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あかなめっ! 〜ぼろぼろおばけとあかなめ少女〜  作者: 天浮橋 蛭子
ぼろぼろおばけとあかなめ少女
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火を喰らい血を啜り空を駆ける

 浮き上がる、浮き上がる、浮き上がる…深い闇の中、どこか温かい微睡みの中にいた、あるいは混ざっていたそれは浮遊感を感じていた。浮き上がろうとする力とその反作用。身体にかかる重力の様な気だるさが、やがてそれに自身の輪郭を思い出させていった。


 ーーー野衾。

 それはようやく自身の名を思い出した。火を喰らい血を啜り空を駆ける、そうだそういうモノだった。闇より生まれ出で闇へと消え、そしてまた現し世へと浮かび上がってきた。野衾は酷い空腹に苛まれていた。それもただの空腹ではない、何もしなければ、自身の存在が次々とこぼれ落ち、そして滲み掻き消えてしまうのではないかという、強烈な孤独、寒さ、焦燥感を伴う疼きだった。欠けたものを補うように、穴のあいた樽に蓋をしようとするように、野衾は熱を求めた。鋭敏なその感覚が温度を捉えた。


 「………で…の…ドラモンクエストがさあ…」


 「………へえ…で、その………」


 温かさを感じた方を見やれば、人が二人楽しそうに会話をしているところが目についた。野衾は己が翼を持つことを思い出すと、その温度の元へと飛び出した。風をきり空を行く。曖昧だったその輪郭が更にはっきりしたものになっていく事を野衾は感じる。そして、温かい人間の顔に張り付くと、その命の流れを分けてもらおうと、吸血を始めた。それはとても素敵な感覚だった。その素敵な感覚を味わいたいと野衾は次から次へと人を襲うようになっていった。はじめは弱々しく、吹けば消えそうなほどだった野衾だったが、吸血を繰り返す度に、次第にその存在を強めるようになっていった。


 ーーーもっとだ、もっと沢山、この温かいものを分けてもらわなければならないーーー


 リスのようにもみえるその愛らしい見た目の化生が新たに獲物を見定めた。その目線の先には、眼鏡をかけたおとなしそうな女子中学生の姿があった。


 □□□


 浮世さんの強引な慰めで我に返った僕はその後、驚くほど穏やかな気持ちになりーーーこういうのを、つきものが落ちたような、と言うのだろうかーーーいつもどおり母親の用意してくれた夕食を食べると、ぐっすりと眠ることが出来た。浮世さんには感謝してもしきれない。翌朝になってから、水越さんに連絡一つ取ってなかった事に気がついたのは流石に慌てたけど………


 「学校についたらまず水越さんに謝らなくちゃ。昨日は置いて帰ってごめんって」


 野衾の調査をする、なんて意気揚々と出かけておきながら途中で取り乱して帰ってしまったのだ。残された水越さんには何がなんだか、という状況だろう。


 「ふむ、それが良いじゃろうな、というか坊主らは携帯電話、とかいう奴は持っておらんのか?」


 と尋ねる浮世さん。浮世さん、携帯電話も知ってるのか。


 「うーん、水越さんが持っているかは知らないけど、僕は持ってないな。両親が、高校に入るまで買ってくれないっていうから。クラスでも、持ってる人は多いんだけどね」


 今どき、携帯電話一つ持たせるのに、こんなに頑なな家庭も珍しいのではないだろうか。


 「携帯電話というやつは、図書館のような使い方もできるそうじゃしの。情報が容易く手に入る、というのは薬にもなるが、毒にもなるものじゃ。ある意味懸命な判断かもしれぬの」


 そういって納得したように頷く浮世さん。そんな取り留めのない話をしていると僕の通う学校へとたどり着いた。下駄箱を確認すると、昨日水越さんが使っていた下駄箱にはまだ上履きが入っており、彼女の不在を表していた。まだ、水越さんは来ていないようだし、謝罪のシミュレーション時間位はあるかもしれない。


 自身の席についてから、水越さんが来た時の為のシミュレーションをしていると、朝のホームルームの時間になってしまった。水越さんはまだ来ていないようだ。水越さん、もしかして今日は休みだったり………?


 「坊主の、昨日のあんまりにもあんまりな態度にショックをうけて引きこもってしまったかもしれんのう?」


 ニヤケ顔でからかうようにいう浮世さん。その冗談はかなり深く刺さるのでやめてほしい。


 がらり、とドアをあけて担任の先生が入ってきた。


 「みんな、聞いてくれ。今日はいつもどおり授業をやるが部活はなしだ。不審者が徘徊しているかもしれないそうだから、早い内に帰宅してもらう。帰るときはなるべく仲間内で固まって帰るように。ホームルームの内容は以上だ。それと芳員、おまえはちょっとホームルームの後こっちにこい」


 真剣な顔をした先生の思わぬ一言に、クラスが一瞬沈黙する。そして、部活が好きでないクラスメイトは、喜びの雄叫びを、部活に打ち込めているタイプのクラスメイトは悲しみの慟哭をあげた。水越さんは、まだ来ていない。それに、不審者………。僕は、嫌な予感を覚えながら、先生の元へと行く。


 「おう、芳員。お前が昨日水越と一緒に帰った、って話を聞いたんだけど、あってるか?」


 水越さん………?


 「先生、今日まだ水越さんが来てないみたいですけど、もしかして何かあったんですか………?」


 すると、先生は頭を掻きながら釈然としない顔で言った。


 「先生にも詳しいことはまだ分かって無いんだが、水越は昨日道で倒れているところを発見され救急搬送された。今もまだ意識は戻っていないそうだ」

ちょっと登場人物の容姿についての描写が薄くて困ったので、推敲版を出すときはその辺を強化しようと思いました。

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