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あかなめっ! 〜ぼろぼろおばけとあかなめ少女〜  作者: 天浮橋 蛭子
ぼろぼろおばけとあかなめ少女
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野衾

 「見えない…?たまたま、見つけたのが水越さんだけだった、ということではなく?」


 普通に考えれば、見えないムササビの存在より、水越さんのムササビ発見技術が特別秀でていると考えたほうがまだ現実的だ。


 「はい。というのもそのムササビ、通行人の顔めがけて飛んでいくんです。紙飛行機みたいに滑空しながら道行く人の顔に張り付いて、しばらく居座ったかと思えば電柱にもどり、また次に張り付く人を待ち構える、と言った風にです。普通、顔にムササビが張り付いてきたら驚くと思うのですが、通行人は誰も気が付かず、何事もなかったかのように顔にムササビを貼り付けたまま歩いて行くんです」


 神妙な顔でそう告げる水越さん。


 「中々にシュールな光景ですね…」


 その光景を想像した僕はそんな感想を返すことしか出来なかった。


 「ふむ、それはもしかすると野衾(のぶすま)という妖怪やもしれんな」


 そうこぼした浮世さん。


 「野衾…ですか?」


 聞いたことがない、といった風の水越さん。僕も聞いたことがない。


 「そうじゃ、野衾は江戸の辺りに伝わる妖で、動物のムササビやモモンガのような姿をしていると言われておる。まあ、コウモリが化けたものとも言われておるがな。その由来からか、生き物の血を吸うという性質も持っておる。おそらくその顔に張り付いていた、というのは張り付いたものの顔から血を吸っておったのだろうな」


 「血を吸う…?」


 何かが引っ掛かった。


 「どうした坊主、血を吸うと聞いて怖くなったか。なあに、安心せい。さっきその娘も人は気付いておらんかったと言っておったじゃろ。今の世は妖の類には少し生きづらくてな。ワシのような有名な妖ならともかく野衾のような知名度の低い妖は人に影響を及ぼせるほどの力は有しておらぬわ」


 「妖怪の力はその、知名度で決まるんですか…?」


 質問をしたのは水越さんだ。


 「そうじゃ、わしらのようなものは…いや、この世界のあらゆる存在は本来極めて不確かなものでな。わしら妖はその中でも特別不確かな存在、何者も存在しない暗闇を人という極めて確かな観測者が言葉や認識の力で切り分けることで世界が生まれた。その時その世界の範囲から零れた、いうなれば人の世界の補集合、そこに属するのがわしらじゃ。」


 浮世さんの話は時々すごく難しい。今の話だって大体しか意味が分からない。けれどなんとなく…彼女がどこか寂しそうな顔をしていることにだけは気付いた。


 「人がその認識を広げ、世界に、現象に名前をつけていく度にワシらは薄まっていく…皮肉なことにの、わしらが生まれたのは人が世界を切り分けたからに他ならない、だというのに、ワシらが薄れていくのもまた人が世界を切り分ける為なのじゃよ」


 「少し話が逸れたの。娘の言うとおりワシらの力、あるいは世界への影響力とでも言うか。これは知名度によって決まる。今の世の中で妖に詳しいものなど一部の民俗学者と変わり者くらいじゃろうからの、あかなめならともかく野衾なぞが大した力を持つはずがないのじゃ」


 血を吸うというと、しわしわのミイラのようになってしまうイメージが沸いてくるが、影響力が弱まっているのだとすれば、どうなるのだろうか…貧血、とか?


 「…そうか、思い出した!それで貧血なのか!」


 突然大声を上げた僕に、怪訝そうな目を向ける水越さんと浮世さん。


 「思い出したんだ、そう言えばここ最近貧血の人が増えてるって、以前先生にホームルームで注意されたのを!元々血を吸う恐ろしい妖怪だったのが、その力が弱まった結果貧血を起こして回ってるんじゃないかな?」


 僕の名推理に、なるほど、という感じの顔をした水越さんとは対照的に浮世さんはますます怪訝そうな顔を深めた。


 「いや、それはおかしい。野衾が人の血を吸う、と言ってもそれは吸うこともある、程度の事で人間を死に至らしめるような吸血はせぬわ。それが更に弱まったのだとすれば、もはや貧血のような具体的な身体症状を引き起こせるほどの力など残っているはずも無いのじゃ…」


 そういえば、血を吸い殺すなんてことは一言も言っていなかったか。


 「それじゃあ、貧血が増えてる件はやっぱり野衾とは関係がないのかな?」


 推理がハズレ、少しがっかりした僕。


 「いや、これは単なる感なんじゃが、何か嫌な感じがするのう。ちょっと、わしらで調べてみようじゃないか」

いつも読んでくださる方々ありがとう御座います。

継続して読んでくれる方がいるというのは書き続けるモチベーションになります。

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