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21 茜からのお誘い

夕飯のためにリビングに向かうと茜が先にイスに座っていた。


「あ、お姉ちゃん来た来た」


「あら、じゃあすぐにお味噌汁用意するからね」


「うん、ありがとう」


今日の夕飯はお母さんが作ってくれたので、大人しくイスに座る。


「お姉ちゃん、やっぱりハマったでしょ? 今日ずっとログインしていたみたいじゃん」


「うーん、そうだね。今日はかなりの時間ログインしてるね。でもよく知ってるね?」


「そりゃあフレンド登録しているからね。相手がログインしている時は色が変わるから分かるよ」


「そうなんだ。知らなかったなあ」


フレンド欄のところなんてほとんど見てないから、色が変わるなんて知らなかったよ。


「そんなにログインしてたってことは、緊急クエストのためだよね? クリアできた?」


「うん、Cのポーション20個は出来たよ。ポーションはBまでなら作れるようになったしね。だけど、ポーションの次はMPポーションの緊急クエスト受けちゃって」


「あはは、見事にスタートダッシュキャンペーンのおかげで順調だね~」


「スタートダッシュキャンペーン?」


「ん? お姉ちゃん、公式の案内見てないの?」


公式の案内?

私は首を傾げた。


「第2陣で始めた人たちは今日から1週間は経験値アップ、ドロップ品のレア率アップ、あと取得可能スキルが増えやすかったり、レシピが手に入りやすかったりするらしいよ」


「へ~。だから緊急クエストが連続して出てきたんだね」


「たぶんそうだと思うよ。報酬がレシピとかスキルとかじゃなかった?」


「うん、【調薬】のレシピだったよ」


「やっぱり生産系にも影響してるんだね」


「私じゃ普段との違いが分からないけど、クエストってこんなに連続してでてこないものなの?」


「うーん、クエストによっては連続して出てくるものもあるよ。クエストの発生条件が特定のクエストをクリアするとかで、繋がっているものもあるからね」


「じゃあ、やっぱり今やっているクエストもまだ続けてでてくるのかなあ? なんだかやることいっぱいで忙しいよ」


「そんなに忙しいの?」


「緊急クエストで時間制限があるからね。材料足りなくて採取しにいかなきゃいけないし……。本当は買い物したり、料理のほうもいろいろと試したりしたいんだけどね」


「確かにやり始めはいろいろと行きたいところとか試してみたいこととかたくさんあるもんね~。採取しに行ったんだ。ちゃんと戦闘出来た?」


「一応出来たのかな?」


「なんで疑問形なの?」


「ん~、ラピスがほとんどやっつけてくれたの。私も魔法撃とうとしたけど、なんだかラピスの邪魔になるみたいで、ほとんど採取に集中してた」


「あはは、ラピスくんすごいね。確かにラピスくんならあの辺りくらいは大丈夫かな?」


「そうなの?」


「もう少し北東に移動するとエリアボスの縄張りになるんだけどね。あの辺りなら普通の初心者用フィールドの範囲内じゃない?」


「北東……?」


私、今日の採取ではどのあたりに移動してたっけ?

昨日採取したところはまだ薬草が生えていなかったから、ちょっと場所ずらして始めて……草が生えてるところを目についた順に適当に移動していたから意識してなかったなあ。


「もしかしてお姉ちゃん行ったの?」


「いや、……行ってないとは思うよ。ただかなりの広い範囲で採取してたから……あまり気にしてなかったというか……」


「お姉ちゃん……」


茜が明らかに呆れた顔でこちらを見ている。


「一応エリアボスの縄張りには目印になるものがあるんだけどね。お姉ちゃんのことだから地面しか見てなさそうだよね。目印があっても気付かなかったのか、本当にそこまでは踏み込んで行かなかったのか」


「たぶん、なかったよ? 採取終わったとき一応周りを見渡したけど、変わったものなんてなかったし?」


私はそこまでうっかりなんてしていない。ちゃんとエリアボスの情報はサイトで見たことがあるし。


「なら、良かったよ。お姉ちゃんなら準備せずにエリアボスに遭遇して殺られそうだもん」


うん、その言葉は否定できない。エリアボスなんてもっと遠い場所にあると思って気にしてなかったし。というか準備していても勝てるとは思えない。ラピスなら大丈夫なのかな? いや、さすがにエリアボスをラピス一人に任せるわけにはいかないよね?


「エリアボスからって逃げられないの?」


「初遭遇はまあ、無理じゃない? エリアボスと戦いたくないなら目印の内側に入らないのが一番だし」


「気付かずに入っちゃったら?」


「そりゃあ、エリアボスに見つかる前に出ればいいんじゃない?」


うん、まあ、普通そうだよね。だけど私の場合、茜の言うとおり下しか見てないから無理! それが出来るなら内側に入ることもないよ……。ラピス目印見つけたら教えてくれるかな?


