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あかなめっ! 〜ぼろぼろおばけとあかなめ少女〜  作者: 天浮橋 蛭子
ぼろぼろおばけとあかなめ少女
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ぼろぼろおばけ

 またあの日の夢を見た。僕が恋川さんに告白をして結果彼女を気絶させてしまうという、コントにしてもしまらない、実際にあった出来事の夢だ。


 僕、歌川芳員は生まれつきの代謝異常を患っている。先天性の代謝異常というと普通、代謝が悪く、汗などで体温調節が上手く出来なかったりするようなものを思い浮かべるとおもうのだが、僕の場合は違う。むしろ新陳代謝が普通の人より遥かに高く、少し日差しの下にいるだけで水たまりができるほどの汗をかいたり、肌をすこしこするだけでゴッソリと垢が出たりしてしまう。まあ、怪我の治りが早かったり、食べても食べても太らなかったりという利点もあったりはするのだけれど。代謝異常については地元の大学病院で何度か検査を受けたものの原因は不明。先天的な症状だったので、遺伝的な素養が関係しているかも、という話にもなったのだが、両親にはそんな症状は出ていないし、祖父母まで遡っても同じような体質の親族はいなかった。今でも定期的に病院で検査を受けているものの、もはや体質の一部として受け入れている。


 あの日、正確には1月程前。中学に上がった僕はそのことで少し浮き足立っていたのだと思う。調子にのって恋川さんに告白なんてしてしまうほどに。あの日告白の返事をもらうその瞬間、僕の顔が、正確には顔全体の皮膚だったもの、つまり垢がゴッソリと剥がれ落ちたのを見た恋川さんは、見事に気絶。彼女がその身をコンクリートの地面に打ち付ける前になんとか駆け寄り、崩れ落ちる身体を支えることは出来たものの、その後気絶した彼女を保健室に連れて行くところまでで精神がギブアップ。加えて、翌日から恋川さんはこちらを見るだけで怯えるようになってしまった。


 皮肉にもその告白の出来事で分かったことなのだが、僕の代謝は、精神状態にも強く依存するらしく、感情が高ぶった時ーーー例えば告白の最中などには更に活性化するらしく、それがあの異常な量の垢の排出につながったようだった。


 憧れの人の目の前で顔の垢をゴッソリと落とした経験のある男なんて、世界中探しても僕くらいでは無いだろうか。罪悪感と後悔に包まれしぶしぶと帰宅した僕だったが、どこから漏れたか翌日から「ぼろぼろおばけ」などという不名誉なアダ名が囁かれるようになった。垢がぼろぼろと落ちるから「ぼろぼろおばけ」。そんな風に呼ばれていることを知った僕が激情し暴れた事で、クラスメイトからは腫れ物扱いされるようになり、表立ってからかわれることこそなくなったが、裏ではアダ名で呼ばれ続けているようだったし、すっかり孤立を極めるようになってしまったのだった。


 ーーー朝のホームルームの開始を告げる鐘の音が聞こえた。10分間の読書タイムの後,担任から連絡事項を告げられる。最近、貧血気味の生徒が増えてるそうで、生活習慣には気をつけるようにという話だった。そういえば、ドラモンクエストの最新作が発売されたばかりだったし、大方夜ふかしが捗りすぎたのだろう。のんきなものだ、こちとら時々刻々と中学生活が暗黒に染まっていくのを感じているというのに…


 授業が終わり部活の時間がやってくる。自慢じゃないが、運動はできる方だと思う。小学生の時もクラスメイトに負けたことはなかったし、学校の代表になったこともある。特に何か一つの競技に入れ込むということもなかったけれど、大抵のことはやれば出来たし、中学に入ってはじめの部活動見学でも引っ張りだこだった。まあ、それも恋川さんへの告白が失敗するまでのことだったわけだけど。ぼろぼろおばけはきっと薄気味悪いのだ。あるいはアダ名を否定するために暴れたのが良くなかったのかもしれない。表立ってボロボロおばけを誘う人はいなくなっていた。体験入部期間が終わった今、僕は自動的に帰宅部へと割り当てられていたのだった。


 部活の準備に活気づく校庭を背に帰路へつくと、目の前の倉庫の影から恋川さんがこちらを見ていることに気がついた。目が合い、こちらが気がついた事に気がつくと、彼女はいそいそと影に隠れてしまった。なにも、そこまで怯えなくても良いのに…少し落ち込んだ僕だったが、気を取り直して下校することにしたのだった。


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