知りたい青年と知らない少女②
軍服を着たがたいの小さな男とそこそこ大きな男の二人が少女を挟んで歩いている。明らかに怪しいというのに、周りの人は気にも止めない。しかし少女にとってそんな事はどうでもよかった。上を見上げる。赤色に染まった「空」が広がっている。「太陽」が眩しくて、すぐに目を反らした。周りをキョロキョロと見てみる。「建物」がたくさん建っている。「人」がたくさん歩いている。今まで少女が実際に見たことがなかった「世界」がありふれていた。その事に少女は、大きな不安を持ってしまっていた。
『早く帰りたい』
歩いている内にこんなことまで考えるようになっていた。
「こっちに来て下さい」
「あっ」
グッと手を引っ張られ、少女は狭い通路に入ることになった。狭い通路は少し暗く、石の壁で囲まれているて、少女のよく知る「世界」に似ていた。少女はそこに入り少しだけ安心した。
『やっと帰れるのかな』
少し進んだ先で3人は足を止め、がたいの小さい男が少女の肩を掴み、険しい表情で言った。
「ミヤビ様。今日からあなたには一人で生きていってもらいます」
「……へ?」
突然の宣告に、ミヤビと呼ばれた少女は戸惑った。
「これはお金です。これを使ってしばらくは過ごしてください」
「え、ちょ、ちょっと」
少女はまた戸惑う。一人で生きていく? そんな事は考えたことがなかった。この世に生まれ、意識を持ちはじめてから十三年間外の世界を見ずに育ったのだから無理もないだろう。
「なんで、なの?」
「……すみません。これはお父様からの命令なのです」
お父様とはもちろん少女の父親のことだ。しかし少女はその父親にほとんど会ったことがない。と言っても、これが何を示しているのかはすぐに分かった。
「私は、捨てられるの?」
軍服の男は少しだけ間をとってから、小さく頷いた。
「嫌」
ミヤビの目から涙が溢れた。それを見た男も顔をうつ向かせた。
「帰りたい」
「ミヤビ様・・・」
男は何とか少女を安心させようとした。
「あーもうだるい茶番だな」
そう言ったのは、もう一人のがたいの大きい方の男だ。
「ほら、ちゃっちゃとそれ持って早く行け」
「ドラコ! これがこの子にとってどれだけ辛いことか分かって」
言い終わる前に、ドラコと呼ばれた男はがたいの小さな男の首を掴み壁にぶつけた。
「アロン!」
ミヤビは叫んだ。
「お前さ。なに神の災厄なんかに感情移入してんだよ?そういう正義面はいつもムカつくんだよ」
「ぐっ。ぎっ」
じたばた暴れるも、アロンと呼ばれた男は首から手を剥がすことができない。
「おい」
ドラコは今度はミヤビの方を向いた。
「陛下は甘っちょろいんだよ。自分の娘一人殺せないんだから。そしてこいつもな。お前みたいな化け物に変な感情を持ちやがった。だからよ」
ドラコの腕の力が大きくなる。
「う、ぐふぁっ」
「やめて! お願いやめて!」
「俺と全世界の人類の恨みを込めて今殺してやるよ」
右腕でアロンを掴んだまま、ドラコは左手をミヤビに向け、命力を貯めた。
「死ね」
右手から命術の“爆破弾”を放った。そのままいけば確実に命中。しかも距離は約3メートル。かわせる距離でもない。
『ああ、私は、死ぬんだ』
世界がスローモーションに見えた。もちろん体は動くはずもないが、無駄に頭は働いた。最後の最後、その寸前まで、世界を知らない少女の意思は変わらなかった。
『帰り、たかった』
ミヤビの意識は誰かに抱き止められる感覚を最後にプツリと途絶えた。
難しいです。「こんな話にしたい!」ってのはあって、ストーリーもある程度考えても、文にするのがホントに難しい。でも楽しい。頑張ります。打ちミス等は多目に見てください。気付き次第直します。