頼れるぼでいがーど(?) 1
「ほ、本当に、他の人には見えてないんですか…?」
浮世さんの機嫌を損ねないよう、恐る恐る尋ねる僕
「なんじゃあ、坊主は心配性じゃのう。今どき儂らのようなものをまともに見ることができるようなものなどほとんどおらんよ。仮に見えたとしたら、その時はワシの愛らしい容姿の前にイチコロじゃな、ヒヒヒッ」
だ、ダメだ、何度聞いても暖簾に腕押しじゃないか。イチコロが物理的な意味にならない事を祈るしかなさそうだ…
浮世さんを伴っての登校。いつも通り代わり映えのしない景色だというのに、場違いな和装の少女を連れ歩いているというだけで、人の目が気になってしまい落ち着かない。うろうろとあたりを見回してばかりで挙動不審な僕だったが、すれ違う人々はその挙動不審さに怪訝な目を向けるものはいるものの、確かに浮世さんの方に目を向けた人は一人もいなかった。
「む、何やら不穏な気配を感じるのう…ふむ…しかし、まあ使えるかもしれんの…」
唐突にそんな事を言い出した浮世さん。何を言いたいのかを訪ねようと口を開く間に、ひょいとその場を駆け足で離れてしまった。
「ちょ、浮世さん…?どこに…」
慌てて、追いかける僕の目の前、路地の奥、曲がり角前の電柱の影に身を潜めるようにしながら浮世さんは、口に手をあて、静かに、とでも言いたげなモーションを取った。音を立てないようにしながら浮世さんの方に近づいていくと、浮世さんが口を耳元に寄せ、小さな声で囁いた。
「この角の路地を覗いてみい。あの服装、坊主の学友で間違いないかの?」
言われるままに路地の奥を覗いてみると、一人の中学生が、おそらく高校生のようにみえる学ランの
三人組に囲まれているのが見えた。まさか、古典的なカツアゲかなにかだろうか…?中学生の方は、僕と同じ制服を着ているように見えるが…。と、三人組の隙間から僅かにその中学生の顔が覗いた。知っている人物だ、とはいえ、それほど親しい人物というわけでもない。確か名前は、そう…進藤一心。隣のクラスに所属する男子生徒で、ある意味では僕と同じ、クラスの爪弾きものだ。見事な金髪に鋭い目つき、一見して中学生には見えない体躯の持ち主で、周囲から恐れられている。
「ーーーずかしくねえのかよ、ええ?」
と、件の進藤君が何かを言ったみたいだ。内容はよく聞き取れなかったが、挑発的な口調から察するに揉め事が起きているのは間違いなさそうだ。と、冷静に分析をしていると唐突に浮世さんが肩を叩く。
「ヒヒヒッ、中々見上げた性根の持ち主じゃのう。ほれ坊主、ボケっとみてないで割って入りにいかんかい」
「ええ!?」
浮世さんの唐突な提案に素っ頓狂な声を上げてしまう。
「何を、すっとぼけておるのじゃ、坊主ならまとめて相手しても勝てるじゃろうに」
本気でわけが分からない、という様な顔をする浮世さん。実際喧嘩には少し自信があったりしないことも無いのだけど…ってそうじゃなくて!
「いやいや、勝つとか負けるとかの問題じゃないでしょう!」
何を言っているんだ、と講義する僕をよそに、再び路地裏の方を指差す浮世さん。
「いや、ほれ、坊主がぼさっとしているから始まってしまったぞ。それに、あのままじゃあの見上げた根性の坊主が負けそうじゃぞ…というか、見た目の割に…ヒヒッ」
何故か少し笑いながら言う浮世さんの指す方を見ると、確かに乱闘が始まって…って
「進藤くん、弱っ!?」
その中学生場馴れした体格をまるで生かし切れずやられるがままになっていた進藤君の姿に思わず、大声を出してしまった僕。しまった、と思った時には既に遅く…。
「なんだテメェ…?このいきがってるガキのダチか何かかあ…?」
三人組はタコ殴りにしていた進藤くんのそばを離れると、僕の周りを取り囲み始めた。ああもう!浮世さんのせいで面倒な事に巻き込まれてしまった…
本小説は、毎日深夜2時に更新予定です