表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから妄想は止められない!  作者: 増田みりん
第1話 出会いは妄想と共に
1/12

#1



「キャー!! 神楽木様よ!!」

「いつ見ても素敵…」


 うっとりとした女子生徒の視線の先にいるのは、中性的な顔だちをした美形の男子生徒。

 彼の名は神楽木かぐらぎ悠斗ゆうと。桜丘学園の生徒会長を務めている。

 悠斗は甘めの顔立ちと、誰に対しても公平で穏やかで優しい性格で、男女問わずに慕われている。まさに生徒会長に相応しい人物だった。

 常に優しい笑みを浮かべている彼に憧れる女子生徒は数多にのぼり、彼が何かをするたびに色めき、悠斗の名を聞かない日は滅多にない。


 顔良し、性格よし、頭も良く、運動もでき、人望がある。まさに完璧と呼び名の高い彼だが、そんな彼にも重大な欠点があった。

 その欠点とは───姉依存症シスコン

 悠斗の姉である凛花は悠斗よりも学年が一つ上で、悠斗に似た容姿の美人で、なおかつ頭もすこぶる良かったため生徒会にも入り、前会長である飛鳥あすか冬磨とうまをこの学園の有名人である蓮見はすみ奏祐そうすけと共に支えた人物である。

 凛花は、世間一般の想像する〝お嬢様〟とはズレた人物であったらしい。しかしそれが新鮮だったのか、彼女は王子と呼ばれた人気者、東條とうじょうすばると蓮見奏祐に気に入られ、親友だった二人は彼女を巡って火花を散らしたこともあった。

 それから紆余曲折あり、東條昴は幼馴染の水無瀬みなせ美咲みくと婚約し、凛花は蓮見奏祐と婚約して、楽しい大学生活を送っているらしい。


 そんな凛花のことが悠斗は大好きで堪らないのだとか。しかも残念な事に本人にその自覚はない。

 悠斗の友人たちは事ある毎に凛花の話をされ、そのたびに生暖かい視線を悠斗に送っているのだが、悠斗はその事に気付いていないのか、はたまたは気付いているが気付いていないフリをしているのかは知らないが、素知らぬ顔で語り続けるという。

 それを知った女子は皆、そんなところも素敵…とうっとりと視線を送るか、そんなの関係ないと言い切るか、遠くから眺めるのが一番と思うかの3つに綺麗に分かれる。


 彼女───葛葉くずのはしおりは3つ目の部類に所属していた。つまり、遠くから眺める派である。

 栞は遠くからその姿を眺めるだけで充分満足していた。


(あぁ、悠斗様…! 今日も相変わらず素敵です…!)


 ほう…とため息をつきながら、遠くから悠斗を眺める。その視線はとてもうっとりとしたもので、まるで恋する乙女のよう。

 いや、この胸の高鳴りはまさに恋と呼ぶに相応しいもの。栞の視界から悠斗が消えるまで悠斗と眺め続けた。そして悠斗が消えるのと同時にポケットから小さなノートを取り出し───


(きっとこんな風に何気ない学園生活を過ごしているだけでも、悠斗様はとても切ない気持ちになっているのだわ。大好きなお姉様とほんの僅かな時間でも離れ離れになっているのだもの…! ああっ。なんて美味しい…! 次の更新はこれね!!)


 姉とのすれ違い、と降って来たネタを素早く小さなノートにメモする。そして一通りメモをし終わると満足げに息を吐き、ノートを取り出したポケットとは違うポケットからスマホを取り出し、とあるサイトを開く。

 そのサイトはこの学園のOBかOGによって開設されたもの。会員登録制で、会員になるためには生徒番号を入力しなければならず、この学園に在籍していなければ会員になれない。

 このサイトは文芸部の裏会報誌と呼べるものだ。主にこのサイトに掲載されているのは、神楽木姉弟の危ない話──いわゆる禁断愛というやつだ──である。少し前にこっそりと一部生徒の間に出回っていた会誌が謎の圧力により回収・破棄され、同じく謎の圧力により再び発行することも適わなかった。

 妄想だけが燻っていた文芸部員たちにそっと差し出された妄想を昇華する場所───それがこのサイトなのである。

 神楽木姉弟の他にも、男同士の熱い友情が恋愛に発展しているものや、はたまたその逆もほんの少しだけ存在するが、八割が神楽木姉弟の話が掲載されている。栞はその愛読者であり、その作者でもある。何を隠そう、栞は文芸部の一員なのだ。

 神楽木姉弟への溢れんばかりの愛を萌えに変換し、脳内で楽しく妄想したものを文章に叩き起こす。これが栞の密かな日課だ。


(本当に…あの二人のことを考えているだけでドキドキが止まらないわ。これが恋ってやつなのかしら!)


 ふふ、とひっそりで一人で笑いを零し、栞は他の部員が更新をしていないか確認をする。サイトの更新は部員ならば誰でも簡単に更新できるような仕組みになっており、栞は毎日更新がないかの確認を数回している。

 文芸部はそれなりな人数が在籍しているが中にはただ在籍しているだけ、という人も大勢おり、熱心に更新をしているのはごく一部。その一部の人のみで楽しく活動をしているのだ。もちろん、栞は熱心に活動している。これも萌えのためだ。

 

 栞は悠斗にお近づきになりたいとは思わない。ただ遠くから眺めて、妄想しているだけで十分幸せだった。




「私がヒロインだけど、その役は譲ります」で悠斗の話が読みたいという意見を以前聞いたので、書いてみました。

とりあえず、全8話です。前作のキャラも少し登場します。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