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あかなめっ! 〜ぼろぼろおばけとあかなめ少女〜  作者: 天浮橋 蛭子
ぼろぼろおばけとあかなめ少女
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決意

 「野衾を、探しに行きます」


 沈黙を切り裂いて、はじめに言葉を発したのは僕だ。


 「現状、野衾の存在を認識していて、かつ対処ができるのは僕、いや僕達だけだ。このまま放っておくわけにはいかない。浮世さん、僕に野衾を倒す方法を教えてくれませんか?」


 言い終わると僕は浮世さんの目を見つめる。すると、神妙な顔をしていた浮世さんの顔が徐々に崩れていき、その口を緩めると、堪え切れぬとばかりに笑い出した。


 「ヒヒヒヒヒヒッ!良いのう!そうじゃ、男子(おのこ)はそうでなくてはのう!良いぞ、教えてやるさね………といってもそう難しい話じゃあない。さっき奴は受肉している、といったろう?であれば話はシンプルじゃ」


 ニヤリ、といつもの意地の悪い笑顔を浮かべ、その視線を僕に投げかける浮世さん。さっきの浮世さんの話通りなら、もはや野衾は単なる危険なモモンガに他ならない、つまり。


 「この拳で殴り飛ばせばいいってことですね」


 「如何にも!」


 勢い良く両手を打ち付け立ち上がる浮世さん。病室の入り口までつかつかと歩いて行くと、こちらを振り向きドヤ顔で腰に手を当て、ポーズを決めた。


 「もし仮に奴の受肉が不完全であったり、あるいは何か想定外の事態が起きた時にはワシがフォローしてやるわい。じゃから、坊主は難しいことは考えず、ただその拳を振るえば良い」


 見た目には、幼女がカッコつけているようにしかみえないのだが、不思議とその立ち姿にはどんな困難だって容易に乗り越えることができそうな、そんな頼もしさが満ち溢れていた。


 「とはいえ、がむしゃらに探し歩いても野衾を見つけることができるとは思えぬ。現状こちらの手にある手がかりはそこの娘の目撃証言だけ、か………せめて範囲だけでも絞れればワシが野衾の気配を辿ることもできるかもしれんが………」


 そう言って、考えこんでしまった浮世さんを見ながら水越さんがおずおずと手を上げた。


 「あの、わたし実は気がついたことがあるんです。」


 「ほう、言ってみろ」


 「はい、実は私が襲われるより少し前の時点で既に一度野衾を見付けていたんです。その後一度野衾を見失って、その時襲われたわけなのですが、初めに野衾を見つけた時に、その、妙な動きをしていたんです」


 「妙な動き?」


 「ええ、野衾は以前見た時と同じように、襲う相手を探しているようでした。ところが、目の前に人が居るにも関わらず、野衾が人を襲わないことがあったんです。初めは、襲う相手を選んでいるのではないか、とも考えたのですが、どうやらある路地の先に居る人は襲わない、という事のようでした」


 「野衾が入れない路地があった、ってこと?」


 野衾が嫌うようなものでも置いてあったのだろうか?


 「そうです。でももし、野衾が入れない路地があったのではなく、ある地点を中心としたある範囲の中でしか、野衾が移動できず、私が見た野衾が入れない路地、というのが単にその円周上に接していた一部に過ぎないのだとしたら………」


 水越さんは既に2回、見失った後襲われたシーンを別に数えれば3回は野衾に遭遇している。そして、2回目の遭遇時には野衾が通ることの出来ない境界を発見している。つまり探索する必要のある範囲は、2回目に発見した境界を基準に、以前野衾を見かけた地点のある側だけに限定されるのか! 


 「野衾の出現範囲をある程度限定できる!」


 「ふむ、がむしゃらに探すよりはマシかの………して、その場所の地図など書けるかの?」


 浮世さんがそう尋ねると水越さんは自身のバッグを漁り始めた。


 「大丈夫です、携帯の地図アプリに画鋲をさして置いたので」


 水越さんはもう携帯をもってるのか。羨ましい。


 「ふむ、確証のある話ではないが、手がかりが他に無いのも確か。それに、妖の様な曖昧な存在が受肉するようなことが起きておるのじゃ、もし正解なら現場に行ってみればそれとわかるほどの力が感じられるかもしれぬ」


 そういった浮世さんを一瞥して僕は立ち上がる。


 「行こう、浮世さん。それじゃあ、水越さん行ってきます」


 「気をつけてください、芳員君」


 水越さんの声を背中で聞きながら僕は野衾を探しに病院を後にした。

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