表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/93

21

「……よく頑張りましたね。」

 やった。久しぶりにカイルに褒められた。


 この所、お妃修行は調子よく進んでいた。

 エイデンと結婚するぞという気持ちが強くなったからだろうか?

 やる気が出て、何でもできそうな気がしてくる。


 カイルがご褒美にと、午後の外出を許可してくれた。

「レイナ様、いいんですか? せっかくのお休みなのに……」


 私の護衛で一緒に外出しているウィリアムが言う。

 ウィリアムとミアと共に、ガラス工房に向かっているのだ。

「久しぶりに師匠に会いたいから。それにミアは工房に行くの初めてだものね。」


 久しぶりに行く工房は前と変わらず師匠が歓迎してくれた。

 ウィリアムも久しぶりの工房に嬉しそうだ。

 来てよかった、そう思いながら数時間過ごした頃に異変が起こった。


 突然入口から飛び込んできた男が叫ぶ。

「大変だ。逃げろ、森が、森が燃えてる!!」

 慌てて外へ出て言葉を失う。


「何、これ……」

 町の外に広がる森から黒い煙がたちこめていた。

 炎は見えないけど、これじゃあ煙にやられてしまう。


「とりあえず町の反対側に……」

 ウィリアムの声で、工房やその場にいる人々と共に町の反対側へと避難する。


「嘘だろ……」

 町の反対側、先日エイデンと一緒にホットドックを食べたあたりで、先頭を行くウィリアムの足が止まった。


「こっちも燃えてるの?」

 絶望にも似た感情でモクモクと空へと昇る黒煙を見上げる。

「両方の森が燃えるなんて信じられない。」

 私の呟きにウィリアムが反応する。


「レイナ様、すぐに城へ戻りましょう。」

「でも……」

 大騒ぎになっている人々を見る。

「森がこの様な燃え方をするなんて、誰かが意図的に燃やしたとしか考えられません。このままでは危険です。」


 そんな……誰かが森を燃やしたなんて……

「さぁ、レイナ様こちらです。」

 ウィリアムが私達を城へと誘導する。


「私とミアは城まで帰れるから、ウィルはここに残って。」

 歳とった師匠を気にかけているウィリアムに声をかけた。


「しかし……」

「このままじゃ皆パニックで危ないわ。ここに残って皆を助けてあげて。」

 慌てふためく人々を見つめる。

 ウィリアムも同じように悲鳴が響き渡る町を見つめている。


「分かりました。」

 ウィリアムは静かに頷いた。

「では。レイナ様、くれぐれもお気をつけて。」

 ウィリアムと反対の方向に向かって走り出す。

 急いで城に帰らなくては。


 ミアと共に城まで走りつく。

 城に入るとビビアンとエイデンが待ち構えていた。

「レイナ、無事でよかった。」

 エイデンが私をぎゅっと抱きしめた。

「工房にいると聞いて心配したぞ。」


 町の様子をエイデンと、かけつけたカイルに伝える。

「ウィリアムが残ってくれてるけど……どうしてこんなことに?」

「それについては調査中です。陛下どうされますか?」


「とりあえず俺は燃え方がひどい方へ行く。カイルは騎士達を割り振ってくれ。」

 エイデンは私のおでこに軽くキスをする。

「いってくる。レイナを頼む」

 ミアとビビアンは力強く頷いた。


「なんだかエイデン疲れてるみたいね。」

 私の呟きにビビアンが答える。

「先程城の方にも大きな火の手があがりました。エイデン様の力ですぐ消火できましたので怪我人はありませんが……」


 城にも火がつけられたなんて。

 一体誰が何のために……

 城の中は大騒ぎで、とても部屋で待つ気分にはなれなかった。


「では塔のバルコニーへまいりましょう。森が見渡せるはずです。」

 ビビアンの提案でバルコニーへ行ってみると、レオナルド達が先に来ていた。


「レオ、どんな感じ?」

 レオナルドの横に並んで森を見渡す。

「だいぶひどいな。エイデンの力じゃ無理かもしれない。」

 レオナルドが苦しそうな表情を浮かべる。


「エイデンの力って、炎を起こすだけじゃなくて消すこともできるのね。」

 恐ろしいほどに巻き起こる黒煙をやりきれない気持ちで見つめる。


「もちろん。炎なら起こすことも、消すこともできるよ。ただ……これだけ広範囲になると一瞬で消すっていうのは難しいみたいだね。」


 私達の視線の先には森の二か所で燃え広がる炎が見えている。

「それに、さっきの城の火を消すのに魔力を使ったからね。結構キツイはずだよ。」


「あっ。」

 森の中をエイデンが率いる騎士達が進んで行くのが見えた。

 エイデン、気をつけて……

 祈りながら森に消えて行くエイデンを見つめる。


「……こんな時、自分はなんて無力なんだろうって痛感するよ……見ているだけしかできないんだからね。」

 エイデン達を見つめるレオナルドの瞳が悲しくて言葉が出ない。


「レオナルド様大変です。」

 レオナルドの側近だろうか、バタバタと焦った様子で走ってくる。

「エリザベス様が脱走しました。」


「脱走?」

