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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「私の、祖父ですか……?」

 エイデンの祖父から意外な人物の話が出てきた。


「そうだ。ワシは若い頃に、あいつからこの茶の淹れ方を教わったんだ。」

 そう言ってずずっとお茶をすする。


 ぽかんとエイデンの祖父の顔を見る。

「お祖父様は、私の祖父と友達だったんですか?」

 ふんっと鼻を鳴らしながらジョージは言う。


「友達なもんか。ただ一年に一度、お互いの国を視察するだけの関係だ。」

 一年に一度行き来するなんて、結構な仲じゃないかと驚いてしまう。


「祖父はどんな人でしたか? 私には祖父の記憶がないので……」

 祖父は私が幼い頃に亡くなったため、一緒に過ごした記憶は全くない。


「あいつはな……」

 少し遠くを見るような目をしながらジョージは言う。

「あいつは、口の悪い男だった。」

 その口元はにやりと笑っていた。


「そうなんですか……」

 思いがけず始まった祖父の話に興奮してくる。

「もっと祖父のこと教えてください。それにガードランドのことも。」


 ジョージは立ち上がって、空になった2人分の茶碗をさげた。そして湯呑みに新たなお茶を入れてくれた。


 さっきより薄い緑色のお茶を一口飲む。

「甘い。」

 見た目からは想像できないほど甘いお茶に驚いた。

 お茶の温度はぬるめで、とても飲みやすい。


「この薄茶も、お前の祖父から教えられたんだ。」

 自らもお茶を飲み、ジョージは言った。

「それで、お前はガードランドについてどのくらい知っとるんだ?」


 私の祖国であるガードランド……

 正直言ってほとんど知っていることはない。

 私が物心ついた時には滅びてしまっていたからだ。


「国については何も知りません。ただ私の祖父が龍神を守るために竜の門を壊したとだけ聞いています。」

 私が小さい頃母から教えられたことだ。

 私の返答にジョージは、そうか、とだけ呟いた。


「……ガードランドは美しい国だった。花がたくさん咲いていてな。一度死んだ妻を連れて行ったことがあるが、大喜びだったわい。」

 昔を懐かしんでいるのだろうか……ジョージは目を細めてどこか楽しそうな表情を浮かべた。


「残念、私も行ってみたかったです。」

 記憶に残らないほど幼い時に滅んでしまった祖国に思いを馳せる。


「行ってみたらいいじゃないか。」

 ジョージが言う。

「エイデンに頼めば連れて言ってくれるじゃろ。」

 仲良くやってるんだろう? という問いかけに、照れながらも頷いた。




  ☆ ☆ ☆




 レイナのことで話がある、そう言ってウィリアムが訪ねて来たのは、夜遅くのことだった。


「……レイナ様は楽しかったとおっしゃいましたが、一応陛下にもお伝えしておいた方がよいかと思いまして……」


 先代である祖父が、レイナとの結婚を快く思ってないのは周知の事実だった。

 そのためウィリアムも心配してわざわざ報告に来たのだろう。


「分かった。わざわざすまなかったな。またレイナが祖父に会うようなことがあればまた知らせてくれ。」


 はぁ……

 大きなため息が出る。

 あのくそじじい、レイナにいらないことを言ってなければいいが。


 前に祖父との話をレイナに聞かれ、レイナが塞ぎこんだことがあった。

 もちろん自分にも非があるのだが、祖父が結婚に反対さえしなければ何も問題はなかったのだ。


 急いでレイナの部屋へ向かう。

 もしじじいに何か言われて落ち込んでいるなら、すぐに話をしなければ。


 ただでさえ記憶をなくしてからのレイナは、俺との距離の取り方に戸惑っているようなところがあるのだから。

 まぁ、それはそれで反応がいちいち可愛いんだけれど……


 レイナの部屋はすでに薄暗かった。

「まぁ、エイデン様。」

 片付けをしていたビビアンが俺に気づいて寄って来る。


「申し訳ありません。レイナ様は早くにお休みになられまして……」

 申し訳なさそうなビビアンに、変わったことはないかと尋ねた。


「先代のお部屋で美味しいお茶をごちそうになったと言われてましたが、特に変わった様子はありませんでした。」

 ビビアンの返答にひとまずホッとする。


 眠っているレイナの側にそっと歩み寄る。

 レイナは気持ち良さそうに、スースーと寝息を立てている。

 幸せそうなレイナの寝顔に、自然と顔がほころんでくる。


「おやすみ。」

 レイナを起こさないよう、小さな声でつぶやいた。




 レイナが先代の部屋に出かけて行ったという知らせが来たのは翌日の昼過ぎだった。

「レイナが? 何しに?」

 驚きを隠しきれず、知らせに来たウィリアムに詰め寄る。


「一緒にお菓子を召し上がると言ってらっしゃいました。」

 菓子だと?

