8 生産ギルド
生産ギルドが近そうなので次は生産講習を受けることにする。
「ラピスはそのままの姿でも大丈夫なの?」
ラピスは大きくなったまま私の隣にいる。ラピスが少し考えるとコクンとうなづいた。たぶん何か条件か何かがありそうだけど、話せないので詳しいのことは分からない。
精霊と話すためにはプレイヤーが【テレパシー】をとるか、精霊が【言語】をとるしかないらしい。どちらもまだ詳しい取得条件は分かっていないらしいけど、とりあえず親密度をあげるのが第一条件らしい。せっかくだから早く話せるといいなあ。
移動しようにも人が多いので、このままではラピスとはぐれてしまうと思った私はラピスの手をとった。手をつなぐとラピスはびっくりしたようだが、振りほどかれなかったのでそのまま歩き出す。恥ずかしそうに、少しうつむき加減になりながらもついてくる。
かなり可愛い! 思わずぎゅっとしたくなるが、道のど真ん中なので、それは自重する。
道を歩いていると、なんだか視線を感じたが無視して生産ギルドにまっすぐ向かう。またさっきの噴水前で会ったような人たちに声をかけられたりしたくなかったので、出来るだけキョロキョロとせずに堂々と歩く。
今度は無事に何事もなく生産ギルドに着くことが出来た。生産ギルドは冒険者ギルドに比べると人は少なかった。生産スキルを持ってない人は来ないもんね。
「初めての方ですね。こちらへどうぞ」
すぐにカウンターに案内してもらえる。
「生産ギルドに登録でよろしいでしょうか?」
「はい。あの、ここでは何ができるんですか?」
「こちらでは主に生産スペースの貸し出しや、生産するのに必要な道具の販売を行っています。また、生産された品の売買の仲介もしております」
「売買の仲介ですか?」
「はい。あちらの掲示板にはこんなものを売りますとか、こんな性能のものを買いたいなどの依頼が出ています。もし希望の依頼がありましたらこちらのカウンターにお持ち下さい。依頼を受けるのには登録が必要ですが、依頼を出すのには登録は必要ではないので、結構たくさんの依頼がありますよ」
なるほど。作ったもの売るのにいいかも。
「ではこちらに手を置いてください」
冒険者ギルドでも見た水晶を差し出される。手を置くとピカッと光った。
「はい、リーフ様ですね。登録が完了しました」
ステータスを確認すると、確かに『生産ギルドランク ☆』と増えていた。
「ランクは依頼を受けたり、生産スペースを多く使ったりすることで上がります。ランクが上がると依頼を出すときの手数料が安くなったり、買える道具が増えたりしますから、頑張って上げてください」
道具はどんなものが買えるんだろう?
「このまま生産講習は受けていきますか?」
「はい。あの、私今材料も道具も持ってないのですが大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。登録した直後の講習は優遇されていますから」
つまりチュートリアル中だから問題ないということ?
