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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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 どうしよう……

 こんな時ってどうしたらいいの?

 想定外の事態に頭の中がぐるぐるしてきた。


 事の始まりは数十分前に遡る。

 無事にアストラスタに到着した私達は女王夫妻から温かく歓迎されていた。


「レイナ様もお元気そうで安心しましたわ。事故で記憶を失われたとか……」

 私は覚えていないが、以前生誕祭で挨拶を交わしたことがあるらしい。


「エイデン様は会議の方へお越しください。レイナ様は、テラスにてランチを用意いたしますのでそちらへどうぞ。」


「レイナはこういった場が初めてなもので……」

 エイデンは私を一人で参加させることに不安があるようで、やんわり断りをいれる。


「大丈夫ですわ。」

 女王様がにっこり微笑んだ。

「娘がレイナ様のお世話をいたします。アイリンいらっしゃい。」


 女王に呼ばれてやって来たのは、私と同じ年頃の女性だった。

「娘のアイリンですわ。」

 優雅に頭を下げるアイリンに思わず見とれてしまう。


 キレイな人……

 シャープな顔立ちに、大きな瞳と、整った鼻筋。

 褐色の肌に、漆黒のウェットヘアがとても似合っていて色っぽい。


「しかし……そんな手間をかけるわけには。」

 エイデンがそう言うも、女王夫妻に結局押し切られるように私はランチの会場へ向かうことになった。


「長旅お疲れ様でした。」

 労いの言葉をかけてくれるアイリンへお礼を言う。

「アストラスタは本当にお花がたくさんでキレイなところですね。」


「ありがとうございます。」

 にっこり笑うとアイリンは少し幼く見えた。


「こちらがランチの会場ですわ。」

 背筋を伸ばす私にアイリンがくすりと笑う。

「緊張しなくても大丈夫ですよ。こちらにいるのは大国会議に参加する国の王族の中でも若い女性だけですから。そんなに人数も多くありませんし。」


 温かい光の差し込むテラスには、楽しそうな笑い声が響いていた。

「アイリン様ごきげんよう。」

 アイリンの訪れに気づいた女性が声をかけてくる。


 彼女達の楽しそうな声が突然やんでしまった。

 皆の視線が私に注がれているのを感じて、急いで挨拶をする。

 挨拶はカイルにバッチリ仕込まれていたので、問題なくできた……はずなんだけれど……


 皆が扇子で口元を隠してヒソヒソと何かを話している。

 彼女達の視線から判断して、私に好意的な印象を持っていないことは明らかだった。


 どうしよう……

 カイル鬼教官の顔を思い浮かべるが、こんな時どうするのか全く思い浮かばない。

 そもそも自分が嫌われている時の対処法なんて、習ってないもん……


 仕方がないので、何も気にしてないふりをしてにっこり微笑んでみる。

「レイナ様、こちらへ。」

 アイリンがすすめてくれる席へ腰掛けた。


「素晴らしい庭ですね。」

 作り笑いではない、本当の微笑みが口元に浮かぶ。

 席から見える庭園の美しさに、自分の置かれた状況が一瞬にして頭から消し飛んだ。


「私の自慢の庭園なんです。」

 アイリンが嬉しそうに笑う。

「よかったら後でご案内しますわ。」


 ぜひ……私が答えるより先に後ろから声がかけられた。

「楽しそうですね。私達もご一緒しようかしら。」

「クリスティーナ様。」

 アイリンが驚いたような顔をする。

「いらっしゃってるとは知りませんでした。」

 振り向くと二人の女性が後ろに立っていた。


「レイナ様ですね? エイデン様の婚約者の……」

 一人の女性が私に笑いかける。

 なんて可愛らしい人なんだろう。

 まるでお人形のよう……


 透き通るような肌にくり色の巻き毛、くりっとした瞳に、すっとした鼻筋、きれいな頬骨……

 どれを見ても私が今まで会ったどの人よりもきれいだった。


「わたくしサンドピークのクリスティーナと申します。そしてこちらはレイクスターのジャスミン姫です。」


 クリスティーナがにっこり笑う。

「仲良くしてくださいませ。」

 その愛らしい笑顔に目が釘付けになる。

 可愛らしすぎて、女の私までドキッとしちゃったわ。


 クリスティーナとジャスミンが私とアイリンのテーブルに同席する。

 それにしても……

 同席するメンバーを見ながらなんとも言えない気分になる。


 クリスティーナが私にニコニコ可愛らしい笑顔を向けるその横で、ジャスミンは不満そうな表情を隠そうともしていない。

 アイリンは会話には加わるものの、無表情のままで感情が全く読み取れなかった。


 私の位置からは後ろのテーブルの様子は見てとれないが、やはりヒソヒソした話し声は続いていた。


「……よね、レイナ様。」

 クリスティーナが私を見ているが、返事に困ってしまう。

 考え事してて全く聞いてなかったわ。


「婚約指輪見せていただいても?」

 どうやら私の結婚の話をしているのだと理解する。

「もちろんどうぞ。」

 左手の薬指にはめられた指輪を見せる。


「素敵な指輪……」

 少し切ない顔でクリスティーナが微笑む。

 その憂いを含んだ表情はまた一段と美しかった。

「本当にエイデン様と結婚なさるのね……」

 クリスティーナが小さな声で呟いた。

「えっ? それはどういう……?」


「ごめんなさい、わたくし気分がすぐれなくて……」

 クリスティーナが席を立つ。

「大丈夫?」

 ジャスミンが心配そうに寄り添って何やら話し込んでいる。


「本当にごめんなさい。アイリン様、レイナ様、また夜の舞踏会でお会いしましょう。」

 立ち去る瞬間まで優雅な振る舞いに見とれながら、その背中を見送る。


 クリスティーナの姿がテラスから消えると同時にジャスミンが真っ赤な顔をして席に戻ってきた。

 見るからに怒っている。


「レイナ様には思いやりとか気遣いというものがないんですの?」

 すごい剣幕でまくしたてられて怯んでしまう。

 気遣い?


