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ポーション瓶はなくなってしまったが、生産スペースを借りている時間はまだ30分以上残っている。
早めにログアウトしてもいいけど、せっかくお金を払っているので、まだ何かしたい。
収納リングの中をみると、採取した薬草類以外にラビの肉やブラックウルフの皮などがあることに気付いた。
さっき倒したモンスターたちのドロップ品である。8体分にしては思ったよりたくさんの数が入っている。たぶんラピスが倒した分も私のリングの中にはいるみたい。
「そうだ! このお肉焼いてみようか?」
スキルがなくても、焼くくらいなら問題ないはず。
あの露店の串焼きもラビ肉って書いてあったのだから、このドロップ品でそれらしいのも出来るんじゃないかな?
確かカウンターで生産道具を販売しているって言ってたよね。
私は急いで調理道具を買いに行った。
初心者用調理道具セットはスキルがなくても購入できた。包丁やまな板、鍋やフライパンなどの基本的な道具が揃って5000G。他に塩やこしょう、砂糖など基本調味料セットというのを500Gで購入してブースへ戻る。
思ったより高くて、一気にお金が減ってしまった。
でも衝動買いしたことは後悔してない。あとで【料理】とるもんね。
とりあえずラビの肉を1つ出して、ステーキのような感じに切ってみる。塩、こしょうをして、フライパンで焼いてみた。
「どうかな?」
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・ラビ肉の焼いたもの E
ラビ肉に塩こしょうしてただ焼いただけのもの。美味しくはないが、全部食べればお腹はふくれる。
満腹度 中
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「あれれ……?」
ラビ肉のステーキになると思って作ったのに、ステーキとは認めてもらえなかったみたい。というか焼いたものって……料理名でもないよね?
【料理】がないから?
おいしくないって断言されてるし……。
お腹がすいた時に満腹度をあげるだけのものってことかな?
「一応、食べてみようか?」
一口サイズに切り分けて、ラピスにも手渡す。ラピスは嬉しそうな顔をして受け取った。
さっきのクレープは断られたけど、これは食べるのかな?
自分も手伝ったものはやっぱり味見したいってこと?
ラピスの前で私は一切れ自分の口にいれてみた。
「……」
やっぱりおいしくない……。
肉は固くてパサパサで、独特の臭みが口に広がる。塩で味はついているけど、顎が疲れそうだからたくさんは食べたくない。
うん、これは品質Eに納得する。あの露店の串焼きと同じ肉とは思えないよ。
「ラピス、これ食べないほうがいいよ」
私はラピスが口にいれる前に取り上げようとした。
さすがにラピスにこれを食べさせるのは、かわいそう。
だけど、ラピスは私が取り上げる前に急いで口にポイっと入れてしまった。
「あっ!」
ラピスは口をモゴモゴとするにつれて、眉間にシワをよせる。
「ほら、おいしくないでしょ? ここに出して。ペッしていいから!」
ラピスには固すぎると思うのに、ラピスは頑として出さずにモゴモゴとしている。そうして、最後にはゴックンと飲み込んだ。
「大丈夫なの? 水飲む?」
ラピスは首をふると、またお肉を一切れ手に取ろうとする。
「あ、ダメだってば!」
私は慌てて、ラピスの前から皿を取り上げリングの中に消した。
するとラピスは不満げな顔をしてこっちを見る。
「お腹空いてるの? 茜にもらったハニートーストならまだ残ってるよ?」
ハニートーストをリングから出してみるが、ラピスは首を横に振る。
「いらないの?」
首を縦にふる。
頬っぺたを膨らませて何か言いたそうだけど、何が言いたいのかは分からない。
「あれは食べちゃダメだよ。お肉が欲しいなら、またあそこで串焼き買ってあげるから」
ぶーっとした顔で何か抗議しているが、あれはさすがにラピスにはあげられない。
「ほら、お腹空いてないなら片付けしよ。もうレンタル時間終了みたいだし」
私はラピスの興味を逸らそうと、慌てて片付け始める。
ラピスもしぶしぶといった様子で手伝ってくれた。
私はラピスの頭をよしよしと撫でておく。
うーん、早く話せるようになりたいなあ。言いたいことが分からないってつらい。
とりあえず出来上がった品質Cのポーション13本のうち10本を売って2000Gを手にいれると生産ギルドから出た。
すると、もう現実の時間で夜の0時を過ぎていた。
そろそろ寝ないといけない。
ログアウトしようかと思ったが、次ログインするとなると寝て朝御飯を食べた後になるので、夜時間になる可能性に気づく。夜時間には普通のお店は閉まっていることがある。
「念のため、瓶買っておかないと」
道具屋はお婆さんがやっていたし、きっと夜にはやっていない気がする。
私は瓶を買ってからログアウトすることにした。
噴水近くに行ったので、あの串焼きの露店も探して見たが見つからなかった。
今は、やってないのかなあ? 串焼きを買いだめしておきたかったのになあ。
串焼き屋さんは見つからなかったが、道具屋はちゃんと開いていた
。
「いらっしゃいませ」
今日もお婆さんが店番をしていた。
「すみません、ポーション瓶50個ください。」
「あら、あんたは昨日も瓶をたくさん買ってくれた子じゃないかい?」
「え? はい、そうです」
「ポーションは出来そうかい?」
「出来るようになったんですけど、たくさん失敗したから瓶が足りなくなっちゃって」
「そうかい、そうかい。出来るようになったのなら良かった。無理にとは言わないが、ぜひとも生産ギルドに売っておくれ」
「はい、そのつもりです。さっきも少しだけ売ってきたんです」
「それは助かるよ。ポーション瓶を50個じゃったな。1500Gじゃよ」
「はい」
私は無事に瓶を買うとログアウトした。