神父様と少女
花のように舞い散る笑顔。
いつか、自分の目の前から消えてしまうんではないかと恐怖を抱いた。
その子は深い傷を負っている。
花のように美しい笑顔の裏に隠された闇は私しか知らない。
口封じをされているわけではないが。
このまま、私の者にしたい。
―――ゴーンゴーン―――
教会の鐘が鳴る。
「また今日も雨」
その時、血が壁についているのに気づいた。
「まったく…神の場所を汚すとは…」
壁についている血を落とそうとモップを持って来る。
『…助けて…もう…嫌っ…』
血を流しボロボロの服を着ていた。
やせ細った身体には傷がいくつも残っている。
「中に入って手当しますので」
身体を抱きあげて教会の中へと連れて行く。
傷まみれの身体は痛々しい。
「どうしてこんな事になったのです?」
目を見つめると涙が溜まっている。
もしかして、何者かに襲われた?
『…私…帰る場所がない…』
涙を流す姿はまるで幼い少女のよう。
「では、教会の寮に住みなさい」
『いいの…です…か?』
「はい。あと、治療が終わったら食事を用意しますので」
少女の目は輝いた。
まるで痛みから解放されたかのように。
少女の名前はマリンと言う。
この教会に来て1ヶ月は経っていた。
そして、街からの買い物が終わると言うセリフ。
『また、町人に告白されました…神様はどう思うんだろう?』
口癖のように毎回聞いた。
でも、憎めない。
傷が癒えてから笑うようになった姿は花のよう。
私は少女の存在に気づいてはいた。
堕落を選んだ天使だと言う事を。
背中の傷を見てしまった限り。
この秘密を少女が隠している限り、何も言わないから。
「今日は珍しく晴天だな」
『いつもは敬語なのに、敬語使ってない!』
笑顔を作りながら喋ってくる。
「たまにはいいんじゃないですかね」
頭を撫でると顔を赤くして笑う。
教会に来て悪魔に追われなくなったんだろうな。
私は人を愛してはいけない。
こんな契約の中で出会ってしまった少女。
不思議に胸が苦しかった。
『汚れしこの世の さざめきより 遥かに離れて 憩う我』
夕日がステンドグラスに反射する。
それと同時に聖歌が聞こえる。
「再び恐れを 持つことなし こはビュウラの 地なれば家は雲なき 大空の下 水は乾かぬ いのちの真清水。汚れしこの世を歌ってどうかしましたか?」
パイプオルガンが置いてある壁に目をやれば、翼のシルエット。
『…もしかして…見えるの?私の』
「しっかり見えてます」
『天使だよ?怖くないの?』
少女、いや、マリンは囁く。
夕方になると聞こえてくる聖歌。
パイプオルガンから降りると言う。
『…私ね…堕落を選んだ天使なんだよ…人間に恋をして…』
「堕落をするなんて神を裏切る行為をしましたね」
『神父様は怒りますよね…堕落をして人間になった私の事を』
やはり、マリンは天使だった。
あえて気づかない振りはしていたが今日はダメだ。
『神父様…好きです…天界から毎日眺めていました。神父になる人を愛してはいけない、人間も同じです』
私はマリンを抱きしめた。
マリンは動揺していたが。
「そうでしたか。前から知っていましたよ。マリン様が天使だと言う事を」
『なんでっ…!?』
「初めて会った時です。背中からの出血が多くて手当をしていたら羽が落ちて来ましたから」
大事そうに耳に付けている十字架のピアスも。
『あの時から…私は天界には戻りたくはないの…だって、心から好きになった人が居るんだもん』
今までに見た事もないような笑顔で笑った。
マリンは堕落を選んだ天使。
いわゆる、堕天使の立場。
私はマリンを抱きしめたまま、神に謝る。
(私は罪を犯しました。失格ですかね)
『汚れしこの世は、天界のパートナーが好きな聖歌でよく歌ってたの』
身体を離すとパイプオルガンの椅子に座る。
「さっきの話は忘れて歌おうか」
『はいっ!』
天使と言っても今は人間の少女。
私の者にしたい。
『汚れしこの世の さざめきより 遥かに離れて 憩う我再び恐れを 持つことなし こはビュウラの 地なれば』
「家は雲なき 大空の下 水は乾かぬ いのちの真清水糧は豊かに 天下るマナ ああビュウラ 我が地よ」
パイプオルガンの音が心地いい。
二人で聖歌を歌うと日が沈んでいく。
「歌が上手ですね」
『そうかなっ?』
顔を赤く染めて笑う。
ダメだ…。
気づけばマリンを壁に追い詰めていた。
マリンは動揺していたが笑顔を崩さない。
『神父様?』
「グレンって呼んでくれ…」
『グレン様?んっ…』
神を裏切ってまでする事か。
マリンは顔を赤くさせてジタバタしている。
まさか、このキスが運命を狂わせる事になるとは知らなかった。
マリンSide
神父様は優しかった。
私の傷を治してくれるし、寮と言う場所に住まわせてくれた。
美味しい食事も、優しい声も好きになる。
私が天使だと言う事も知らないで。
でも、天使と話した時に運命が狂うのは知っていたんだ。
パートナーが探して、人間界に居る。
『カイトっ!?』
『やっと見つけたぜ?何故、人間になる?悪魔に翼を譲った?』
カイトの目は笑っている。
怒っている事を現していた。
『嫌よ!天界には帰らない…』
『あの男が悪いのか…目を覚ませ。人間を好きになるなと言っただろ!』
すると、白い拳銃を取り出す。
『天界の神を裏切った罰で処刑する』
私の話を聞いてくれないだなんて。
パートナーだから怒ってるの?
