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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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 エイデンは今頃どのあたりにいるのかしら?

 壁の時計を見上げる。

 もうすぐ3時かぁ…。


 そんな私の様子を見てミアも時計を見る。

「エイデン様は、夜お帰りになるんだったわよね?」

「えぇ。夜遅いだろうから、寝ていていいと言われたわ。」


 夜遅いってどのくらい遅いのかしら?

 できれば起きていてお帰りと言いたいな。

 正直起きていられる自信はないけれど……


「さぁ休憩にいたしましょう。レイナ様は先代とお約束があるのでしょう?」

 ビビアンの声に慌てて立ち上がる。


 いけない。エイデンが帰ることばかり考えていて、お祖父様との約束を忘れるところだったわ。

 今日はお祖父様お気に入りのガーデンで、2人でお茶をするのだ。急いで身支度を整え、ガーデンへ向かう。


「やっと来たか。」

 エイデンの祖父であるジョージが私の姿を見て立ち上がる。

「遅くなってすいません。」


 チューリップ畑の中には2人分のお茶の用意がされていた。

 赤、白、ピンク、オレンジ、黄色のチューリップが咲き誇っている。


「きれい。虹みたいですね。」

 しゃがみこんで、チューリップを間近で見る。

「お前さんはこういうの好きだろう。」


 エイデンの祖父とこうしてお茶をするのは何度目だろうか?

 最初は厳しく感じたジョージも、だんだんと笑顔を見せてくれるようになってきた。

 笑う時の目がくしゃっとなるところがエイデンとそっくりで、なんだか親しみを感じる。


「んー。美味しい。」

 いつ飲んでも、お祖父様の淹れてくれるお茶は心を平穏にさせてくれる。


「エイデンと仲直りはしたのか?」

「えっ?」

「サンドピークに連れて行ってもらえなくてケンカになったと聞いたぞ。」


 お祖父様にまで知られていたのかと恥ずかしくなってしまう。

「ケンカっていうか……」

 なんて言ったらいいのか少し考える。

「何だかエイデンと結婚する自信がなくなっちゃって……」


 先日のエイデンとのやりとりについて説明する。

「でも、もう解決しましたよ。今はアストラスタに行って、エイデンに迷惑をかけないようダンスと食事のマナーの猛特訓中です。」

 私を鍛えるカイルが鬼のようだと言うとジョージは声を出して笑った。


「仲直りしたならよかったわい。」

「心配かけてごめんなさい。」

「まぁお前さんが踊れようが踊れまいが、エイデンは特に気にしてないだろう。お前さんに夢中だからの。」


 お祖父様ったら。

 からかうような瞳で笑われて、思わず赤面してしまう。


「あ、いたいた。」

 不意に現れた人物に目を丸くする。

「レオ? 帰ってたの?」

「さっき着いたところだよ。赤い顔してどうしたんだい?」


 レオナルドが私のおでこに触れる。

「熱があるわけじゃないみたいだね。」

 よかったと笑うレオナルドの後ろから、

「レオナルド、何してんだ?」

 大好きな声が聞こえてくる。


「エイデン、おかえりなさい。」

 ゆっくりこちらへ向かってくるエイデンに声をかける。

「ただいま。」

 エイデンがいつもと変わらぬ優しい笑みを浮かべた。


「なんじゃ、お前達も飲むのか?」

「お邪魔でなければ。」

 ジョージはふんっと鼻をならしたが、すぐに二人分の椅子が用意された。


「帰ってくるのは夜って聞いてたから、びっくりしちゃった。」

「用も済んだし、さっさと帰ってきた。」

 お茶をすすりながらエイデンが言う。

「留守の間、変わったことはなかったか?」

「うーん。いつも通りだったかな。」


 4人で他愛ない会話を楽しんでいると、マルコがやって来る。

「レオ様、お持ちいたしました。」

 抱えていた大きな箱がテーブルの上に置かれた。


「一体何を持ってきたんだ?」

 訝しむ顔でジョージがレオナルドを見る。

「お土産だよ。レイナにね。」

「えっ? 私に?」

 頷くレオナルドの横でエイデンが眉間にしわを寄せる。


「あけてもいい?」

 ワクワクとドキドキを感じながら、そっと箱を開けた。

「これって……」

 箱の中を見て言葉が切れる。


「すてき……」

 箱の中から輝くティアラを取り出した。

 一体いくつのダイヤモンドがついているのかしら?