 レオナルドと二人同時に驚きの声をあげる。

「そういうことか……」

 レオナルドがやっと分かったという顔をする。


「どういうこと?」

「この火事はエリザベス達の仕業だったんだよ。」

 レオナルドは間違いないと断言する。


 まさか……あの子がこんなひどい事をするなんて。

 にわかには信じられなかった。

「どうしてこんなに同時に火事が起こったのか不思議に思ってたんだ。この騒ぎに乗じてエリザベスを逃すためだと考えれば、すべて納得がいくよ。」


「でもエリザベス様は、そんなにひどい罰を受けてないんでしょ?」

 私を誘拐したことで、今は城に軟禁状態だと聞いている。いい嫁ぎ先が見つかり次第、他国へ行く予定になっているはずだ。


「そうだね。私からみたら、罰としては甘すぎると思うよ。でもエリザベスは気に入らなかったのかもしれない。」


「そうだとしても、こんな風に森を焼くなんて許せない。」

 怒りがふつふつとわいてくる。


 わっと反対側から悲鳴に似た声があがる。

 レオナルドと二人でバルコニーの反対側へ移動する。


「嘘でしょ。」

 炎は先ほどの二か所だけではなく、新たに城のすぐ近くでも黒煙を上げ始めていた。


「ひどいな……」

 レオナルドが呟く。

「空気ぐ乾燥してる分、焼けるスピードが速すぎる。」


 城の騎士団が新たにあがり始めた炎を消すために水をかけているのが見えた。

 だが勢いよく燃えあがる炎の前では何の役にもたたなかった。


「エイデン……」

 思わずエイデンの名前を呟いた。

「……エイデンを助けたいかい?」

 レオナルドがいつにない真面目な顔でこちらを見ていた。


「それはもちろん助けたいわ。」

 だけど私にできることは何もない。

 ここから火が消えるように祈るだけだ。


「じゃあ、うまくいくか分からないけど一つ試してみていいかい?」

 レオナルドはそう呟くと、私の腕をぐいっとひいた。あっと思った時にはレオナルドの腕の中にいた。


「レイナ、ごめん。」

 レオナルドが耳元でそう言って、私にキスをした。


 イヤっ。

 そう思った瞬間、体中に熱がかけぬける。

 な、に……?

 あまりの熱さで体が溶けてしまいそうだ。


「レイナ!」

 ミアが心配してかけよろうとするのを、レオナルドが遮る。


「あぁー。」

 苦しみで視界が滲んでくる。


「……いつか必ず迎えに行くから……」

 遠くでエイデンの声が聞こえる。

「レイナがもう隠れなくていいように、俺が守ってやるよ……」


 そうだね、エイデン。

 小さい頃の約束守ってくれてたんだね。

 頬を涙が伝う。


 体から熱が引いた時には全てを思い出していた。

「レイ、ナ?」

 驚いた顔でミアがこちらを見ている。

 他の人達も怖れと驚愕の入り混じった表情をしていた。


 一瞬にして腰まで伸びた髪の毛を見ると、綺麗な銀白色だった。

 はぁ……

 大きなため息をつく。


 全部戻ってしまった。

 ずっと忘れたままでいたかった。


 足下に落ちていたブレスレットを拾う。

 母の形見だからとずっと身につけていたものだ。

 これが封印だったのね……


 前に聞いた時、エイデンは私のガードランドの記憶を封印したと言っていた。

 嘘つきだなぁ……

 涙が溢れそうになる。


 私が封印されていたのはガードランドの記憶じゃない。

 私が封印されていたのは……龍族に関する記憶と、私の持つ魔力だ。


 銀白色の髪は龍族の証だ。

 小さい頃私が狙われていたのは、私が持つ龍の力を狙ったものだった。

 封印により、髪の毛は金茶色になり、普通の人間として暮らすことができていたのだ。


 エイデンは優しいなぁ……

 きっとずっと隠したまま守ってくれるつもりだったのね。


 今度は私があなたを助ける番だ。

 あなたの大切なこの国を私も一緒に守りたい。


 煙が立ち込める空を見上げた。

 どうすべきかは分かっている。

 たとえその後に悲しい別れが待っているとしても……


 一瞬にして黒い雲が空を覆い尽くす。


 ポツ、ポツポツ。

「雨だ。雨が降ってきた。」

 歓喜に似た声がバルコニーであがる。

 雨は次第に強くなり、すぐに土砂降りになった。


「エイデン……」

 薬指にはめられた指輪を見つめる。

 雨が一段と強くなった。


 どれくらいの間雨に打たれていただろうか。ふらっとめまいがして、一瞬よろめいた。

「レイナ。」

 倒れそうになる私をエイデンが抱きとめてくれる。


 エイデン……火は消えたかしら?

 困ったな。言いたいことがあるのに眠くてたまらない。


 私の名を呼ぶエイデンの頬にそっと触れる。

 エイデン、ありがとう……

 この一年とっても幸せだったわ。


 伝えたいのに、もう声が出ないみたい。

 私の気持ち伝わってるかな?

 エイデン、大好きだよ。

 ごめんね、ありがとう。


 さようなら……

 エイデンに微笑んで、静かに目をとじた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