丈夫なの?」

 と尋ねる。


「そんなものとっくに治っている。」

 はっとバカにしたように鼻で笑うエイデンを見て、無事でよかったと心からほっとする。


「もしかして具合が悪いっていうのは、私を呼び戻すための嘘だったの?」

 詰め寄る私に、エイデンはそんなの当たり前だと言わんばかりの顔をする。


「本当に具合が悪かったら知らせるわけないだろう。わざわざ他国に俺の弱みを握らせる必要はない。」


 あんなに心配して、急いで帰ってきたのに……

「ひどい……」

 思わず口から出た言葉にエイデンが反応する。


「元はといえば、お前が勝手にノースローザンヌなんかに行くからこんな面倒なことになったんだ。」

 あくまで私が悪いと思っているエイデンに、それでも反論する。


「だからって、病気だなんて嘘つくのはひどいわ。」

 煩そうな顔をして、

「帰って来いと手紙を出したのに、すぐ帰って来なかったお前が悪いんだろう。」

 エイデンはそう言った。


 ダメだ……

 何を言ってもエイデンには伝わる気がしなかった。

 私が心配していたことなんて、まるで興味のなさそうなエイデンに腹立たしさを感じる。


「おい……」

 エイデンが少しだけ狼狽えた声を出した。

「……疲れたから、少し部屋で休むわね。」

 そう言ってエイデンの視線から逃れるように執務室を後にした。


「なんで……」

 閉じた扉の外で肩を落とす。

 分かってもらえない悔しさで瞳には涙が浮かんでいた。


 自室に入り、ベッドに横になる。

 やっぱり自分の部屋は落ち着くな……

 留守にしたのは少しの間だったのに、この空間を妙に懐かしく感じる。


 仰向けに横たわったまま、高い天井を見上げる。

 静かね……

 ビビアンとミアがジョアンナの世話のためにノースローザンヌに残っているので、しばらくは一人きりだと思うと少し寂しかった。


 速脚の馬車で戻ったため、体はとてもしんどい。

 胸が潰れるほど心配したのに……

 エイデンには全く伝わらないのだろうと思うとやるせなさが募る。


 まぁ、エイデンが元気だったんだからよかったと思わなきゃね。

 そう思って瞳を閉じた。




  ☆ ☆ ☆




「んっ。」

 微かに眩しさを感じて重たい目を開ける。

 私あのまま眠ちゃったのね……


 いつの間にか部屋の中は窓から差し込む陽の光で明るくなっていた。

 えっ?

 思わずガバっと体を起こす。


 な、なんでエイデンが一緒に寝てるの?