なんで?
『っ!』
目を閉じて死を覚悟する。
マリンと誰かの話声がした。
気になり草原に行くと天使が立っている。
誰だ?
『天界の神を裏切った罰で処刑する』
拳銃をマリンに向ける天使。
その時、マリンを庇いたくて天使の前に飛び出した。
―――パァン―――
撃たれたんだな。
そのまま草原に倒れ込む。
『グレン神父様っ!?』
マリンが声を上げた。
「マリン様…」
『喋らないでよっ…なんで、なんで、私なんかを庇うの?私は殺されて当然なのに…ううっ』
『嘘だろ…!?人間を殺してしまったら俺は…』
天使が喋る。
「笑ってください…好き…でし…たよ…」
息ができなくなる。
死期がもうすぐ迫って来ているんだ。
『グレン神父様っ…私も好き…いや、愛しています』
泣きながら笑っている。
精いっぱいの笑顔なんだろうな。
そして私は死んだ。
マリンSide
『うわああああああああああああああああああああああああ!』
声にならない叫びをあげる。
すると身体に鈍い痛みが走る。
天使の翼が生えて来た。
『カイト…貴方は最低よ…だから…二人っきりにして』
私ってどうかしちゃったかな。
『グレン神父様っ…なんで…目を開けてよ…』
まだ温かい、グレン神父にキスを落とす。
『…私はどうなってもいい…また、巡り会えるなら…』
私は禁忌の呪文を唱えた。
『神の力、禁断の果実の孤独のごとし生き返らせ』
私の身体が消えて行く。
好きな人の体の傷が癒える。
『また会えたらいいわね』
私の存在は消えてしまった。
「っ…私はなんで…?」
覚えてない。
記憶が曖昧で。
草原から身を起こすと白い一枚の羽が落ちている。
「マリン…?」
徐々に記憶が失われて行く。
「…誰だ?」
まるで、長い夢から覚めたような気がした。
1年後
教会は今日も平和だった。
「汚れしこの世の さざめきより 遥かに離れて 憩う我再び恐れを 持つことなし こはビュウラの 地なれば…」
『あのっ…覚えて居てくれてますか?』
見覚えのある笑い方。
そして、声。
私は何かを忘れていたはずなのに記憶が蘇る。
1年前のあの日、私は死んだんだ。
天使の拳銃に撃たれて。
でも、生きている理由はこの子が助けてくれた?
「マリン様ですか?」
『はい。私…此処に来て…汚れしこの世を聴いたら記憶…が』
「お久しぶりです。そして、おかえりなさい」
『グレン神父様ぁ!』
マリンは抱き付いて泣いていた。
何故、1年もの間忘れていたんだろうか。
お互いに好意を寄せていた者なのに。
私はその日を境に神父を辞めた。
結ばれない結末は嫌だから。
マリンSide
昔、何があったのかは覚えてはない。
なのに、天界の神様はおっしゃった。
『貴方を転生して、人間にさせましょう。愛するお方の為にも』と。
当てもなく転生させられて、フラフラと街を歩く。
街外れに教会があると聞いて教会まで歩くと、汚れしこの世が聞こえた。
その瞬間、忘れていた記憶が蘇る。
『早く会いたいっ!』
あの場所には、愛した人が住んでいる!
1年ぐらいに会う神父様は変わってはいない。
私は嬉しかった。
「愛してます」
『私もよ…グレン様』
勢いあまって書いてしまった。
駄作であろう作品です。
神父様には強い憧れがあります。
独特の特徴を持つ人っていいですよね。
惹かれてしまう。
とくに、神父様、人狼、悪魔、死神、天使