5 初はじまりの街
光がおさまるといつの間にか外に立っていた。
青い空、茶色い土の地面に見たことのない建物たち、そしてたくさんの人が行き交っている。
ここがゲームの中の始まりの街なんだってことは頭では分かっているけど、一瞬理解できない。肌にあたる風も鼻をくすぐる匂いもあまりにリアルで、ここがゲームの世界だってことが信じられない。だけど、目の前を歩く人たちのカラフルな髪の色に平然と武器を持って歩いている姿を見ては現実とも思えない。
「本当にすごいゲームなんだねえ……」
グルリと周りを見渡す。中世ヨーロッパのような石造りの建物が並んでいる。後ろには大きな噴水があった。噴水を覗きこむと、そこには緑色の長い髪に、見覚えのある顔が映る。間違いなく私もこの世界の住人になっているみたい。
「えーっと、どうしたらいいんだろう……?」
この場所には次々と光の珠から人が現れてくる。私と同じようにビックリしたり、キョロキョロしたりしている。みんな私と同じ初ログインの人たちなんだろうな。追加発売は昨日だったので、昨日よりはマシなんだろうけど、今も結構な混み具合である。
「とりあえず、人の邪魔にならない端のほうに移動しなきゃ……」
少し動くと、マップに青い印がついていることに気付いた。青い印に注目すると道具屋と書かれている。
「そうだったチュートリアル。アリスさんが印のところに行けばいいって言ってたよね」
道具屋はこの場所から近そうだし、とりあえず行ってみようとクルリと向きを変える。歩き出そうとしたところで声をかけられた。
「ねえ、そこの緑色の髪の子」
「?」
声をかけられた方を向くと二人の男の人がいた。
「君、今日からSFO始めたんだよね? どう、一緒にやらない?」
青い髪に槍を持った男の人が話し掛けてきた。どうやら私に話し掛けているので間違いないなさそう。
「俺たち第1陣だから、いろいろと教えてあげられるよ」
立派な鎧に高そうな剣を下げた銀髪の男の人がニッコリと笑いながら言った。
パーティーメンバーもしくはクラウンメンバーの勧誘というやつなのかな? 茜からクラウン設立のために人数が必要らしくて、いろんなパーティーが新規プレイヤーの囲い混みをしようとしているということは聞いている。これがそうなのかな?
でも、見ず知らずの人と急には一緒に出来ないよね。茜とも約束しているし……
「あの、私これからチュートリアルなので……」
「チュートリアルくらい一緒にまわってあげるよ。モンスターも一緒に倒せばすぐに終わるしね。」
彼らの視線がなぜか顔から胸へとチラチラしている。
あ、これアウト。ただのナンパだよね?
自然を装っているみたいだけど、分かるから。というか、視線の動きまで表現しているこのゲームがすごいね。
ただのナンパならすぐに離れたい。
「いえ、のんびりと自分のペースでやるつもりなので結構です」
「ええー、そんなこと言わないで。一人だと寂しいよ」
「そうだよ。フレンド登録だけでも、どう?」
断っているのに、なんだかグイグイ近付いてくる。
ヤバい、気持ち悪いかも。
この人たちの顔、一見カッコいいんだけど、不気味なアンドロイド顔だ。かなりいじったんだね。私も最初やっちゃったけど、そのままプレイするなんて。近付いてきたら、違和感がありすぎて生理的に無理!
強引だしフレンドにもなりたくない。
「ご、ごめんなさい。私すでに一緒にプレイする約束している人がいるので……」
私はズリズリと後退る。
あまり顔近付けないで欲しい。夢に出てきそうな不気味さなんだもん。
「そんなこと言わないで。お友達も一緒にいいからさ」
「ごめんなさいっ!」
手を掴まれそうになった瞬間、私は走り出した。
「あ、待って!」
二人も追い掛けようとしてくる。
これマズイ?
「とりあえず、【ダッシュ】するしかない!」
そう言った途端、グンと走りが速くなる。体が軽くなって、人を避けながら走っているのにすごいスピードで進み続けている。
ある程度、角を曲がって大通りにでたところで足を止め振り返った。
「はあ、良かった、追いかけてきてない……」
通りの端によってひとつため息をつくと壁に寄りかかった。結構走ったはずなのに、息も乱れてないし、足の疲れもない。現実の私ではヘトヘトになっていそうなのに、さすがゲームの中である。だけど、なんだか精神的に一気に疲れた。
「もうログアウトしようかな?」
チラリと時間を見れば、まだ始めてから1時間も経っていない。
「さすがにもう少し頑張んなきゃ。」
初回から挫折するわけにはいかない。目標は、茜が帰ってくるまでにチュートリアルを終わらせることだったはず!
グッと手を握り、どうにか自分に気合いをいれる。
マップを確認すれば、道具屋とは違うあたりに来ていたみたいだった。この近くにある青い印は冒険者ギルドとなっている。
「とりあえず、 ここへ行ってみよう」
私は冒険者ギルドへ向かうことにした。
歩き出そうとして、視界の上に表示されているMPバーが少し減っていることに気付いた。
「あれ? なんで?」
確かにさっきまではHP、MP共にどちらも満タンだったはず。特に戦ってもないのに、減るなんてどうしてだろう? さっきからしたことと言えば走ることだけど……走るとMPが減るの? 体力じゃなくて? 私は首を傾げた。
「分からないことは、後で茜にきいてみようっと」
私は冒険者ギルドに向かった。