 私の隣で気持ちよさそうな寝息をたてているエイデンを見て一瞬で目が覚めた。


「ん、なんだ?」

 気だるそうな声を出し、目を細めたエイデンと目があった。

「うおっ。」

 エイデンが焦ったように体を起こす。

「な、なんでお前がいるんだ?」


 なんでって……

「これは私のベッドなんですけど……」

 そう言う私に、そうだったなとエイデンが言う。


「なんで一緒に寝てるの?」

 ベッドに座ったまま、隣のエイデンに尋ねた。

「一緒に寝てるって……」

 そう言った瞬間に、エイデンの顔が茹でタコのように真っ赤になった。


 大変……

 その顔の赤さが伝染したのか、私まで体が熱くなってきて、思わず頰に両手を当てた。


「別にお前と一緒に寝てたわけじゃない。寒かったから暖をとろうと思っただけだ。」

 思いっきり眠ってましたけど……

 顔を背けたままのエイデンに向かって、心の中でつぶやいた。


「なにも人のベッドで暖をとらなくても……」

 エイデンは恥ずかしいのか、こちらを見ようともしない。なんだかおかしくなってくる。


「何笑ってんだよ。」

「別に笑ってなんか……」

 エイデンが拗ねた小さな子供のようで、思わず口元が緩んでしまう。


「だいたいお前が悪いんだからな。」

 エイデンが私の方を向いた。

 寝起きの少し乱れた髪の毛に思わずドキっとする。


「一緒に飯にしようと思って呼びに来たら寝てるから。」

 起きるのを待っていたら、待ちくたびれて寝てしまったのだとエイデンが言った。


「起こしてくれれば良かったのに。」

 昨日夕飯を食べてないから、もうお腹はぺこぺこだ。


「起こせるわけないだろ。」

 なぜかと尋ねる私にエイデンが言った。

「あんな可愛い寝顔を見て、起こせるわけないだろ。」

「えっ?」

 私が驚いた瞬間、エイデンがしまったという顔をした。


 今、可愛いって言ったよね?

 顔が火照ってくる。

 寝顔を見られていたのと、可愛いいと言ってもらえたのとで照れ臭くなり俯いた。


「まぁ、あの、別に深い意味は……」

 エイデンがしどろもどろになっている。

「いや、だから……」


「レイナ、起きてるのかい?」

 エイデンの言葉が終わる前に、寝室の扉が開き、レオナルドが顔を覗かせた。


「話声がすると思ったら、エイデンが来てたのか。」

 ベッドの中で二人して真っ赤になっている私達を見て、うんうんとレオナルドが頷いた。


「ビビアン達がいないから不便してないかと思って来てみたけど、エイデンがいるなら大丈夫だね。」


「おい、レオナルド。」

「昨日はまたケンカしたみたいだって聞いてたけど……いやー、良かった良かった。」


「おい。」

「朝食は部屋に運ぶよう言っとくから。」

「おい、レオナルド、聞けって。」


 喜んでいるレオナルドにはエイデンの呼びかけは、全く聞こえないようだ。

 「じゃあ、二人で仲良くね。」

 そう言ってウィンクして去って行った。


「だから聞けって……」

 エイデンの呼びかけが、静かになった部屋に響いた。


「なんか、レオすごい喜んでたわね。」

 同じベッドで寝てただけで、あんなに喜ばれるなんて……普段私達の関係がどれだけ心配されているのだろうか。なんだかレオナルドに申し訳ない気になってくる。


「まぁ、いい。」

 はぁっとため息をついてエイデンが言った。

「腹もへったし、朝飯にするか。」

 私は大きく頷いた。




  ☆ ☆ ☆




「くしゅん。」

 肌に当たる冷たい風で、鼻と耳がとても冷たい。

「寒いか?」


 耳元で響く低音の声に心臓がきゅっとなる。

 お腹にまわされたエイデンの腕に微かに力が入った気がして、体がかたくなる。


「大丈夫よ。」

 背中にエイデンの広い胸を意識して、体はのぼせそうに熱かった。


「ねぇ、エイデン。一体どこに向かっているの?」

 沈黙が余計に緊張をよぶ気がして、後ろのエイデンに話しかけた。

「この先にある湖だ。」

 私とエイデンを乗せた馬は、広い草原を駆け抜けていく。


「出かけるぞ。」

 そうエイデンが言い出したのは昼食が済んだ頃だった。


 用意もそこそこの私の手を引っ張るようにして城の外に連れ出される。

「急にどうしたの?」

 そう尋ねる私に、

「もう耐えきれん。」

 エイデンはそう答えた。


「どいつもこいつも、誤解してニヤニヤしてやがる。」

 エイデンが吐き捨てるように言った。

「挙句に料理長が、お祝いのケーキを用意するとか言い出しやがった。」


「そう言えば私も何のケーキが食べたいか聞かれたけれど、何のお祝いなの?」

「お前なぁ……」

 分かってなかったのかと、エイデンがあきれたように小さくため意をつく。


「私が無事にフレイムジールに帰ったお祝いかな〜なんて思ってたんだけど。」

 エイデンの様子からして私の考えはハズレなのだろう。


「もしかして……私の誕生日とか?」

 それも、ちがうのか……

 自分に都合のよいお祝いばかり考えていたけれど、エイデンの様子からしたら全く違うものなのかもしれない。


「で、結局なんのお祝いなの?」

 少しの沈黙のあとで、

「帰って自分で聞いてみろ。」

 とエイデンは言った。


「それよりもうすぐ着くぞ。」

 エイデンが馬をとめたのは、黒い石がたくさん落ちている、岩山の手前だった。


 何でこんなに寂しいところで、崖登りしてるの?

