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炎の王子は竜の姫に恋をする  作者: 紅花うさぎ


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「んー、よく寝た。」

 ふかふかのベッドで寝るのは久しぶりで、ぐっすり眠ってしまった。

 結局立ち去ることができず、昨夜は城に泊まったのだ。


 起きてびっくりする。

「何、これ?」

 部屋の中にはリボンのついた箱が山積みになっていた。


「おはようございます、レイナ様。」

 私付きの侍女だというビビアンが、身支度の手伝いをしてくれる。


「エイデン様からレイナ様へのプレゼントです。」

 とても嬉しそうなビビアンには悪いが、なんだが困惑してしまう。

「こんなにたくさん……」


 箱を開けてみると、中にはドレスや帽子、宝石類が入っていた。

「まぁ、素敵ですね。」

 確かに素敵だけれど……

「私には華やかすぎるわ。」


「そんなことありません。」

 ビビアンが力いっぱい言った。

「レイナ様は未来の王妃様なのですから。」


 未来の王妃……

 エイデンは本気なのだろうか?

 ……あぁ、頭が痛い……


「レイナ様にお似合いになりそうなものばかりですね。エイデン様はレイナ様が大好きでいらっしゃるから……」


 ビビアンの言葉に首をかしげる。

 私のことを好き? どこが?

 昨夜のエイデンを思い出す。その態度のどこにも私への愛情が感じられる部分はなかった。

 ただ都合がいいから妻にしたいだけだわ。


 今まで働いていたウォーカー家には帰れないだろう。こんな時に頼れる家族も友人もいない。

 利用されたくはないけれど、たとえここから逃げ出したとしても行くあてなんてない……

 そのことがどうしようもなく悲しい。

 どうしたものかと考えてまた頭が痛くなる。


 そうこうしてる間に、そのまま数日が過ぎた。エイデンは忙しいようで、初日に夕食を共にして以来見かけることはなかった。


 早く出ていかないと……そう思いながらもここは居心地がよくて結局城に残ってしまっている。

 温かい食事に、ふかふかのベッドは最高だ。

 このままだと出ていけなくなりそうだわ。

 これから先のことを考え、不安になりながらも自分がどうすべきなのか決められずにいた。


「またお菓子が届きましたよ。」

 机の上はエイデンから届けられたお菓子の箱でいっぱいだ。私はそんなに食いしん坊だと思われているのだろうか?

 お菓子の山を見ながら苦笑してしまう。

「お茶にしましょうか。」

 それでもせっかくなのでいただくことにした。




  ☆ ☆ ☆




「何もこんなところから覗かずとも、一緒にお茶を飲んでくればいいじゃないですか。」

 呆れたようにカイルは言う。


「俺がいたらあいつはくつろげないだろ。」

 コソコソと隠れ、窓の外からレイナの様子を伺っているエイデンを見ながらカイルはため息をついた。

 この大国の王がこんな覗きをしてるなんて……


「レイナ様、楽しそうですね。」

 仕方なく覗きに付き合いながらカイルが言った。

「そうだな。」

 エイデンが優しく微笑む。


「ふふっ。」

 カイルが小さく笑った。

 そんな幸せそうな顔するのなら、もっと素直に接すればいいのに……


「あいつ……」

 ふいにエイデンの眉間に皺が寄る。

「どうかされましたか?」

 レイナに視線をうつしながらカイルが尋ねた。

 特に変わった様子はなく、レイナはビビアンとお茶を楽しんでいる。

「なんでもない……」

 そう言い残し、エイデンは部屋へ戻って行った。




  ☆ ☆ ☆




「はぁ……」

 何だか疲れたわ。考えすぎて頭も痛い。

 廊下を歩いていると、エイデンがこちらに向かってくるのが見えた。


 何て声をかけようか……

 そう考えながら立ち止まると、近づいて来たエイデンに横抱きにされた。


「エイデン、何を?」

 エイデンに触れられた部分から、体中が熱くなっていくのを感じた。


「やだ。降ろして。」

 恥ずかしいやら、意味が分からないやらで、パニックになってしまう。

「暴れるな。」

 真剣な瞳に見つめられ声が出ない。


 やっぱり綺麗な顔……端正な横顔が近くにあって緊張してくる。エイデンの頰に息がかかるのが怖くて思わず口をきゅっと閉じた。

 エイデンは私を横抱きにしたまま部屋へ入った。


「寝とけ。」

 エイデンは私をそっとベッドの上に降ろすと、それだけ言って部屋から出ていった。

 はぁ?

