〔1〕
モーテルに着いた男達は、アキラの言葉に偽りがないか受付で確かめると一階にある五部屋のうち、一番奥のドアをノックした。
細く開けた隙間から外を伺い、アキラの姿を目にしたキリアンが一瞬驚いたように目を見開いた。が、笑顔で迎え入れようとして、それはたちまち驚愕の表情に変わる。
「ほう、これはかわいらしいお嬢さんだ。おまえが《リーダー》だな」
銃口を向けられ呆然と立ちつくすキリアンは、アキラを見つめ、すがるような小さな声で言った。
「ジェフ……は?」
アキラは項垂れる。
「察しがいいな。奴は今頃、冷たい土の下さ。ノーフォークで船に乗ったら、おまえも同じ所に行かせてやるよ。なぁに、海の中も土の中とかわりゃしない。さあ、お嬢さん。我々と来てもらおうか」
「いやっ……!」
「怪我はさせたくない、面倒だからな。おとなしく来るんだ!」
アキラに銃を向けていた仲間が、キリアンに歩み寄るとその手を掴む。
自分への注意がそれた、その一瞬の隙をアキラは逃さなかった。
素早い動作で、銃を持つ男の二の腕を左手で掴み、右手で手首をひねり上げる。そのまま後ろに回り込んでねじるように床に払い倒した。
「ぐっ…はっ!」
胸から叩き付けられて、男は苦しげな息を吐く。取り落とした銃を急いで拾い、アキラは倒れたままの男に向けた。
「キリアンを放せ!」
小柄な少年の反撃など、予想もしていなかった痩せぎすの男は一瞬意外そうな顔をした。だが口元を歪ませ、ゆっくりとアキラに歩み寄る。
「おまえに、銃が扱えるのか?」
「ちゃんと習った、動くと仲間の命はないぞ」
まるで小学生のような返事だと内心思ったが、目の前の男に意識を集中させる。
「カラテか? ジュードーか? 少しはやるようだが……」
「合気道だ」
「実践としては経験が足らないようだな、直ぐにとどめを刺さねば意味がないっ!」
あっ、と思う間もなく、中腰の姿勢から懐に飛び込んだ男は、両脇に手を添えただけでアキラを背中越しに投げ飛ばした。
宙を飛んだアキラは受け身の体勢を取る間もなく、ベッド脇のチェストに叩き付けられる。
「……っつ!」
背中の痛みをこらえて立ち上がると、銃を取り戻した男が嬉しそうに笑った。
「生憎だったな、形勢逆転とはいかなかったようだ。元気のいい子供は私も嫌いじゃないが、この先、下手に邪魔されると面倒だ。君とはここで別れるとしよう」
「ガキ扱いするな! 俺はこれでも十八だ!」
最後の虚勢に、痩せぎすの男は表情を変えた。
冷たい、無機質な目がアキラを見下ろす。
「そうか、それは悪かった……では遠慮はいらんな。相手が子供でないなら、私も気が楽だよ」
万策つきた。
ジェフ、俺はもう……キリアンを守れない。
アキラは覚悟して、キリアンを見た。まただ、また泣いている……とうとう一度も明るい笑顔を見られなかった。
アキラはキリアンから逸らした目を、男に向けた。
ばん、と、耳を裂く爆発音がした。
だが、それは銃声ではなかった。飛び散った窓ガラスと共に、黒い物体が飛び込んできたのだ。
「くそっ!」
もうもうと立ちこめる煙幕の中、忌々しく叫んで入り口に向き直った男は、自分に向けられた複数の銃口を目の当たりにして、ぎりっ、と歯噛みした。
「貴様に会えて嬉しいよ、マックス」
そう言って進み出た黒服の男に、アキラは小さく声を上げた。




