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衆人監視

 「お、おはよう………ど、どうして水越さんが僕の部屋に?」


 動揺を悟られないように、自分を落ち着かせながら、あたりまえの事を聞くようにして僕は水越さんに尋ねた。水越さんは、少し照れたような顔をしつつ口を開く。


 「その、実は昨日の段階で芳員君のお義母さんには許可を貰って、朝食を私に作らせてもらえることになっていたんです、それが出来たから起こしに来たんですけど、ぴったりなタイミングでしたね」


 そういって、僕に微笑みかける水越さんは大変魅力的なのだが、状況が状況なので、どちらかといえば恐怖が理由で胸が高鳴る。


 「そ、そうなんだ、僕も準備が出来次第居間に向かうから、水越さんは先に席についてて、待たせるのも悪いし」


 そういって水越さんを先に行かせようとした僕だったが、彼女は首をふってそれを断った。


 「いえ、私はここで芳員君の事を待ってます。私だけ先に食べても仕方ないですし、それに、芳員君の事を見てるほうが楽しいかな、って………」


 そういって少し頬を薄紅色に染める水越さん。


 「いやいや、着替えとかもあるから、先に行ってて貰ったほうがありがたいです!」


 そう言ってから、まだ名残惜しげにチラチラと流し目を向ける水越さんを強引な力技で、なんとか部屋の外へと追い出すことが出来た。

 流石にあれはおかしい。結局夢の中で、白装束の正体をつかむことは出来なかったけれど、明らかに水越さんは何か妖的な影響を受けているに違いない。そうだとするといろいろと説明がつくし、そうでなければ水越さんがちょっと愛の重いヤバメの人だという事になってしまう。普通数日で、異性の家で朝食を作るようになるだろうか、いや、なるまい。浮世さんは対策になる何かを取ってくるとは言っていたが、戻ってくるまでは一人でなんとかこの不味い状況を乗り越えるしか無い。ああ、早く戻ってきてくださいおねがいします浮世さん――ー

 水越さんの作る朝食を食べ終えた後―――彼女の作った朝食は大変美味しかった――ー僕等はいつものように学校へと向かったわけだが、その最中もまた水越さんの暴走は止まらなかった。右足に受けた呪いの影響で少し歩きづらかった僕の不自然な歩みを目ざとく見つけた水越さんは、歩行を手伝うという理由で、僕の腕を取り、お互いの腕をからめあう、俗に言う恋人つなぎを敢行したのだ。恋人つなぎでは、歩行の補助にはならないだろうと突っ込みたかったが、ヤブをつついて蛇を出しても困るので、黙ってされるがままにしていると、やはり注目を集めるのか周りからの視線が厳しい物になっていった。水越さんはまったく気にしていないようだったが、僕に向けて明らかに厳しい視線が降り注いでおり、中には、本当に洒落にならないレベルの殺気を感じさせるものまであり、なぜだか、左腕と右足の呪いの跡がより一層疼きだしたような気さえしたのだった。

 学校についてからも、酷いもので、むしろ知り合いが多く居る分、登校中よりも耐え難い視線にさらされる事になった。クラスメイトからの生暖かい、あるいは凍えきった視線はもとより、進藤くんに至ってはなにやら憐れむような顔をしてこちらを見つつ、常に一定の距離を保つように逃げる始末であった。平穏な日常よ早く戻って来てくださいおねがいします。

 その日の夜も案の定あの林の夢を見たのだが、何故か、白装束の振り下ろす金槌にはいつも以上に強い力が込められている様な気がした。そうして、そんな夢から覚めた朝のこと。


 「ヒヒッ、起きたか坊主、待たせたのう、ちょいと時間はかかったが良いものを借りてきたさね」


 そう言っていつものにやけ顔を見せる浮世さんの姿は神々しく後光が指しているかのようにさえみえた。

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