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19 一人(+ラピス)での初採取

「ラピス、小さくなってくれる?」


私は東門の辺りに行くとラピスにそう言った。

ラピスは首を傾げて私を不思議そうに見ている。

今からモンスターを倒す気満々なのに、どうしてといった風な顔をしている。


「とりあえず、あの場所までは【ダッシュ】で行こうと思うから。私が【ダッシュ】使うと、ラピス一緒について来ること出来ないでしょ? 小さくなって肩に乗っていてくれればいいと思って」


ラピスはぶーっと頬を膨らませて不満気な表情をしている。


「ラピスが戦いたいのは分かってるよ。だけど、行くまでは出来るだけ敵を避けて行こうと思って。今回の目的は採取だからね。たくさん採取できるように早めに行こうと思うの」


理由を説明してもラピスの何か言いたそうな顔はなおらない。


「ラピスが強いことは分かってるよ。私が採取している間は見張りお願いね。頼りにしてるんだから」


すると、ラピスは任せておけとばかりに胸を張り、エッヘンと機嫌を直した。

そして、あっという間に小さな妖精サイズになって肩に飛び乗った。


「ちゃんと掴まっててね。何かあったら、肩か顔を叩いて教えて」


ラピスは両手をあげて、さぁ行くぞとアピールしているようだった。

ヤル気満々なラピスに反して、私はかなり不安だった。

とりあえず今回は二人とも死なないように、安全第一で採取しよう。

何かあったら【ダッシュ】しかない!

持ち物を確認して、手袋をはめた。


「じゃあ、ラピス行くよ」


ラピスが私に掴まったのを確認すると、私は一気に走り出した。




門の近くは相変わらずプレイヤーたちが多くて、モンスターに襲われる心配はない。むしろモンスターを探しているプレイヤーのほうが多いので、ある意味この辺りは安全かも。

でも、この辺りは人が多いぶん、採取ポイントは見つからない。

【ダッシュ】でどんどん奥に向かっていく。

少し離れるとちょっとずつ人が減っていった。


「あっ! あそこ寄っていくね」


私は目的の場所までの間で、採取ポイントが見つかればちょっとずつでも採取していた。

あの場所のようにまとまって生えている箇所はなかなかないけど、薬草などはあって困るものじゃない。むしろ出来るだけ集めて帰りたい。

緊急クエストが連続して出てきていることを考えると次は毒消しのクエストが出そうだしね。材料は確か解毒花を使うと攻略サイトで見た覚えがある。この花は見つけたら確実に摘んでおかないと。


「あ、あっちも!」


【ダッシュ】を細かく使いながら、ちょっと摘んでは走って、ちょっと摘んでは走ってを繰り返す。

たまにモンスターも見かけたが、大きめに避けているので攻撃されることもない。必死に【ダッシュ】すれば、ブラックウルフにも追い付かれないようだった。


「ここは結構たくさんあるね~」


集中して薬草類を摘んでいると、ラピスに顔をパシパシと叩かれた。


「ん? 何?」


顔を上げると、ラピスが向こうを指差している。指差す方向を見るとそこには私に狙いをつけたように見えるラビの姿があった。


「ひっ……!」


あまりに油断して採取していたせいで、とっさにどうすればいいのか分からない。


「あ、えっ、あ……」


いざというときは【ダッシュ】のはずが、プチパニックを起こして攻撃しなきゃやられてしまうと考えてしまう。

魔法には杖、杖、杖……と焦るが、走るのに邪魔だったため杖はリングの中に収納されている。

杖が杖がとあわあわしている間にラビが私に向かって猛ジャンプ

で距離をつめてきた。

マズイと思い、反射的に腕をクロスして身を守ろうとした。

しかし、目の前に現れたのは茶色いラビの姿ではなく、なぜか青い髪の子供だった。


「!?」


子供は背中に背負った大剣を振り下ろしてラビを遠ざけると、それを追いかけて、再び斬りかかる。あっという間にラビは光となって消えてしまった。

振り返った男の子は胸をそらせて、自慢気にこっちを見ている。

どうやらラピスがとっさに【人間化】して、戦ってくれたようだった。


「あ、ありがとう」


こっちに戻ってきたラピスの頭を撫でてやると、嬉しそうな誇らしそうな顔をしていた。


「本当にラピスがいてくれて良かったよ」


というか完全に、私は気が抜けていたみたい。ここまで特にモンスターに襲われることないし、いても【ダッシュ】でどうにかなってしまっていたので、ここがモンスターに襲われるフィールドだって意識がなくなっていたかも。

しかも、モンスターに狙われているのを認識した途端パニックになるなんて、ちょっと情けない……。

ここは低レベルのプレイヤーだって勝てる敵しかいないはずなんだから、もう少し冷静に対処できるようにならないと。

そのためには戦って経験をつむのが一番だよね。


「ラピスも大きくなったし、このまま歩いてあそこまで行こうか。敵が出てきたらよろしくね。私も魔法撃つようにするから」


ラピスは元気よく、片手を上げて答えてくれた。そして率先して前を歩いてくれる。

私は今度こそ杖をリングから出して、右手に持って歩きだした。





しかし、結局私が魔法を撃つことはなかった。

モンスターが出て来ても、ラピスが走り出してあっという間に倒してしまうのだ。

敵が複数いたときは、魔法を撃とうとしたのだけどラピスが近くにいると尚更狙いをつけにくくてモタモタしているうちにラピスが全部倒してしまっているという……。

戦う決心したのに私の出番がないなんて、ラピス好戦的すぎるでしょ……。

しかもラピスが倒した分の経験値も入ってきていて、私は途中でLv5に上がったので【ダッシュ】で消費したMPも回復している。

うん、私の【火魔法】いらなかったんじゃない?

このまま戦わずにゲームを進められるような気がするのは錯覚かな?

もっと強い敵になったら私の魔法の出番もあるかもしれないけど、そんな敵相手に急に私が戦える気もしないんだけど……。

私が思わず遠い目になりそうになっていると、ラピスは褒めて褒めてとピョンピョンとアピールしてきた。

まあ、ラピスが率先して戦ってくれるのは私にとってはとても助かるのでいいっか。

私は気にすることをやめて、ラピスの頭を撫でた。



その後も(ラピスが)戦いながらも、茜に教えてもらった場所に無事到着することが出来た。


「じゃあ、この辺りで採取するから、ラピスは警戒よろしくね。何かあったら合図して……って合図ってどうしたらいいんだろう? 手を叩いて音を鳴らしてくれたら……は剣を持っているから無理だよね? うーん、口笛は出来る?」


ラピスは首を傾げている。やったことないのかな?


「こうだよ。こんな感じ」


私は口を尖らせて、ピーーと鳴らした。

ラピスも何度か真似をすると、音が鳴った。精霊って声は出せないけど、音は鳴らせるんだね。


「鳴らせるなら良かった。何かあったらそれで合図してね?」


ラピスはコクンと頷くと、嬉しそうに少し離れたところを走り回りはじめた。

うん、やっぱり公園にきて走り回っている幼児にしか見えないかも。ラピスも遊んでるみたいだし、周りへの警戒は今度こそ私もしないとね。

私は昨日とは少し場所をずらして採取し始めた。



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