「分かりました。お願いします」
「講習をうけるスキルは何ですか?」
「【調薬】です」
「分かりました。キキさーん」
受付のお姉さんは後ろを向くと奥のほうに声をかけた。
「はーい」
するとショートカットのスラッとしたお姉さんが出てきた。
「こちらのリーフ様の【調薬】の生産講習をお願いします」
「分かりました。担当させていただくキキです」
「リーフです。よろしくお願いします」
「では、こちらにどうぞ」
1つの部屋に案内される。
大きな作業台に、棚がおいてあり、水道やコンロなどがついている。奥には小型の炉もついているみたい。
「こちらは生産スペースの個室(小)です。生産スペースにはほかに個室(大)と大部屋があります。大部屋は一応ブースに分かれていますが、他の人から見られることもありますので、作るものや予算に合わせて場所はお選びください」
「はい」
個室のほうが人目を気にしなくていい分、楽だよね? でもその分お高くなるのかあ。あとで大部屋もどんな感じか見てみないと。
「講習をうけるのは【調薬】で間違いありませんね?」
「はい」
「では、こちらをどうぞ。初回講習のプレゼントです」
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・初心者用調薬セット
調薬に必要な最低限の道具たちのセット
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良かった。道具も貰えるみたい。
「ありがとうございます」
「それでは、それを使ってやってみましょう」
「あ、ちょっと待ってください。ラピスはどうする? 私がやっている間、暇なら指輪に戻る?」
部屋の中をキョロキョロしていたラピスに話しかける。ラピスが見た目どおりの小さな子なら、暇を持て余しちゃうかと思ったからだ。
しかし、ラピスは首をふると、椅子を私の横辺りに持ってきて座り込んだ。どうやら作業を見ているつもりらしい。
「もし、飽きちゃったら教えてね」
ラピスはコクンと頷いた。
「可愛らしい弟さんですね」
「いえ、ラピスは精霊なんです」
「あら、そうなんですね。じゃあ、もしかして生産補助のスキルをお持ちですか?」
「まだ持っていなくて、攻撃スキルだけなんです」
「そうですか。でもお手伝いをさせることでスキルを取得出来るようになりやすいですよ。彼は【人間化】のスキルを持っているみたいですから、すぐに取得できそうですね」
へ~、お手伝いするといいんだ。ラピスを見ると腕捲りをして、やる気満々のよう。今日は講習なので、今度から手伝ってもらおう。
「では、始めますね」
「はい、お願いします」
「今回はポーションを作ります。これをどうぞ」
キキさんは一枚の紙を取り出した。ポーションと書かれている紙を受けとると紙は光になってしまった。
「これはレシピというものです。メニューの調薬の欄にレシピという項目が増えているはずです」
確認すると、確かに増えている。ポーションの作り方が書かれているようだ。
「この手順どおりにつくれば出来上がります。もちろんレシピにないものを作り上げたり、アレンジすることは可能です。記録することが出来ますので、どんどん試してみてください」
「レシピはどこで手にはいるんですか?」
「いろいろなところで手に入れる機会があるかと思います。依頼の報酬でもらえたり、本屋で購入したりですね」
「本屋かあ……」
レシピを増やすにもお金がかかりそう。
「では、実際に作ってみましょう。薬草はこちらをお使いください」
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・薬草 C
普通の薬草。ポーション作成用
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キキさんに渡された薬草を使い、レシピを見ながら作ってみる。
薬草を乳鉢の中で潰し、水を入れ、鍋に移して加熱。そしてそれを濾す。
出来たのは、緑色の液体である。
「こちらの瓶に入れてください。瓶は普段道具屋で販売されていますよ」
キキさんに差し出された瓶に液体をいれる。
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・ポーション D
HPを10回復させる
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わあ、初ポーションできた!
品質はA~Eで表される。Eが一番悪くて、Aが一番良い。噂によると本当はSもあるという噂もあるみたいだけど、どうなんだろう?
お店のポーションがCのはずだからDはあまり良くないけど、初めての生産に嬉しくなる。
ラピスにも見せると、彼はポーションの瓶をツンツンとしていた。興味があるのか、不思議そうな顔をしながらまじまじと見つめている。
よし、ここから良くするように頑張らなきゃ。
「成功しましたね。初めてで品質Dは素質があると思いますよ。品質をよくするには、材料の品質をあげるか、1つ1つの工程を丁寧に最適化することで品質が上がることがあります。また、レシピにはないものを混ぜることで思いがけない効果が表れる場合があります」
「はい」
「では出来上がったポーションは持ち帰ってもらっていいですよ」
リングのなかに収納する。
「では、講習はこれで終わりです。何か生産するのに困ったことがありましたら、声をかけてください」
「ありがとうございました」
私は材料を持っていなかったので、ラピスと一緒に生産ギルドを出た。
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チュートリアルクエスト
以下の6つの条件を満たすことでクリアとなります。
・道具屋でアイテムを購入する
・アイテムを使用する 《OK》
・モンスターを3体討伐する
・冒険者ギルドに登録する→戦闘訓練をうける 《OK》
・生産ギルドに登録する→生産講座をうける 《OK》
・いづれかのギルドで依頼を受け、達成する
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