 カラカラと崩れていく石に足をとられそうになりながら、前を行くエイデンに必死でついていく。


「ほら。」

 一足先に頂上に到着したエイデンの差し出した手をつかみ、ひっぱりあげられるようにして山頂に足をつけた。


「やっと着い……うわぁ。」

 目の前には今までの寂しい光景からは想像できないほど美しい湖が広がっていた。


「素敵。」

 湖のほとりに咲き誇る小さな赤紫の花の中に足を踏み入れる。


「不思議。何だか頂上の方が暖かいわ。」

 肌に当たる風も冬の冷たさが全くない心地よいものに変わっていた。


「湖から熱が出てるからな。」

 ほらっとエイデンが指を向けた先では、湖がコポコポと沸きだっていた。


「湖の真ん中は熱湯だが、端の方は温くなってるから触ってみればいい。」

 岸辺にしゃがみ込み、そっと手を入れてみる。

「温かい。」


 周りには誰もいないので、湖に足を浸してみる。

「はぁ……気持ちいい。」

 少し熱めの湯が体を温めていく。


「気に入ったか?」

 隣に座り、同じように足を湖に浸しながらエイデンが私の顔を見た。

「ええ。連れて来てくれてありがとう。」

 エイデンが微かに嬉しそうな顔をした。


「嘘ついて……悪かったな。」

 小さな声でエイデンが言う。

 病気だという手紙を送ってきたことを謝っているのだろう。


「心配で急いで帰ってきたのよ。」

 そう言う私に、

「だいたい帰って来いって言ったのに、お前が帰って来ないのが悪いんだろ。」

 エイデンが言った。


 謝ってるのかと思えば、また怒り出したエイデンに言い返そうとして口を閉じた。

 せっかく二人で遠出しているのに、ケンカなんてしてたらもったいない。


「……嘘なんてつかなくても、結婚式が終われば帰って来たのに。」

 私がノースローザンヌを出発したのは結婚式の前日だ。嘘の手紙がなくても二、三日中には帰って来るはずだった。


「自分の婚約者が、他の男の恋人として結婚式に参列するなんて許せるわけないだろう。」

 エイデンは腹立たしそうに言う。


「それに……お前はカイルへの手紙に帰らない可能性もあると書いていた。」

「あれは……」

 確かに書いたけれど……

「婚約解消するなら帰らないって書いてたと思うんだけど。」


 チラリとエイデンの様子を伺う。

 緊張で口が乾いて、掠れた声が出る。

「わざわざ呼び戻したってことは、エイデンは私と結婚するつもりなの?」


 エイデンが真面目な顔で私の顔を見つめる。

 長い腕が伸びて肩を引き寄せられた。

 エイデンの形のよい唇が私の唇に優しく触れる。

 

「分かるだろ……」

 耳元でささやくエイデンの低音の声に思わず鳥肌が立つ。

 どうしよう……色気がありすぎてゾクゾクしちゃう。緊張して顔があげられない。


「分かんない。」

 小さな声を絞り出した。

「これじゃまだ分かんないよ。」

 そう言った私にエイデンがふっと小さく笑う。

「じゃあ分からせてやるよ。」

 そう言って私の唇にさっきより長いキスをする。


 エイデンの腕が私の体を包み込む。

 やだ……

 体から力が抜けていく。

 優しく噛むようなエイデンのキスに心も体も溶かされてしまう。


 エイデン……

 繰り返される熱い口付けに、目眩がする。

 私を抱きしめるエイデンの腕の中で、エイデン深い愛情を確かに感じたのだった。

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