「えーと……」

 意味が分からず口籠る。

「レイナ様は、事故で記憶をなくされてるんですから、そんな風におっしゃらなくても。」

 見かねたアイリンが横から口をはさんだ。


「そうだとしても、婚約指輪を見せたり、幸せアピールをして……クリスティーナ様がかわいそすぎます。」

「そもそもクリスティーナ様が婚約指輪を見たいと言ったのでは?」


 ジャスミンもアイリンもヒートアップしていく。

 ダメだ……全く話がみえない。

 ふぅ。

 小さくため息をつき、カシャンとカップをたおす。

「あ、大変。紅茶がこぼれてしまいましたわ。」


 もちろんワザとなのだが、焦ったふりをする。

 ジャスミンとアイリンも口をつぐんでいる。

 その場が片付けられ、新しい紅茶が運ばれてきた。

 一口飲んで、にっこりジャスミンに微笑みかける。


「ジャスミン様、わたくし本当に分からなくて……よろしければ何がよくなかったのか教えていただけませんか?」

 ジャスミンも少し落ち着いてきたようだ。

 新しく注がれた紅茶を美味しそうに飲んでいる。


「クリスティーナ様はもともとエイデン様の婚約者でした。エイデン様を奪った上に、婚約指輪を見せたりするなんて……クリスティーナ様がどんなお気持ちだったか……」


 慌てて口元を手で押さえる。

 びっくりして思わず紅茶を吹いてしまうところだったわ。


「奪ったって、わたくしが?」

「えぇ。お二人はあんなに愛し合ってらしたのに……」

 ジャスミンは余程クリスティーナのことが好きなのだろう。その瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちはじめた。


「エイデン様が国のために、あなたと結婚しなくてはいけなくなって、泣く泣くお二人は別れたんです。」

「まぁ、そんなことが。」

 エイデンを奪ったと聞いた時には、私は一体何をしたのかと心配したが、そういうことか。


「それで……クリスティーナ様はまだエイデンのことを?」

 ジャスミンは綺麗な刺繍のほどこされたハンカチで涙をぬぐいながら頷く。

「いまだに想っていらっしゃいます。」


 そんな状態ならば、エイデンの婚約者の私と会うのはつらいだろう。

 クリスティーナの切なそうな表情を思い出す。

 何だかクリスティーナを思って私まで胸が痛くなる。


「ですから夜のパーティーではお二人の邪魔をしないでもらいますから。」

 ジャスミンは言うだけ言って立ち去っていく。


 邪魔するなと言われても……

 一応私はエイデンの婚約者なのだ。

 はぁ……

 どうしたものかと考えて、ついため息が出ていた。


「お代わりいれましょうね。」

 それまで口をつぐんでいたアイリンが、私のカップを満たしてくれる。

「ありがとうございます。」

 温かい紅茶が心を落ちつかせてくれる。


「気にすることないと思いますよ。婚約と言っても昔のことですから。」

「国のためって……クリスティーナ様と結婚するより、私との方が国のためになるんですか?」


 自分にそんなに価値があるようには思えない。

 しかも相手はあの人形のように美しいクリスティーナだ。


「それは……」

 少し言いにくそうにしたものの、アイリンは説明してくれる。

「それはレイナ様が、ガードランドの姫だからですわ。」

「えっ? ガードランドはもうないのに、利用価値があるんですか?」


「利用価値って、そんな言い方……」

 アイリンは苦笑する。

「ガードランドは滅んだとは言え、やはり我々の中では神秘の国ですわ。その最期の王家の人間として、レイナ様はやはり貴重な存在です。」

 それに……とアイリンは言いにくそうに口ごもる。


「遠慮なくおっしゃってください。」

 そう言う私に、アイリンは話はじめる。

「……行方知れずのガードランドの姫には秘められた力がある。その力はひどく強大だ。何年か前からそういった類のお話がよく聞かれました。」

 だから私を欲しがる王家も多いのだとアイリンが言う。


「ごめんなさい。」

 何も言葉が出ない私にアイリンが小さく言う。

「聞きたくない話でしたよね。」

 そんなアイリンに、にっこり笑いかける。

「そんなことないですわ。ただ、世間での私の捉えられ方に驚いていたんです。」


 秘められた強大な力どころか、姫としてのマナーも持っているのかあやしいのに……

 自分がそんな特別な存在だと思われていたことが驚きだ。


「それに、アイリン様の説明で何だか少しスッキリしました。」

 そう……記憶が戻ってからずっと不思議だった謎がやっと一つ解けた気がしていた。

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