「分かった。お姉ちゃん、あそこのエリアボス一緒に倒しに行こう!」


「え?」


「エリアボスを倒さないと次の街に行けないんだよね。でも一度討伐すれば、素通りできるようにもなるんだよ。だから私が一緒に行って一度討伐しちゃえば、お姉ちゃんが採取中にうっかりエリアボスの縄張りに入っても戦わずに通り抜けることができるよ」


「ん?」


「ということで、この後……は夜になるから、お姉ちゃんには無理だよね。じゃあ、明日の午後からにしよう! ちょうどパーティメンバーも明日は新人勧誘で始まりの街にいるはずだから手伝ってくれるだろうし!」


「え? あ、明日?」


茜の思いつきについていけない。ゲームのことになると無茶苦茶なんだから。


「お姉ちゃん受けたクエストも明日なら終わってるでしょ? こういうのはさっさと終わらせておいたほうがいいよ」


「いや、私昨日始めたばかりでまだエリアボスに挑むつもりないんだけど。もっとレベル上げて慣れてきてからでも……」


「採取にまだまだ行くでしょ? お姉ちゃんのことだから採取に夢中で気付いたらってことになるもん。さっさとやっておこう!」


「いや、私も気を付けておくし、ラピスにもお願いしておけば……」


「いーの、いーの。東門側のエリアボスだけだよ。西門側のエリアボスは慣れたら行くことにして、よく使う東門側は倒しといて損はないって!」


「そりゃあ、損ではないけど心の準備というか装備とかの準備というか、そういうのがあるでしょ?」


「だーいじょうぶ! 最初のエリアボスだし、私が一緒だから準備なんていらないよ。お姉ちゃんは昨日みたいに魔法撃てるときに撃つだけだから」


「いや、それでもボスだし……。来週とか再来週でも構わないんじゃない?」


「それじゃあ、スタートダッシュキャンペーン終わっちゃうじゃん!」


「え?」


「キャンペーン中は私たちも始めたばかりの人とパーティ組むと経験値アップ出来るんだよ」


なるほど茜が強引なわけが分かった。

たぶんエリアボスと戦うときとか強い敵などで困っているときには元々助けてくれるつもりだったんだと思う。

だけど、スタートダッシュキャンペーンがあるからどうせならその間に私とパーティを組んで、直近困りそうな敵は倒してしまおうということらしい。

攻略組であろう茜なりの優しさなんだと思う。


「分かった。だけど私、昨日から全然変わってないからね。進歩してないからね」


「うんうん、分かっているって! お姉ちゃんがゲームを1日やったくらいで劇的に強くなってるほうがびっくりするよ」


茜はニコニコと笑いながら頷く。これって悪気なく貶されてないかな?


「あらあら、若葉も茜と一緒にゲームしてるの?」


お母さんが味噌汁を持ってきて、テーブルに一緒に座った。

いただきますとみんなで食べ始める。


「うん、お父さんが私の分のVRの機械買ってくれたの」


「ああ、この前帰って来たときそんな話してたわね。お父さんも一緒にやるとかなんとか」


「それはさすがに止めたから」


茜がげんなりとした様子で答える。


「あら、どうして? 昔はよくお父さんとゲームしていたじゃない」


「VRと昔のテレビゲームは全然違うんだよ。お父さんは仕事も忙しいしゲームしてる暇なんてないよ」


機械音痴で私たちが小さいときもテレビゲームをまったくしていなかったお母さんには違いを説明しにくい。茜はそんな言葉で誤魔化す。


「でも、すごくリアルなんでしょ? 本当の世界みたいに見えるし触れるって前にテレビで見たわよ」


「そうだね。私も昨日からやってみて、びっくりしたよ。匂いも味も感じるだよ」


「あら、それはすごいわね。若葉もやっているならお母さんもやろうかしら?」


お母さんの言葉に思わず茜と目を合わせて止まってしまう。


「お母さんにはこのゲーム向いてないよ。やるならもっとのんびりしたゲームを茜が探してくれるって」


茜が必死に首を縦にふる。


「そう? でもそのゲームなら、遠くに住んでても気軽に会えるんでしょ?」


「いや、そんな気軽でもないよ。ゲームの世界も広いからね。例えば私が今いる街にお姉ちゃんが来ようとすると数ヶ月はかかると思うよ」


「あら、そんなにかかるの? 現実よりも時間がかかるのね」


茜がどの街にいるのか私は知らないけど、確かに私のゲームのペースでは茜のいるような街にはなかなか着かないだろう。いそいで攻略する気もないしね。だけど、茜が私のいる街に来るのは簡単である。というか昨日ゲーム内で会ったしね。

だけどゲームをしないお母さんはそんなことは分からない。現実には転移なんてものはないからねえ。


「そうそう。だからお父さんもゲーム一緒にやるのやめたんだよ」


「そうなの。残念ね」


お母さんがSFOを始めるなんて言わなくて良かった。お父さんに引き続き、ゲームを全然やらないお母さんまで興味を持つなんてSFO恐るべし。

私と茜は、その後お母さんの前ではSFOの話はしないように気を付けてご飯を食べた。



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