 一体何が行われているのか不安になり、席を立つ。


「……陛下、お早めにお戻りください。」

 文句を言いたそうな顔をしながらも、諦めたようにカイルは送り出してくれた。


 先代のドアをノックし、勢いよくドアをあける。

 ドアの音に驚いたような顔をしてレイナと先代がこちらを見ている。


「なんだ、お前か。どうした?」

 先代である祖父のジョージが声を出す。

 祖父には構わずレイナの元に向かう。

「レイナ、大丈夫か?」


 俺の問いかけに、レイナはきょとんとしている。

「えっと……大丈夫だよ。」

 不思議そうな顔でレイナが言う。

「エイデンからもらったこのチョコレート、お祖父様と食べようと思って持って来たの。とっても美味しいわ。」


 どうして冬にはチョコレートが食べたくなるのかしらと無邪気に笑うレイナに力が抜けて行く気がした。

 ただチョコレート食べてるだけなのか?


「せっかくだ。お前も飲んで行け。」

 そう言って濃い緑色の飲み物が置かれた。

「レイナはお代わりするか?」

 レイナの前にも同様の飲み物が置かれる。


「ありがとうございます。」

 そう言って嬉しそうに飲むレイナを見て、緑の液体を口にした。

 ん……

「うまい。」


 飲むのに勇気がいるほどの色をしているのに、その味は甘みと苦味が程よく混じって、とても上品だった。

「チョコレートともよくあうのよ。」

 レイナはとても楽しそうだ。


「で、一体レイナは何故ここにいるんだ?」

 想像以上にくつろいでいるレイナに拍子抜けしたものの、やっぱり相手が厄介な祖父なのだ。油断は禁物だ。


「お祖父様とお茶しに来たの。昨日いつでも来ていいって言ってくださったから。」

 ずずっと茶をすすりながら、祖父は無言のままだ。


 くそじじい……何を企んでる?

 視線を送るが祖父は平然とした顔で茶をすするだけだ。

 時間もないし、仕方がないか……


「レイナ、悪いが部屋に戻っていてくれるか? 先代と少し話があるんだ。」

 何となく険悪な雰囲気を感じたのか、レイナが不安そうな顔をする。

「夜に部屋に行くから。」

 そう言ってレイナを部屋から追い出した。


「……それで、あの娘を追い出して何の話がしたいんだ?」

 祖父は座ったまま俺に厳しい目を向ける。


 王になるため、小さい頃から祖父には厳しく躾けられた。そのためだろうか、祖父の前では多少萎縮してしまう。でもここで負けるわけにはいかない。


「何を企んでいるんです?」

 祖父の前に腰掛けながら尋ねる。

「企むとは?」

 相変わらず厳しい目をして祖父が尋ね返す。


「あなたがレイナと仲良くするなんて、何か企んでるとしか考えられません。」


「だとしたらどうなんだ? 」

 祖父の口調はとても静かだ。

「お前は竜の力のためにあの娘と結婚したいだけだろ? 竜の力も使い果たしたような娘になんの価値がある?」


 レイナを愛しているから嫁として迎えたい。

 そう伝えたら先代である祖父にも、国の重鎮達にも反対されるのは分かっていた。


 国のためになる結婚を……幼い頃から言われてきた言葉だ。レイナと出会う前はそれが正しいことだと思っていた。


 だがレイナに出会って恋に落ちた。

 レイナ以外の女なんて必要ない。

 それはこれから先もきっと変わることはないだろう。


「……俺は、俺はレイナを愛しています。」

 小さいけれど、はっきりとした声で祖父へ伝える。

「レイナを傷つけるつもりなら、たとえあなたが相手でも容赦しませんから。」

 祖父を睨みつけるようにして自分の思いを伝えた。


 しばらく無言のまま見つめ合う、というより睨み合いのような状態が続いた後、

「そうか……」

 祖父が静かにそう言って立ち上がる。


 しばし待っていると、何かを抱え、奥の部屋から戻ってくる。

「これは?」

 それは一枚の大きな絵だった?


 綺麗な花畑の中に4人の人物が楽しそうにピクニックをしている絵だ。

 これは、俺じゃないし、レオナルドでもないな。

 真ん中にいる若い男が何となく自分やレオナルドに似ているような気がした。

 もしかして……?


 祖父の顔を見る。

「これが若い頃のワシだ。」

 やっぱりそうなのかと納得する。

 今はさっぱり似ている要素は感じられないが、若い頃は自分やレオナルドに似ていたのかと思うと何だか不思議な気分になる。


「これがお前の祖母だ。」

 祖父が1人の女性を指差して言う。

 可愛らしい人だなと思う。

 祖母は産まれる前に亡くなっていたので、肖像画でしか顔は知らなかった。


 それから……と祖父は続ける。

「これがレイナの祖父母だ。」

「えっ?」

 驚いてその絵を食い入るように見つめる。


「どうして……?」

 驚いてそれしか言えない俺に、祖父は言った。

「レイナの祖父、アルバートはワシの親友だ。」

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