 ティアラは太陽の光を浴びて、まるで光の輪のように見えた。


「まさかティアラが入ってるとは思わなかった……」

 ボソっとレオナルドが呟く。

「レオナルド、一体これはどういうことだ?」

 エイデンの問いかけにレオナルドが答えるより早く、ジョージが口をはさむ。


「レイナ、そのティアラをこちらへ。」

 ジョージはティアラを手にとりじっくり眺める。

「うむ。やっぱりそうじゃ。これはシャーナのものじゃ。」


 えっと小さな呟きと共にエイデンの目が見開かれる。

「そうじゃな、レオナルド?」

 ジョージの問いかけにレオナルドが頷く。

「頼まれたんですよ。エイデンの婚約者に渡してほしいと言って。」


「あ、あのー。」

 口を挟みにくい雰囲気の中、おずおずと口を開く。

「シャーナってどなたなんですか?」

 三人が私を見る。

「そうか、お前さんは会ったことがないんじゃったな。」


「……シャーナは俺達の母親だ。」

 エイデンは複雑な表情を浮かべている。

「お母様?」

「そうだ。今はサンドピークの王妃になっている。」


「えっ? 王妃って、えっ?」

 レオナルドも複雑な笑顔を浮かべている。

 母親についてもっと聞きたいけれど、どう切り出せばいいのか分からない。

 どんより重苦しい空気が流れる。


「……そのティアラは、わしの息子がシャーナに贈ったもんだ。シャーナはとても喜んでな、結婚式につけておった……」

 どこか遠くを見るような、懐かしむ瞳をしてジョージは言う。


「そんな大切なもの、いただいてもいいんですか?」

 ジョージが柔らかい表情を浮かべる。

「シャーナからエイデンへの結婚祝いのつもりなんじゃろな。もらってやったらええ。」

「……大切にします。」

 何だか嬉しくて胸がいっぱいになってくる。


 横を見るとエイデンが無表情のまま何かを考えこんでいる。

「エイデン?」

 そっとエイデンの腕に手をかけると、我にかえったのか、びくっと小さく体が動いた。


「どうかしたの?」

「いや……ちょっとな。」

 何だか歯切れが悪い。

 ふぅっとジョージが息を吐く。


「レイナ、今日の茶会はここまでだ。エイデン、レオナルドはわしの部屋へ。」

 威厳を感じる声に三人とも素直に従う。


 エイデン?

 何だか様子のおかしいエイデンをそっと見送った。




  ☆ ☆ ☆




「本当にきれいなティアラね。」

 ミアがテーブルの上に置かれたティアラにうっとりしている。

「レイナ様、つけてみられますか?」

 うーん……

 ティアラを見ながら少し考える。


「今はやめておくわ。楽しみは結婚式までとっておきたいから。」

 ビビアンとミアが優しく微笑む。


 結婚式かぁ……

 ついこの間は結婚やめられるのかなんて考えてたのに、今は結婚式の話してるなんて……

 気まぐれな自分に、自分で苦笑してしまう。

 こういうのも、一応マリッジブルーって言うのかしら?


 ティアラをしまおうと、箱をあける。

 あら?

 さっきはティアラにびっくりして気がつかなかったが、中には小さなカードが入っていた。


 ふっと口元が緩む。

 ティアラをそっと箱の中にしまった。

 机に向かいペンをとる。


 手紙を書き終え、手を休める。

 人の気配を感じ、振り返えろうとした瞬間、後ろから抱きしめられる。

「エイデン? どうしたの?」

 エイデンは答えない。

 力強く抱きしめられて、身動きがとれない。


「……少しだけ、このままで……」

 耳元でエイデンの声がする。

 いつもより弱々しい声に、何かあったのだと感じる。

 

 好きなだけこうしていいよ……

 エイデンの腕に手を重ねる。


 どれくらいそうしていたのだろうか、身動きしないエイデンに話しかける。

「エイデン、さっきのティアラなんだけど……」

「……」

 エイデンは答えない。


「箱の中にカードが入ってたの。」

 反応のなかったエイデンが少しだけ身動きをする。

「私とエイデン宛だと思うから読むね。」


 エイデンをよろしく。あなたの幸せを願っています。


「差出人の名前はないけど、きっとあなたのお母様……」

 エイデンの腕の力が強くなる。

「……っ。」

 エイデンの呼吸が荒くなる。


 エイデン……泣いてるの?

 気がつかないふりをしてわざと明るい声を出す。

「お義母様にお礼のお手紙を書いていたの。結婚式でお会いできたら嬉しいわ。」


「……そうだな……」

 小さく消えてしまいそうな声が聞こえた。

 どうしたの? 何かあったの?

 私がそう尋ねてもきっとあなたは何でもないって笑うでしょうね。


 いつか何でも話してくれればいいな。

 そう願いながら、エイデンの腕を抱きしめた。

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