 やっぱり意味が分からない。


 寝とけと言われても、こんな真昼間から寝るなんて……戸惑っていると王宮の医師がやってきた。エイデンから私を診察するよう頼まれたらしい。


 私、具合悪かったの? 自分で全く気がつかなかったことに驚いた。

 夜になり頭の痛さは増していく。寒気もひどい。

 数日前からの頭痛は風邪が原因だったみたいね。


 それにしても……エイデンはなぜ私が具合が悪いと気がついたのだろう。

 そう思いながらも思考は停止し、私は深い眠りに落ちていった。


 その夜のこと……音も立てずに部屋に入っていく人影があった。

「エイデン様?」

 部屋でレイナの看病をしていたビビアンは驚いたような声を出した。

「どうされたんですか?」


「ちょっとな……」

 そう言ってベッドの横に移動する。レイナはスヤスヤ眠っている。

「レイナ様はもう熱も下がりましたし、大丈夫ですよ。」

 ビビアンが声をかける。


「そうか……」

 ほっとしたようにエイデンは笑った。

「ビビアンも、もう休んでくれ。」

 エイデンはベッド脇の椅子に腰かけてレイナを見つめている。


 ふふっとビビアンの口から笑みがこぼれる。

「しばらく二人きりにして差し上げましょう。」

 ビビアンは心の中で呟いて、部屋を出て行った。


 レイナを見つめるエイデンの瞳はとても優しい。

 彼女の長い金茶色の柔らかな髪の毛を一房すくい優しくキスをする。

「レイナ、会いたかった……」

 静かな部屋にエイデンの微かな呟きが響いた。




  ☆ ☆ ☆




「……なぜここで食事をしてるの?」

 私のベッドの横で、パクパクと朝食をとっているエイデンに声をかける。

「俺がどこで食べようがお前に関係ないだろう。」


 相変わらずなエイデンにムカッとしながら、朝食のスープをベッドに座ったまま口に運んだ。一晩眠って頭が痛いのはすっかり治ったみたいだ。

 温かいスープが体に染み込んでいくのを感じ、ほぅっと息をつく。


 視線を感じた気がして顔をあげると、エイデンと目があった。

「何?」

 エイデンは答えることなく、私がスープを食べ終わるのを見届け去って行った。


 一体何なんだ。そう愚痴る私にビビアンが笑いながら言った。

「エイデン様はレイナ様のことが心配で、こちらで食事をされたんですよ。」


「心配? 」

 私の具合を尋ねるわけでもなく、ただ黙々と食事をするエイデンのしかめ面を思い浮かべる。


「心配じゃなくて、嫌がらせじゃない?」

 私の言葉にビビアンは苦笑いをする。

 エイデンが一晩中レイナの様子を見ていたことは、キツく口止めされていた。

 困ったものね、ビビアンは心の中でもう一度笑った。


 コンコン。

 ドアがノックされ、カイルが入ってきた。

「だいぶ元気になられたようで安心しました。」

「おかげ様で。」

「エイデン様もずいぶん心配されてましたよ。」


 またか……

 思わず苦笑してしまう。

 一体全体あの態度のどこを見たら、心配してるように見えるのだろうか。


 そう言おうとして、カイルの後ろにいる人物を見て言葉を失った。

「ミ、ア?」

「レイナ、無事でよかった。」

 メイドとして一緒に働いていたミアがいたのだ。


「レイナが急に連れて行かれたから心配したわよ。」

 優しく笑って頭をなでられ、思わずミアにしがみついて泣いていた。


 ミアは何も言わず、優しく私を抱きしめてくれた。

 母が亡くなり、住み込みでメイドの仕事を始めた時は、夜が来るたび泣いていた。

 そんな私をミアは優しく抱きしめて、泣き止むまで側についていてくれたのだ。


「ミアにはこれより、レイナ様つきの侍女として働いていただきます。」

 カイルが言う。

「本当に?」

「そのために来たのよ。」

 大きなカバンを叩いて笑いながらミアは言った。


「カイルありがとう。ミアを連れて来てくれて。」

「お礼はエイデン様におっしゃってください。」

 カイルはにっこりとして言った。

「レイナ様が寂しくないようミアを呼べ、そうおっしゃったのはエイデン様ですよ。」


 お礼を言いたくてエイデンの部屋へ向かうと、ちょうど部屋を出てくるエイデンを見つけた。

「エイデン 。」

 駆け寄って声をかける。


「エイデンありがとう。私、ミアに会えて本当に嬉しい。」

 エイデンが今まで見せたことのない微笑みを見せる。その笑顔があまりにも素敵で思わず見とれてしまった。


「よかったな。」

 私の頭をぽんぽんと優しく叩く。

「エイデンって……本当は優しかったのね。」


「は? 何をバカなことを……」

 そっぽを向いたエイデンの顔は真っ赤だった。

 照れてるの?

 その姿に胸の奥がざわざわして、思わず俯いてしまった。


「何あれ……」

 呆れたようにミアが言う。

 少し離れた場所でミアとカイルが二人の様子を見ていたのだ。


「可愛らしいですね。」

「初々しすぎでしょ。」

 カイルとミアは顔を見合わせて笑った。

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