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ユウの理  作者: ペンペン中将
第一章【人間族領内編】
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知りたい青年と知らない少女③

「な、何が起きたんだ!」


 時間はほんの少しだけ戻る。路地裏に入ったユウの目に入ったのは、壁に押さえ込まれる男、そしてもう一人の男が命術を少女に放つ直前。


『っ!やべぇ!』


 ユウは足に命力(ヴァイタル)を集中し、


『だいたい12メートルってところか』


 少女に向かって思い切り跳んだ。地面がえぐれる。これはつまり、ユウの足にも同じ負担かかっている、ということである。しかしユウの思考は痛みには回せなかった。その甲斐があった、かはわからないが間に合った。命術は壁に直撃で爆発。ユウは少女を抱き止めたまま盛大に壁にぶつかった。


『ってて、なんとか間に合ったな』


 腕の中で眠る少女を見て、ユウは安堵した。


「お、おい! なんだ今の音!」

「路地裏からだぞ!」


 が、それも束の間。周りから人が集まってくる声が聞こえた。一番焦っていたのは命術を放った男だった。


「く、極秘任務だってのにやり過ぎちまった。その上仕留め損ねるとは……とにかく今は離れるしかないか。おいおま」


 大男が言い終わる前に、ユウは少女ともう一人の男を連れて、その場を離れていた。






『久々過ぎてきつい。ここまで体が鈍ってるとは思わなかったな』


 先程の路地裏から離れた場所で、ユウは座っていた。足に命力を集めて跳んだせいでズキズキと痛む。そのまま二人を抱えて屋根づたいに跳びながら逃げたことによってとどめをさした。もう1ミリも動きたくない。ちなみに場所はさっきとは違う路地裏。少女を抱いたままユウは大きく深呼吸をした。


『隠れて休む場所なんてこんな感じの場所しかないしな』

「だ、大丈夫ですか?」


 男がユウに心配そうに話しかけた。


『ん?なんか聞き覚えのある声だな』


 気のせいかもしれないという可能性も考えて、ユウはとりあえず普通に返そうとして、男の顔を見た。


「ええ、まぁ。ってアロンか!?」

「え? 僕、自己紹介しましたっけ?」


 ユウは驚き、アロンはきょとんとした。


「俺だよ俺。ユウだよ」

「ユウ?ユウなんて古来名の人間族、僕は一人しか」


 そう言ってようやく気付いたのだろう。「えっ」と小さく声を漏らすとユウの顔をいろんな角度から見つめそして飛び上がった。


「えええええええ!! ほ、本当にユウ特務長官ですか!? いや違う! 長官は()()()()で死んでしまわれたはずだ! 僕は誰かに幻覚を見せられているんだ!」


 ユウは落ち着かせるのが面倒くさかったのか、取り乱しているアロンの頭をげんこつでまあままあ強く殴った。






 落ち着いたのか、アロンは頭をさすりながら地面に腰を下ろした。


「で、なんで特務長官どのがこんなところに?もしかして呪いにでも来たんですか?」

「死んでねぇって言ってるだろ」


 もう一発殴ってやろうかと言ったらアロンはいやほんとごめんなさいと即答した。


「本当に驚きですよ。あんなことがあって死なないなんて、さすがとしか言いようがありません」

「まぁまじで死んだと思ったけどな」


『そりゃああんだけ仲間が無惨に殺されていく(さま)を見て、飛行挺のプロペラが六つ中四つ止まった時には終わったかと……』


 ここでユウは思い出すのをやめた。あまりいい記憶というわけでもない。


「とにかく生きていてくれてよかった。これで次の戦いは勝利間違い無しです」


 アロンは笑顔でそう言った。


「ん?また鱗人族とやんのか?」


 人間族と鱗人族はずっと戦争をしている。それは蝕獣(イーター)が現れる前、四百年以上前にまで遡る歴史だ。蝕獣が現れてから最初は協力態勢だったが、次第にその態勢はなくなり、今では年に一度程度の規模でお互いの領地への侵攻が行われている。


「ええ。しかも今度は第一都市攻めです」

「は?」


 ユウの思考が一瞬停止した。鱗人族は人間族の三分の一ほどしか人口がいない。その上、人間族以外の多種族とも戦争を行っている。なのになぜ今現在まで生き残れたのか。それは一人一人の強さが異常だからである。鱗は銃弾や剣を通さず、腕力は人間族の平均の約三倍。さらに命力も同じくらいの差がある。


「いやいや無理だろ」


 しかも攻めるのは第一都市。最も人口が多い。その数約七十万人。あくまで一般人を含んだ人数ではあるが、熟練の兵士ですら一般人に殺されかねない。ちなみに人間族の数は全種族最多の千二百万人。第一都市を()()()滅ぼすなら二百万人以上の戦力がほしい。そんな力は今の人間族にはなかった。


「それが無理じゃないんです。新兵器の開発が進みまして」


『新兵器?』


 ユウは顔を少しだけしかめた。嫌な予感が全身に走ったからである。


「特殊起動式戦闘服」


 名前ダサすぎるだろ。


「簡単な話、着た者は本来の限界の力の十倍を発揮できる兵器で」

「ちょっと待て」


 ユウは右手で頭を押さえ、左手をアロンの前で開けて話を打ちきらせた。


「十倍だと? そんな力数分も発揮したら死ぬぞ。筋肉と骨はボロボロになるし内蔵はズタズタ。確かに勝てるかもしれないが、こっちの被害も甚大じゃなくなる。だいたい人命も軽率に扱いすぎだ」

「ええ。だからあなたなんです」


 そう言われ、ユウはため息をついた。


『なるほど。そういうことか。確かに俺がいれば万事解決だ。少なくとも死人は減らせる』


 アロンの作戦は実に合理的だった。軍の人間であれば、当然行き着く結果なのは元軍人のユウからしても明白だった。


「あなたの回復命術があればいいんですよ」




 そもそも命術は、大き分けて2種類ある。1つは、さっき放たれたような「戦闘命術」。その中の「爆破弾(ボムシュート)」というものだ。そしてもう1つが「非戦闘命術」。これは錬成や回復等が主なものだ。そしてユウが最も得意とする、否、()()使()()()()()。それが回復命術である。




「断る」


 ユウはほぼ間を空けずに答えた。


「えっ! どど、どうしてですか!」


 当然協力してくれるものだと思っていたのだろう。アロンはこれまでにないほど戸惑っていた。


「理由は二つ」


 そう言ってユウはアロンの目の前に手を出し、指を一本たてた。


「一つ。確かに俺は傷は治せる。兵士の使い回しができるかもしれない。だが痛みを消せる訳じゃないんだ。であれば、心が持たずに廃人になる奴はでてくるだろう。そうなれば人命を軽く扱っていることに変わりはない。」


 これにはアロンも納得せざる得なかった。「負担を減らす」訳ではなく、「負担によってできた傷を治す」。負担がかかることに何ら変わりはない。傷を治す度何度も出撃していては心の方が持たないだろう。


「で、でもそれを覚悟の上で戦う兵士も」

「二つ。こっちの方が重要なんだが」


 ユウは一度間を空け、大きく息を吸い込んだ。対してアロンはどんな重要なことを言われるのかと思い、ゴクリと唾を飲んだ。


「俺、軍に戻る気ないんだよ」


 沈黙。ユウとアロンは真剣な顔で見つめ合っていた。十秒ほどたった頃だったか。


「え、私情?」


 間の抜けた声が路地裏に響いた。

題名を考えるのがめっちゃ難しいことに気付いてしまいました。ちょくちょく変えるかもしれない、です。

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